プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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大根の上に
小さな虹がかかっている
きみは虹を切らないように
器用な手つきで
大根を切っていく
飛行機がいつもより
低く飛んでいる音が
屋根の上にある空から
聞こえてくる
帰りたい、と
きみはつぶやく
幸せも不幸せも
ごちゃごちゃのごった煮になって
そして変質し続ける
そんなものに翻弄されて
毎日がある
本当は虹なんて最初から無かった
ただぼくらは
虹が見たいだけだった
今日の夕食はブリ大根である
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グレープフルーツの皮膜に包まれて
団地のベランダなどから
沈んでいく
この町には地図というものがないから
日陰を歩いているだけで
まれにこのようなことがある
セミの鳴き声が聞こえるけれど
耳を澄ますとそれは
ぜんまいを巻く音だったり
落葉の裏側の匂いだったり
もういない人の面影だったりする
いずれにせよ
セミには用のない町なのだ
底まで沈んではいけない、と
上の方を目指して手足をかく
町の特産物でもないのに
時々、誰も知らないグレープフルーツが
転がっていることがある


テレビでクイズ番組を放送していた
面白そうだったので
テレビの中に入ってみる
星空のきれいな高原みたいな場所に出る
子どもの頃、幸せな気持ちで
家族と一緒に来た気がする
振り返るとテレビがあって
先ほどのクイズの続きをやっている
四番、と正解を言っても
外にいる人の回答など
誰も聞いてくれない
早く部屋に戻って続きを見なければ、と思う
テレビの中に入れば
向こう側は部屋かもしれないけれど
入る方法がわからない
おぼろげな記憶を頼りに
部屋を目指して歩き始める


誰が決めたのかわからないけれど
いつの間にか
どこまでも一列に並べられた
みかんの上を歩くことになっている
一歩踏み出してみる
みかんは潰れ
小さな悲鳴が聞こえる
なるべく潰さないように
大股で歩いてみるけれど
やはり踏んだみかんは潰れ
その度に悲鳴があがる
夕暮れとなり
自分の影が前方に長く伸びる
振り返ると
潰れたみかんの周りに
助かったみかんが集まって
ひそひそとした言葉で
お葬式のようなことをしている
このままどこまで行くのか
わからないというのに
夕日だけは
はっきりと見える


公園の水たまりに小さな魚が一匹いた
海水魚のようだった
昨晩の雨に迷って
ここまで泳いできたのかもしれない
このままでは水が干上がってしまう
魚は少しずつ弱っているように見える
自分の家には
魚が飼えるほどの海もないし
かといって容器などに入れて
家が海臭くなるのも嫌だ
仕方なく水たまりごと両腕に抱えて
海に帰すために駅へと向かう
いつもの出勤とは反対ホームの下り列車で
海まで行くことにする
会社には体調が悪いと連絡を入れておいた
誰が、とは言ってないので嘘にはならないと思う
列車は通学中の学生や通勤途中の人たちで
多少混んではいたけれど
あと五つほど駅を過ぎれば
おそらく席に座れるはずだ
そこから更にいくつかの駅を過ぎると
車内に残っているのは
海に用事のある人だけだろう


水のノートに
垂線を引いていく
印刷された罫線と縦横になって
小さな枡がいくつかできる
溺れないように
慎重に枡に指先を入れてみる
体温より少し低い水の温度が
むかし一緒に寝ていた人の
二の腕の冷たさに似ている
指を動かすと
小さな波紋が他の枡へと
徐々に広がる
今日は見つからない言葉が
いくつかあるので
何も書かずにノートを
そっと閉じる
何度かやって慣れたはずなのに
水滴が数滴こぼれて
濡らすのが好ましくない所を
濡らしてしまう
昨日と違って
外では雨が降っている
黙っていても
音でわかる


夜汽車が乾いた舌を出して
すべての生き物の上を
通過していく
右手にいる花崗岩の軟体動物が
左手に移りたがっているのに
左手はまだ
公園の砂場で遊んでまま帰ってこない
雨上がりの夜空に
うっすらと虹がかかっている
消える前に願い事をすると
叶うと言われているけれど
そのためにはきっと
誰かの何かが失われるのだろう
出口を探せなかった甲虫が
冷たい銀行の床の隅で
亡骸にのみ許された沈黙を保ち続けている
もしかしたら既にその遺伝子は
柔らかい土の中で
卵となっているのかもしれない
メガネをかけている人を
ひとり思い浮かべてください
と言われる度に
違う人を思い浮かべてしまう癖が
今でもまだぬけない


手の子どもが
粘土をこねている
いくらこねても
粘土は粘土の形にしかならない
粘土を裏返してみる
にぎやかで美しい色の都会が現れる
足の子どもは
都会に行きたがる
昨日草むらの雑草で
切り傷をたくさんつくったばかりなのに
でも手の子どもは
耳の子どもが
「ひと」という言葉を聞くと
悲しいような気持ちになるのだった


軟骨で出来たビルに
バッタが遊びに来ます
電信柱の破片が砕けて
少量の砂になります
+
過って網戸に
大きな穴をあけてしまう
その大きな穴から
たくさんの海が入ってきます
+
夏の形が終わります
一筋の汗とともに
クラゲに刺されないように
人は一生を過ごします
+
アスファルトが溶けて
人に変わります
そして草むらの奥へと進みます
自分の名前を探しに
+
雲を両腕に抱えたまま
少年はどこまでも走ります
小さなポケットから
時間がこぼれ落ちています


ふと、わたしは紙になる
紙になったわたしを
見知らぬ女性がか細い指で折る
骨も関節も内臓もない身体を折ることは
とても簡単なことらしい
女性は几帳面に折り目をつけ
やがてわたしは一羽の折鶴になる
折鶴
鶴という名前がつくのに
空も飛べない
願いをかけられると
ベッドに寝たままの男性の側に置かれる
動くことすらできない自分に
願い事を叶えられるはずもない
せめて見守ることくらいしかできないのに
自分の目がどこにあるのかも
もうわからない
本当の悲しみなんて知らないけれど
悲しみのようなものなら知っている気がする
それならば一生を終えるまで
自らに問い続ける
その悲しみのようなものが
自分の満足のためだけなのではないか、と