プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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テーブルの向こうには
崖しかないので
わたしは落とさないように
食事をとった
下に海があるということは
波の音でわかるけれど
海鳥の鳴き声ひとつしない
暗く寂しい海だった
残した料理にラップをかけた
それは夜明け前
崖に飛び込んだ
わたしの遺書に違いなかった
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鉄鉱石の蜜が街に溢れるころ
虫は人の文字の中で
急激に羽化を始める
かじると化学物質の味がして
その年はひどくうがいが流行った
水は水を乾かし
水は水を空席にする
証言台に立った女の瞬きは
速記官によって克明に記録され
翌日、珍しい化石になるのだった


敷石に降り注ぐ、柔らか
少し離れてある、生に弄ばれた
幼いミズカマキリの死
旧道を走る
路線バス、あれには乗れない
ただの声だから
管理人の男はフェンスをくぐる
その先で交差点は息をひそめ
とてもうまくは思い出せない
男は知っていたのだろうか
そこが空の裂け目だった、と
あっけなく吸い込まれ
後に残されたのは短い夏
そして微量の毒薬


鼓動のように雨戸は共鳴し
残余するものはもう何も無い
火傷の痕は指に育まれ
心の貧しいものだけが
人になることができる
その線をこえてはいけない
黄土色の骨に包まれた肉体
もはやそれは瓦礫
それは言葉


レストランの隅々に
手、枝、へと連なる不ぞろいの断面
戦車のキャタピラーは雨上がりの
ふとした地面を踏み固め
人の背中は人を定義しない
使い古した嘘
のように、また息を継ぎ足して
水の菓子を口に含む


朽ち果てた石
その微かな記憶
落葉樹は閉ざされたが
薄く匂っている
末端という末端に
隙間という隙間に
うずら料理の美味しい店で
わたしは女に求婚した
手の甲の静脈は変わることなく
浮き上がっていた
世界はまだ美しいのか、女は尋ね
知らない、とだけわたしは答えた
夏草の繁茂する河川で護岸工事は続き
明日埋葬される
それは人の形をしていて
確かにわたしたちではなかった
知らない
わたしは繰り返した


夜中に目が覚めて階下に行った
妻が台所でひとり
豆乳を飲んでいるのが見えた
湿った蛍光灯の下、色白の肌が
必要以上に青白く
そして細く感じられた
声をかけずに再び寝室に戻った
翌日、妻が死んだとしても
おそらく驚きはしなかったろう


砂漠の真ん中に
ペンギンの死体があった
穏やかな光の祝福を受けて
左右非対称に腐れていた
耳をすませば
崩れる音も聞こえた
老いた男はか細い腕で
窓を閉めた
風で砂が入るのを嫌った


言葉の近くで
酸素を見ています
午後に置き忘れた椅子から
ずり落ちているあれは
靴の始まり
裏側を覗くと
もう誰もいません
+
金歯の中に広がる曇り空を
飛行船が飛んで行きます
落ちないように
歯医者は泣き続けて
待合室のソファーの上を
男の子が素足で歩いています
+
立っているお巡りさんの影が
風にほどけています
帰らないことは忘れないこと
イルカの足跡を埋める音のそばで
まだ息をしています
+
鉢植えの底で
自分の名前を隠すと
水のように恥ずかしい
埋立地の荷捌場には
春より先にもう
人が来ています
+
水は水の中を流れていきます
太陽の光がゆっくりと反射して
椅子に座っていても
遠いところまで見渡せます
どうして手があるのか
その日はよくわからなかったのです
+
振り返ることなく
本の背表紙だけが
ゼリーのように並んでいます
雨上がりが合図でした
子どもたちは一斉に走り出し
青い陸橋を渡り終える頃には
雲の間から星の匂いがしてきます
+
深夜、童話は考えます
どぶ川に沿って行く
細長い貨物列車の続きを
眠っている人が輪郭を曖昧にするので
おさめようとするのですが
また溢れ出してしまいます