プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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こんにゃくの降る街を
君と歩く
手をつなぐのは
二人に手があるから
理由はそれだけでよかった
子どもたちが積もったこんにゃくで
だるまを作ろうとしている
それは無理なことだ、と
大人は教えようとするけれど
彼らはまだ
不可能という意味を知らない
やがてその意味を知り
やがてそのことに傷つき
やがて何も感じなくなる
その一連の過程を
悲しい、と言うには
僕らは年を取りすぎてしまった
幸せ、不幸せという二つの言葉だけで
すべてが言い表せる
と思っていたあの日も
こんにゃくが降る街を
君と手をつないで歩いた
今日よりもたくさん降っていたはずなのに
その話をすると
僕らの記憶は食い違った
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どこかの外れのような野原に
ひっそりとメリーゴーランドはあった
白い馬にまたがると
むかし死んだ友だちが背中を押してくれる
メリーゴーランドがきれいな音楽とともに
ゆっくりと回りだす
友だちは遠くで手を振っている
その笑顔が懐かしくて
もしかしたら死んでいるのは僕の方ではないのか
という気持ちになる
ポケットの中に入れたこんにゃくで
ズボンが湿っている
手を突っ込むと
すべすべとした弾力で押し返してくる
その手触りだけが
僕と今の僕の生を
わずかにつなぎとめてる


手紙を出す用事があって
エレベーターを待ってる
扉が開く
エレベーターの中が
こんにゃくでいっぱいだったので
乗らずにに見送る
あんなに沢山のこんにゃくを積んで
あのエレベーターはどこまで行くのだろう
もう二度と来ない気がして
階段で行くことにする
階段の一段一段すべてに
こんにゃくが敷き詰められている
この階段を使うには
資格や資質のようなものが必要だと思うけれど
自分がいったい何であるのか
教えてくれる人も見つからない
封筒に入れたこんにゃくの水分で
宛名も自分の名も滲んで
美しい他のものにみえる


こんにゃくを買いに出かける
いつものスーパーでは売り切れだった
少し遠くのスーパーでは見つからなかった
少し遠くの別のお店では
こんにゃく以外のものならあるのですが
と残念がられた
昨日まではあんなに並んでありふれていたのに
一晩でこんにゃくは皆どこかに行ってしまった
こんにゃくを使わなくてもよいものにしようと
料理の本をめくってみるけれど
昨日まで見ていたものは
本当はこんにゃくではなかったのかもしれない
そう思うと
自分がここにいるべきではない気がして
すべてのページに折り目をつけてしまう


テーブルの上に
こんにゃくがある
窓の外では
桜の花びらが少しずつ
風に散っている
白い磁器の皿にのせられたまま
誰に忘れられたのか
いつまで忘れられるのか
蒸発した水分の量だけ
その身を軽くしながら
敷地内の停留所
こんにゃくにも忘れられた
夜勤明けの僕が
駅までの巡回バスを待ってる


砂時計の砂が落ちていく
のをあなたは見つめている
すべての砂が落ちてしまうと
黙って逆さまにする
一日がその果てしない繰り返し
あなたにとって時間の単位とは
どこまでも続く砂漠だった
そしてそれはまた
二度と帰ることのない
あなたの遠い旅路に違いなかった
表情のなかった口元が
ふと緩む
旅先で何か
嬉しいことがあったのだろう


舌の根が乾かぬうちに、駅
年を取った男の人が
魚の燻製や塩漬けのようなものを
車の荷台に積んでいる
濁った金属製の手すり
この街で指紋のいくつかは
言葉と同じ程度の意味を持つ
つまりそれは
言葉と同じ程度の意味しか持てない
コンコース、行き来する柔らかい
背中の人々
どうか記憶しておいて欲しい
誰かの命を奪うことで
感謝される誰かがいるということを


上り列車の中を
下り列車が通過していく
線路脇の草むらでは
無縁仏となった墓石が
角を丸くし
魂と呼ばれるものの多くは
眠たい真昼の
些細な手違い
ひと夏を
鳴くことで生きた蝉の成虫が
暗い側溝で今
息絶えようとしている
そのような瞬間にも人は
遺言を残すことに
忙しくしている


泡の中に階段
階段の突き当たりに崖
飛び込んでごらん、ウールだよ
と言って
飛び込んでいく民兵たち
砕け散ったポケットの中に
鉄屑
こぼれ落ちた鉄屑の雫で
埋め尽くされた野原
野原にたたずみ
花になりたいとひたすら願う少年
少年の目の中を泳ぐ金魚
そして安らかに
溺れている金魚


夜半から降り始めた砂が
やがて積もり
部屋は砂漠になる
はるか遠くの方からやって来た
一頭のラクダが
もうひとつのはるか遠くへと
渡っていく
わたしは椅子に腰掛け
挨拶を忘れてしまった人のように
耳抜きの方法を反復し続ける
窓の外に降り積もる雪が
記憶の中にある骨みたいに白くて
もう掌にはすくえない