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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
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57
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男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2025/04/07 (Mon)
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2010/11/12 (Fri)


ハエが世界を一周した
けれどとても小さかったので
誰も気づかなかった

ハエは自分の冒険を書き綴った
ジャングルの中で極彩色の鳥の
くちばしから逃げ回った日々を
港のコンテナの陰でじっとして
凄まじい嵐をやり過ごしたことを
けれど字がとても小さかったので
誰も読めなかった

今度はきちんと読めるように
拡大して印刷してみた
けれどハエの言葉など
誰も知らなかった

おまえは人間にでもなったつもりか
と仲間のハエにからかわれた
挙句の果てには人に殺虫剤を吹きかけられ
追い払われる始末だった
ハエは力いっぱい飛んだけれど
やがて力尽き
草の上で輝く朝露の中へと落ちた
月に行く夢を見ていた
 
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2010/11/10 (Wed)
 
 
クジラの背中に
独裁者の豪邸が建った
どこよりも高く
民衆を見下ろせた
一匹のカマキリが飛んできて
両手の鎌でそれを壊した
拍手喝采のなか
クジラは大きな口を開けて
悠々とカマキリを飲み込んだ
そして水のない海で
クジラは乾いていった
 
 
2010/11/08 (Mon)


忘れかけていた三行の約束を
同時通訳していく
身体が沈んでいくのがわかる
劣化して重たくなった雨傘みたいに
 
トイレットペーパーが
自動で巻き取られる音がする深夜
ブルペンでたった一人
来るはずの無い球を座って待ち構えているのは
キャッチャーの大切な友だち
 
窓ガラスに挟まれた仔牛をかじり
スルメの味がするので
乾物!と泣き出してしまったのは
どこの誰だったろう
 
壊れた椅子を顕微鏡で覗くと
天体望遠鏡を覗いている昔の自分と
レンズ越しに目が合った
いろいろなことがあったよ
いろいろなこと、としか
言えないくらいに
 
 
2010/11/05 (Fri)


今日買ったばかりの枕が
突然海になる
髪が濡れて痛む
航行中の大型の帆船が
三半規管を横断する
 
交番の裏側をパトロールしている
詐欺師だった父は
水を泳ぐことができないので
まだ車の運転免許を取得できない
 
金魚すくいの本当の意味は
金魚を救うことだという話を信じて
僕は何度も挑戦し
沢山の出目金を
短命に終わらせてしまった
 
枕を返品しようと思ったけれど
レシートをもらい損ねた
海なんてお金では買えないと
知っていたはずなのに
 
2010/11/04 (Thu)


きみの肩こりが酷い満月の夜
ぼくは錆びた味のみかんを食べてる
朝からコタツがあり得ない
それでも決して負けはしない
ぼくは白い黒ヤギ
 
自由を求めて飛び跳ねる
自由の意味もわからないまま
海も、砂漠も
ビルも、メガネも
全部跳び越えてみせる
わたしをこのまま奪って逃げて、なんて
演歌ですか、きみは
そう言うぼくは
空も飛べない白い黒ヤギ
 
だからいっぱい階段をつくって
あの満月まで
きみを奪って逃げていく
だからしっかりしがみついて
振り落とされたら音が寂しい
 
そしてあの煌々とした光の中
肩を揉んだり
息を吸ったり
息を吐いたり
 
見たものすべてに
名前を付けたり
泳いだり
泳がなかったり


2010/11/03 (Wed)
 
 
色鉛筆のケースの中で
弟が眠っている
一番落ち着ける場所らしい
父と母はテレビを見て
時々、笑ったり泣いたりを
繰り返している
ケースから出された色鉛筆で
僕は絵に色を塗る
外は雨
昔から家には屋根が無いので
三人とも傘を差している
弟の幸せそうな寝息が聞こえる
画用紙が雨に濡れて
うまく塗れない
その度に、色のないものを
描けば良かったと思う
  
 
2010/11/02 (Tue)
 
 
見たことのない言葉で
あなたと話す
関係のある足音と
関係のない足音の狭間で
 
時々、古い橋の匂いがする
目を凝らすと橋の形はあるのに
渡る人々のため息が聞こえてこない
もう誰にも必要とされない橋がある
そのことだけが事実としてある
目の前を冷たくなったタイヤが
ひとつ転がっていく、まだ
車の一部のつもりでいるらしい
 
私たちは話した
空調の室外機から
飛び降りた時の幼い衝動を
木の枝についていた貝殻虫を
指でこそいだ日の袖の長さを
 
本当はもっと
大切な話をしていたはずなのに
あなたが見つからない
あなたと探すけれど
あなたがいないので
いつまでたっても見つからない
あきらめて帰ろうと思っても
あなたがいないので
お別れの言葉も言えない
  
 
 
2010/10/30 (Sat)
 
 
本の索引をめくる
たくさんの指紋がついている
たどって行くと
エスカレーターがある
エスカレーターに乗って
植物の茎を昇っていく
やがて一枚の葉が終点となる
葉の先端には小さな空港があって
一匹の蝶がとまっている
発車ベルが鳴り響く
あれに乗らなければ、と思い
懸命に走る
葉が揺れた拍子に転び
蝶は発車してしまう
次のに乗ろうとするけれど
先程の蝶がこの季節の最終便である旨
アナウンスが流れる
もとの所に戻ろうとしても
下りのエスカレーターは見つからない
仕方なく本を閉じる
ふと指先を見ると
指紋がすべてなくなっている
来年の同じ季節になれば
誰かが待っていてくれる気がする
  
  
2010/10/28 (Thu)
 
 
酸性雨の結晶が
そこかしこに降り注ぎ
背負った荷をさらに重くする
だからいつしか私は
四足歩行を諦めてしまった
抑揚のない耳鳴りの中
規則正しく並ぶ高層建築物の群像
そのわずかな隙間に
羽だけになった甲虫が
数ミリの厚さでうずくまっている
突然のビル風に吹き上げられ
失った空を再び取り戻す
何と取引をすることもなく
 
 
2010/10/26 (Tue)


ほの暗い飲食店で
たった一人食パンを食べている
六枚切り位の厚さだろうか
食べ終わると給仕が来て
新しい食パンを置いていく
本当はご飯の方が好きなのに
運ばれてくるパンばかりを
延々と食べ続けている
生きるために食べているのか
死ぬために食べているのか
わからないけれど
たとえ生きていても死んだとしても
それは結果でしかないのだろう
口の中の水分が奪われ
喉が渇く
せめて牛乳くらいは欲しい
でも牛乳を飲むと
腹を下す癖が今でもなおらない
次のパンが運ばれてくる
暗い店内で給仕の顔はわからない
ただぼんやりと見える狭い背中は
かつて見たことがある
自分の後姿によく似ている
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *