プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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明日晴れたらさ
勝浦に行こうかな
仕事なんて休んじゃってさ
海が見えるよ
朝市だってあるよ
そんな時間には
着かないかもしれないけれど
外房線に乗るんだ
上総一ノ宮行きや大原行きじゃ行けない
安房鴨川行きか勝浦行きに乗らなきゃ
勝浦に行くのに勝浦行きに乗るなんて
とても平凡で素敵なことじゃないか
勝浦に行くには
長者町、三門、浪花、御宿なんて
由緒正しい感じのする駅を通過するんだ
ところで由緒正しいと言えば
僕の苗字は「武田」なんだけど
よく武田信玄の子孫?って聞かれる
そんな時は僕の父は福島県出身なんですよ
って答えるけど
武田氏の中には東北まで逃げた人たちもいるらしいよ
なんて真面目な顔で言う人もいる
よしてくれよ、僕のご先祖様は百姓で、
あっ、百姓って今は差別用語だっけ
農民、そう農民でさ
明治になって何でか知らないけど武田姓を名乗ったんだ
江戸時代、農民は姓を名乗れなかったけれど
実は農民にも姓はあったという説も、まあ、あるそうだ
出典は「ウィキペディア」ね
武田の一族の中には
開拓のために北海道に渡った人たちもいる
もう武田は名乗ってないけどね
その子孫のうちの一人は時々千葉まで遊びに来たりした
僕と遊ぶのが上手なお兄さんだったよ
それはそれとして
明日晴れたら、の話だったね、なんて
僕はいったい誰に話しかけてるんだろう
もちろん、これを読んでくれている人にだけど
そんな人いないかもしれないけれど
いずれにしろこんな馴れ馴れしい文体は
「ライ麦畑でつかまえて」
のくそったれの主人公みたいで
いい年したおっさんの使う言葉じゃないね
だから真面目に書くよ
最後くらいは真面目に
ここ最近、朝起きると
何かを失ってしまった気持ちになる
毎日、毎日
何かをひとつずつ
失われたものは
いつも優しくて
名乗らないから
何を失ったのかも
わからないけれど
明日晴れても
勝浦には行かないだろう
もしくはそうでなければ
明日晴れないことを
知ってて言ってる
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深海魚の朝
濃くなる陽射しが
少年とベッドとの境界線を
徐々に明確にしていく
窓を開けると
雨上がりの観覧車と
同じ匂いがする
生まれてくる場所を
間違えたわけではないと思う
ただ、時々
少年は何の変哲もない自分の背中を
恥ずかしく感じてしまう


回ることをやめた
ライン
過程と工程の
限りない
狭間で
先端で
血小板の
ひとつひとつまでもが
記憶している
置き去りにされた
メモ書きの表面がたてる
微かな音を
風に聞きそびれたことのいくつかを
口の中で転がせば
ライン
安い酒の臭いがする海岸に
うちあげられた深海魚の
口から出ている
私の内臓
自動扉が開く
空から落ちる水を
雨、と呼ぶようになってから
何年生きたことか
生乾きのまま
ライン
足跡に消える


身体が温かくなる
身体が柔らかくなる
私は自覚する、
私の挨拶を
葉の裏をスカイ
色をした特急列車は走り
指からの分泌物で
私は窓ガラスに
ひとつだけの
さよなら、を描く
そして走る
やめて、
走る
自らの中を自らの中で
真っ直ぐに直線
街がまた夕暮れに満たされ
夕暮れが身体に満たされる
頃になると
葉は不在の言葉となる
役割を終えたステイションが
安らかにざわめき始める
指先の中へと
先へと


横隔膜、という膜がある
橋の上を歩いているときに
初めて知った
何かの香料の良い匂いがしていた
早く帰りたかった
知っていることが増えて
もっと上手に嘘がつけると思った
上手でも下手でも
嘘は嘘でしかない
なんて気づかなくても
生きていけるはずだった


雨が魚の中に入る
滑らかな質感でバスが流れていく
タクシープールの人たちが性器まで濡らして
蝶番のついたドアの開閉に忙しい
窓に沿って座り
ベッドがあれば眠ってしまう
私はぴたぴたとした足音で
何軒かのお得意様をまわり
湿った手で印鑑を押してもらった
そのうちの数人は私が生まれたときには既に
生まれたことのある人たちで
名前を思い出せない人とは
いっしょになって名前を考えてあげた
側溝の近くで知らない女の人が
知らない犬を、ナナ、と呼んで
可愛がっている
よせばいいのにひっそりとその後を
物流会社の倉庫も流れていく
魚は煮つけに限る、と思い
何度も思ったけれど
そんな台詞
今までたったの一度も
言ったことがない気がする
鞄に入りきらない水が溢れ出してる
私も流れていく


夏の正午に駅が沈む
誰かが思い出さなければ
なくなってしまうかのように
向日葵が咲く、その近くで
若い駅員が打ち水をしている
息づかいは聞こえなくても
肩を見れば呼吸をしているのがわかる
反対側のホームに列車が到着する
誰も降りず、誰も乗らず
海のある町に向かって出発する
あと六分、列車は来ない
あと六分私はここにいて
あと二十数分後には
ここよりも賑やかな人ごみの中にいる
ほんの一瞬、建物と建物の間から
向日葵が見える場所がある
私だけの秘密のはずなのに
みな足早に歩いていても
そのことを知っている様子で
一瞥すると
再び呼吸を始める


右手の人差し指がちくわの穴に刺さって
抜けなくなってしまった
ちくわはとても嫌いなので
食べるわけにもいかない
そのままデートに出かけたけれど
あいにく恋人もちくわが大嫌いなので
食べてもらうわけにもいかず
恋人は始終不機嫌そうにしていて
道の途中でどこかに行ってしまった
右の耳が痒くて掻こうとしても
ちくわが邪魔で上手に掻けない
かといって他の指では駄目なのだ
右手の人差し指とは気持ち良さが違うのだ
何とかして抜かなければならない
ここはひとつ逆転の発想が必要、と思い
引いて駄目なら押してみろと
押してみると指は奥まで入り込んで
ますます抜ける気配がない
こんなの発想の逆転じゃない
指がちくわに刺さったと思うからいけない
ちくわに指が刺さったと思えばなんとかなる
なるわけがない
交番に行っても
民事不介入です、と断られ
病院に行こうとしても
こんな日に限って犬猫病院しか見つからない
専門家にみてもらいにちくわ屋に行ってはみたが
生ものですからお早めにお召し上がりください
と丁寧に教えてもらった
すれ違う人がみな
かわいそうな人を見る目で通り過ぎる
確かに自分は今かわいそうな人かもしれないが
おそらくかわいそうな人の意味が違う
気がつくととっぷりとした夕暮れで
ちくわの穴から覗けば
夕日がきれいに見えたかもしれない
でもちくわは抜けないし
相変わらずちくわが嫌いだから穴を覗くのも嫌だ
このまま放っておいたら腐ってしまう
腐ったちくわなど、腐ってないちくわより嫌いだ
冷蔵庫に入れるしかないのだが
ちくわは一向に抜けない
ならば自分ごと冷蔵庫に入るしかあるまい
人として生まれてきたからにはいつか冷蔵庫に入る日が来る
漠然とそのような覚悟はしていたけれど
まさかちくわのせいでこんなことになるとは思いもよらなかった
扉をしめると暗くて寒い
自分が入るスペースを確保するために
食べられるものはすべて外に出してしまった
ちくわが非常食になるのが
せめてもの救いだった


下着売り場で羽化したセミたちが
越冬のために南へと渡って行くのを
ぼくらは最後まで見届けた
空の遠いところにある白い一筋の線
あれは飛行機雲じゃない
だって、ほら
指で簡単に触れる
葉の中を葉が落ちていく
水の中で水が溺れる
文字の中で文字が沈黙してしまう
抜殻を集める作業の途中
ぎざぎざした硬いところで
ぼくは指を切ったのだった
セミがたどり着く国境近くの小さな村
廃屋に忘れ去られた手づくりの
粗末な人形のすぐ側で
小銃はもう何も壊さず、何の命も奪わず
ゆっくりと朽ち果てていくだろう
誰に見届けられることなく
抜殻を集め終えると
ぼくらは柔らかな記号のように
身体を曲げたり伸ばしたりする
そして
あなたは便箋になる
ぼくは封筒になる


深夜の冷たい台所で
古くなった冷蔵庫が自分で自分を解体していた
もう冷蔵庫であることに
いたたまれなくなったのだ
時々痛そうにはずしたりしながら
それでも手際よく仕事を進めていった
徐々にその面影をなくし
最後にコンセントを抜くと
すべての作業は終わった
翌朝床の上には中に入っていた食品と
ばらばらになった部品が
丁寧に並べられていた
何に必要だったのか
初めて見るような部品もたくさんあって
めずらしかった
別れの手紙を探してみたけれど
冷蔵庫に文字が書けるわけもないし
自分だって
感謝の言葉ひとつかけたことなどなかった
日持ちの悪そうな食べ物は捨てて
他のものはとりあえず涼しい所に置くことにした
郊外の家電量販店に行って新しい型のものを注文した
ばらばらになった冷蔵庫を引き取れるかは状態を見て
と言われた
家に帰り名前のわからない金属製の小さな部品を
日あたりの良い庭の隅に埋めた
しばらくして埋めた所から若い色の芽が出てきた
偶然だと思うけれど
花の咲く植物かもしれない