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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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2025/04/23 (Wed)
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2007/02/21 (Wed)
上司のお母さんが亡くなったので
お通夜に行くことになった
周りの人の香典をいくつか預かり
初めての列車に乗った

これから何度乗る機会があるのだろう
列車は住宅街を抜けるように走った
民家の庭先や
木造アパートの小さな灯りをかすめながら

斎場はお焼香の良い匂いがした
上司のお母さんは穏やかに微笑む
一枚の写真だった
子供一同と書かれた花輪
来年退職する上司もその中におさまってる
いつまでも子供として

外に広がる闇は
やがて明日へと引き継がれていく
という迷信を最初に考えた人は
きっと心の優しい人だ
二回目の列車に乗って帰った
2007/02/17 (Sat)
咳をしたらたまたま側にいた
隣の課のえむさんが
フルーツのど飴をくれた
えむさんがフルーツのど飴を好きだなんて
初めて知った

えむさんは僕より十歳くらい下の女の子だけど
背は僕より十センチくらい高い
キリンさんのように人より頭ひとつ高くて
時々窓から外を見ている
きっと十センチ上の空には僕の知らない風が吹いていて
えむさんにしか見えない草原が見えてるのだろう
でも人と接するときは上から見下ろすようなことはなくて
なるべくその身体を折りたたむように話す
そして小さなお菓子を勧めてくれたりする

えむさんはこの春に結婚して退社する
婚約者はえむさんより五センチ背が高いそうだ
もうお腹の中には二人の赤ちゃんがいる
順番間違っちゃったね
ってからかうとアハハと笑った
セクハラまがいの失礼な言葉だったのに
アハハと笑った
えむさんの笑顔はいつもいい匂いがする

それから一ヵ月たって隣の課にいくと
えむさんの机の周りは小ざっぱりと片付いてて
えむさんは後任の人に引継ぎをしていた
いつものようにその高い背を折りたたんで
もしかしたらえむさんとは
これから一生話をすることもないかもしれない
つまらない感傷かもしれないけど
えむさんも僕もそれぞれに大切なものを知ってる
大切なものに順番なんてないことも

えむさんがひょいと首を伸ばして
窓の外を見た
誰も見たことのない草原が
明日窓の外からなくなる


2007/02/17 (Sat)
家の中に線路が開通した
これからは毎日
海へと向かう青い列車が
部屋を通過していくそうだ
最寄の駅はいつも利用している駅だけれど
春になったら小さなお弁当を持って
二人で海を見に行こう
君とそう決めた
お鍋の吹きこぼれる音がしたので
君が慌てて玄関から出て行く
百メートル先の踏切を渡り
また百メートル
キッチンに走って戻ってくる
2007/02/15 (Thu)
石ころが落ちていた
少し透きとおってきれいだったので
拾って帰った
こんなもの拾ってきて
母は決してそう叱らなかった
しばらく手で触ったり眺めたりしたあと
かわいそうだから放してあげて
とだけ言った
今思えば
母にとって
一番つらい時期だった
2007/02/13 (Tue)
ちりとりの群れが
空を飛んで行く
南の方へと
渡る季節なのだ
僕らはその姿を見送り続けた
トリはトリでも飛べないトリは?
隣で君がつぶやく
答えなんて
いつか見つかる
2007/02/12 (Mon)
崖っぷちでお父さんが寝ていた
風邪などひかないように
布団をかけてあげた
ああ、これは夢なんだな
と分かって目が覚めると
崖っぷちで寝ている僕に
お父さんが布団をかけてくれていた
細い腕だった
僕は昔みたいに気づかないふりをした
2007/02/11 (Sun)
家に帰ると門が壊れていた
妻と娘が代わりに立っていた
家の中では妻の短大時代の
同級生だった山本さんがいて
食事の準備をしていた
十年ぶりですね、と言って笑った
煮物の味見をしてあげた
それから娘の連絡帳を確認して
算数の宿題をした
夕食は山本さんと二人で食べた
最後にオレンジをふた切れ食べ
門の役目を交代した
家の中から僕のいない食卓の
笑い声が聞こえてくる
山本さんは昔のように
珍しいウサギの話をしてくれた
髪が風に流れた
その髪に憧れていた時もあった
そう思いたかった
夜はみんな寝た
門の無い家で寝たのは初めてだった
2007/02/11 (Sun)
道路に似た人がいたので
間違えて歩いてしまった
慌てて謝ると
よくあることですから
道路のように笑ってくれた
よくあることですから
そう言って
許したことや諦めたことが
かつて自分にもあった
振り返ると
さっきの人はまた長く伸びて
アスファルトを割ったみすぼらしい花が
どちらに咲いているのか
区別もつかなかった
2007/02/08 (Thu)
踏み切りで電車がすれ違った
「電車と電車がおおまちがいだよ」
坊やは言った
大間違いするわけにもいかないので
電車は最後尾が離れる瞬間
少し間違えてみせた
「あら、間違えちゃったみたいね」
そう言って母親は
坊やの手を握り直した
春の陽射しみたいに
何処かに行ってしまわぬように

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* ILLUSTRATION BY nyao *