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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
58
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2025/06/19 (Thu)
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2005/12/06 (Tue)
昨晩まで裏庭で死んでいた父が
今朝は生き返って
何かの冗談のように
冗談を言いながら食事をしている

自分の胸に手を置けば
小さな鼓動が伝わってくる
それは生きていることの証なのに
多分僕から一番遠い

ネズミに舌を齧られて味がわからない
という父に
今日の味噌汁はしょっぱい
と教えてあげた
そんなことないわよ
母は頑なに言って
そんなことないわよ
もう一度言った

弟はまだ二階で
生まれることの意味もわからないでいる
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2005/12/04 (Sun)
氷、とは名ばかりの
塊のようなものを口に含み
「わたし」は発語した唇は
その陰影を美しく保っている

外套のポケットに
収められた掌には無数の
線が刻印されており
許すことも
許さないことも
留保されていた

ゲートの近くで「わたし」
を呼び止めた青年は
つい、と暗い空を眺めた
夜が明ければ
白い息を吐きながら
来た道を帰っていくだけなのだ

2005/12/04 (Sun)
あそこにいる人が
あなたの本物のお兄さんだ、と
偽物の兄は言った
青空にあんなに高く手を挙げて
いつまで疲れないのだろうか
明日になったら
偽物の兄が大好きな
餡子のお菓子を持って
本物の兄に挨拶に行こう
そう考えているうちに
すっかり朝になり
やっと諦めに似た気持ちになった
2005/12/04 (Sun)
歯科医のジョーが
シカ肉を食べて
司会者の俺は
スピーチすることすら許されず
仕方のない、ナプキンで口元を押さえ
押さえられた口元がジョー
一番くっきりだよ

ジョーは深く椅子に腰をかけているが
よく見ると
椅子に深く腰掛けられているのは
ジョー、お前の方だが
よく見ろ
ジョーと椅子に深く腰掛けられているのは
俺自身だ

俺が余ったシカの角で
砂場を掘り返している間
式は淡々と進み
司会者の俺は
シカ肉を食べることすら許されず
ジョーの輝かしい経歴を
輝かしく紹介すると
背中でジョーと椅子とが重たい

重たくて、俺とジョーとが
昔埋めた戦車のおもちゃを掘り出し
次は滑り台
ああ、重たいなジョーと椅子とが
親友のジョーよ
お前が俺を親友としていないことは
三日前に知った

すべてが終わり
退場するジョーと椅子の
背中と背もたれを最後まで見送る
ハッピーエンドとはこういうものか
もう何も残ってないよ、ジョー
俺もシカ肉食べたかったな
きっと甘かったのだろうな


2005/11/27 (Sun)
ラーメン屋のカウンターで
長い廊下にぐるぐる巻きにされる
あなたも厨房で
ぐるぐる巻きにされている
狭いお店のいったいどこに
こんなに長い廊下があったのだろう
聞けばあなたはこのお店の店長なのだと言う
二人で何回も来たことがあるのに
私には知らないことばかりだ
廊下は冷たいものだと思っていたが
今は誰かが歩いた後みたいに
少し温かい
ぐるぐる巻きにされながら
今まで出来なかった話をして
これからどうするのか意見の交換もしたけれど
二人とも意見がなかったので
ただの交換にしかならなかった
2005/11/25 (Fri)
角の先から尻尾の先まで
数えている間
よだれでベトベトの浴槽に
肩までつかっていると
今日の牛の冷たさが伝わってくる
それはほんの少し痛くて
やはり懐かしい
牛はただこちらを
じっと見つめるばかりだけど
見つめているのは
僕の方なのかもしれない
ドアの向こうから産声が聞こえて
また新しい
牛が始まっている
2005/11/24 (Thu)
丘の上に立って色の無い偏差値について語ろうとすると
バナナの風が熱帯雨林の方角から吹いて
学習ノートの文字は穏やかに飛ばされてしまった

間違えることなく世界にはたくさんのリビングがあって
たくさんの人々が正確に呼吸の真似事をしている
その隣にある誰もいないリビングでは
僕らの不在を告げる回覧板がドアノブに揺れている

リモコンのチャンネルは誤って押された
つけっ放しのテレビでは水浸しのワイドショーが始まった
自転車は補助輪をなくして二回目の角を曲がりなおも曲がろうとした
先生、と呼ばれて振り向いた
その人は先生ではなかった
それでも僕らが先生と呼び続けたので
いつまでもその人は行間で振り向き続けなければならなかった

採点簿には美しい悪口が綴られ
誰もいないリビングの裏庭からは子犬の落下する音が聞こえる
その速度はついに僕らの成長する速度を追い越し
犬小屋は意味の無い記号の渦の中に何度も生まれようとする
やがて司会者の事件は偏差値で終わり
リビングの人々は次々に別れの号令を叫んだ

2005/11/22 (Tue)
野を渡る風が表皮をなぞると
確かに私たちからは
生きているものの匂いがする

ひれ状に並ぶ背中の突起物にさえも
既に意味は付与されているのだ

と、唐突に閃光が走り
どこか、という特定されない場所で
また誰かの空が陥落していった

木漏れ日のある初夏
まどろむ私たちの目は
瞑られるためにあった
2005/11/18 (Fri)
メロスが走っていた頃
大半のメロスは
走ってなかった
セリヌンティウスが王に囚われていた頃
大半のセリヌンティウスは
自由に街を往来していた
少年の青白く細い指は
ページをめくり続ける
昨晩、スタンドの光に誘われて来た
小さな羽のある虫をその指はつぶしたが
今ではきれいに洗われていた
2005/11/17 (Thu)
家屋は言葉のように
優しく朽ち果てていた
時間があればそこかしこで
両親は笑顔を絶やさなかった
幸せな玄関ホール
その壁には今でも
兄と私の指紋が残されていて
静かに機械の匂いがする
足りないものなど何も無かった
という少しの嘘とともに
私たちはきっと
愛されていたのだと思う
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* ILLUSTRATION BY nyao *