プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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2005/10/31 (Mon)
小詩集「書置き」
部屋に突然インドがやって来て
勝手にインダス川を氾濫させるものだから
部屋は水浸しになるし
大切にとって置いたものも
すべて流されてしまった
これは何の冗談だ、と
食って掛かってはみるものの
インドは冗談の通じるような顔つきではなく
どこが顔なのかもわからないまま
忽ちガンジス川までも氾濫させた
+
空から降りてきたつり革に
僕はつかまっている
どこか遠くの国では
つり革につかまりたくても
つかまれない人がたくさんいるのに
これはいったい何の手続きなんだろう
走馬灯のようによみがえるのは
雨戸の開け閉めとか
芯の取替えとか
そんなことばかりなので
まだつかまってる
+
穴の開いた公務員が
左手をその穴に通しながら
僕の書置きを右手で審査している
窓口、とは名ばかりの
窓の無い唇から溢れる言葉は
どれもこれも優しいが
何一つとして救いではないし
とどめでもなかった
手続きは粛々と進み
すべてが終わると
入口と書かれた扉から
僕は外に出されてしまう
+
手足が不自由になって
それから
リモコンも家出をした
隣の部屋では
協会長と事務局長が
言い争ってるのが聞こえる
窓辺ではいつまでも
ホースが絡みついている
+
気がつけば
鳥かごの中には鳥がいる
けれど気がつかないので
いつまでたっても鳥はいない
何故こんな仕打ちをしてきたのだろう
そろそろ気がついても
良いころかもしれない
そう思うと
鳥かごの中には自分がいる
+
朝から君の背中が
海になってる
掻いてあげると
さざ波が立って
指先が塩味の濡れ方をする
肩甲骨のあたりには
美しい砂浜が広がり
僕が僕の形をしたまま
打ち上げられているのがわかる
気持ちいい?
我ながら馬鹿なことを訊いたと思ったが
気持ちいい
と君は僕の知っている言葉で言った
+
人が書置きをしているとき
僕は眠っている
僕が書置きをし始めると
人はどこに行ってしまうのだろう
外に向かって
私は開かれた窓だが
空の答えをまだ知らない
+
この
が
呆気も無く
転がっていて
うなじのいやらしい
馬鹿と野郎が
!
は
備品なのか
消耗品なのか
さんざん問いただしている
うちに
すっかり
最初から何もないような
シネマを沢山見た後で
刺だらけのサボテンを
君はポケットにしまった
+
公共の宿だった
山間の道をバスで三時間
紅葉の坂道を上ってきたはずなのに
仲居さんの着物の裾は
海岸でセイウチを洗ったかのように濡れていた
もちろんそれはレトリックの話で
仲居さんが本当にセイウチを洗ったのか
僕は知らないし
多分仲居さんも知らない
夜、部屋の電気をすべて落とすと
他に瞑るものが無いので
眼だけを瞑って寝た
笑わないで欲しい
このまま死んじゃうのかもしれない
と思った僕の弱さを
+
もっと優しく
あなたを発音したい
あなたは僕の書置き
僕のすべてを記憶する
唯一の証人
あなたが夕食の支度をしている間
僕は風呂の掃除をする
誰もいないリビングのテレビから
刑事になりきった役者の
罵声が聞こえてくる
そのような優しさで
あなたをもっと発音したい
二人で今日も
たくさん生きてしまった
勝手にインダス川を氾濫させるものだから
部屋は水浸しになるし
大切にとって置いたものも
すべて流されてしまった
これは何の冗談だ、と
食って掛かってはみるものの
インドは冗談の通じるような顔つきではなく
どこが顔なのかもわからないまま
忽ちガンジス川までも氾濫させた
+
空から降りてきたつり革に
僕はつかまっている
どこか遠くの国では
つり革につかまりたくても
つかまれない人がたくさんいるのに
これはいったい何の手続きなんだろう
走馬灯のようによみがえるのは
雨戸の開け閉めとか
芯の取替えとか
そんなことばかりなので
まだつかまってる
+
穴の開いた公務員が
左手をその穴に通しながら
僕の書置きを右手で審査している
窓口、とは名ばかりの
窓の無い唇から溢れる言葉は
どれもこれも優しいが
何一つとして救いではないし
とどめでもなかった
手続きは粛々と進み
すべてが終わると
入口と書かれた扉から
僕は外に出されてしまう
+
手足が不自由になって
それから
リモコンも家出をした
隣の部屋では
協会長と事務局長が
言い争ってるのが聞こえる
窓辺ではいつまでも
ホースが絡みついている
+
気がつけば
鳥かごの中には鳥がいる
けれど気がつかないので
いつまでたっても鳥はいない
何故こんな仕打ちをしてきたのだろう
そろそろ気がついても
良いころかもしれない
そう思うと
鳥かごの中には自分がいる
+
朝から君の背中が
海になってる
掻いてあげると
さざ波が立って
指先が塩味の濡れ方をする
肩甲骨のあたりには
美しい砂浜が広がり
僕が僕の形をしたまま
打ち上げられているのがわかる
気持ちいい?
我ながら馬鹿なことを訊いたと思ったが
気持ちいい
と君は僕の知っている言葉で言った
+
人が書置きをしているとき
僕は眠っている
僕が書置きをし始めると
人はどこに行ってしまうのだろう
外に向かって
私は開かれた窓だが
空の答えをまだ知らない
+
この
が
呆気も無く
転がっていて
うなじのいやらしい
馬鹿と野郎が
!
は
備品なのか
消耗品なのか
さんざん問いただしている
うちに
すっかり
最初から何もないような
シネマを沢山見た後で
刺だらけのサボテンを
君はポケットにしまった
+
公共の宿だった
山間の道をバスで三時間
紅葉の坂道を上ってきたはずなのに
仲居さんの着物の裾は
海岸でセイウチを洗ったかのように濡れていた
もちろんそれはレトリックの話で
仲居さんが本当にセイウチを洗ったのか
僕は知らないし
多分仲居さんも知らない
夜、部屋の電気をすべて落とすと
他に瞑るものが無いので
眼だけを瞑って寝た
笑わないで欲しい
このまま死んじゃうのかもしれない
と思った僕の弱さを
+
もっと優しく
あなたを発音したい
あなたは僕の書置き
僕のすべてを記憶する
唯一の証人
あなたが夕食の支度をしている間
僕は風呂の掃除をする
誰もいないリビングのテレビから
刑事になりきった役者の
罵声が聞こえてくる
そのような優しさで
あなたをもっと発音したい
二人で今日も
たくさん生きてしまった
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2005/10/23 (Sun)
小詩集「書置き」
夜の更ける頃
君の身体から
今までに聞いたことの無いような
音が聞こえてきた
安らかに君は君の中で
溺れているのかもしれなかった
+
縄跳びの回数を
数え間違えて
少女はずっと
八回を跳び続けている
こっそりと開いた扉の向こうでは
誰かが春の欠伸をしている
+
犬とはぐれて
首輪が転がっている
トビウオの胸ビレを集めすぎて
子供はもう失うことを覚えている
何故だろう
夕方になると
夕日の話ばかりしてしまうのは
音も無く今
指紋がうそをついた
+
電話ボックスの中で
きみはどうして良いのかわからない
電話ボックスにいるのだから
電話をすれば良いのかもしれないが
電話をするべき相手もいないし
電話をしたい相手もいない
知らないところにとんでもない
間違い電話をかけてしまった感じがする
何かを確かめようにも
その電話ボックスには電話が無いので
きみはただいることしかできない
+
朝、棚の上で
人形が倒れていた
昨晩小さな地震があった
ふと目が覚めて
気にも留めなかったが
人形が倒れるには
それで充分だった
家の者が起きてくる前に
もとにもどしておくと
地震のことには
誰も触れなかった
+
いとこが辞書のように
眠っている
言葉などいらない
とあんなに言っていたのに
辞書のように
いつまでも疲れていた
+
削除キーの裏側には
ジャムが塗られていた
いちごのジャムだった
ジャムの中には
僕らの家があった
家の窓は外に向かって
開け放たれていた
家の外には
いちごを煮る匂いの
風が吹いていた
それがいったい何であるのか
のような雲が空にはあって
二人が何度いなくなっても
ずっとこのままで良かった
+
メニューにあった自分の
名前を注文する
似ても似つかない
ハンバーグが出てくる
隣の席では
近所のオランダ人が凄い剣幕で
ウェイターに何かまくし立ててる
オランダの言葉はわからないが
多分彼も泣きたいのだ
+
友達がランドセルを背負っていた頃
僕だけが甲羅を背負っていた
ランドセルからは教科書やノートが出てきたが
甲羅には手足を引っ込めることしかできない
いっそのこと亀だったら良かったのに
そう言うと親友は
亀はみんなそう言うんだよ
と笑った
+
テーブルの上には
きれいに揃えられた
一足のスリッパと
家族に宛てた白い封筒
また父が
飛び降りたのだ
君の身体から
今までに聞いたことの無いような
音が聞こえてきた
安らかに君は君の中で
溺れているのかもしれなかった
+
縄跳びの回数を
数え間違えて
少女はずっと
八回を跳び続けている
こっそりと開いた扉の向こうでは
誰かが春の欠伸をしている
+
犬とはぐれて
首輪が転がっている
トビウオの胸ビレを集めすぎて
子供はもう失うことを覚えている
何故だろう
夕方になると
夕日の話ばかりしてしまうのは
音も無く今
指紋がうそをついた
+
電話ボックスの中で
きみはどうして良いのかわからない
電話ボックスにいるのだから
電話をすれば良いのかもしれないが
電話をするべき相手もいないし
電話をしたい相手もいない
知らないところにとんでもない
間違い電話をかけてしまった感じがする
何かを確かめようにも
その電話ボックスには電話が無いので
きみはただいることしかできない
+
朝、棚の上で
人形が倒れていた
昨晩小さな地震があった
ふと目が覚めて
気にも留めなかったが
人形が倒れるには
それで充分だった
家の者が起きてくる前に
もとにもどしておくと
地震のことには
誰も触れなかった
+
いとこが辞書のように
眠っている
言葉などいらない
とあんなに言っていたのに
辞書のように
いつまでも疲れていた
+
削除キーの裏側には
ジャムが塗られていた
いちごのジャムだった
ジャムの中には
僕らの家があった
家の窓は外に向かって
開け放たれていた
家の外には
いちごを煮る匂いの
風が吹いていた
それがいったい何であるのか
のような雲が空にはあって
二人が何度いなくなっても
ずっとこのままで良かった
+
メニューにあった自分の
名前を注文する
似ても似つかない
ハンバーグが出てくる
隣の席では
近所のオランダ人が凄い剣幕で
ウェイターに何かまくし立ててる
オランダの言葉はわからないが
多分彼も泣きたいのだ
+
友達がランドセルを背負っていた頃
僕だけが甲羅を背負っていた
ランドセルからは教科書やノートが出てきたが
甲羅には手足を引っ込めることしかできない
いっそのこと亀だったら良かったのに
そう言うと親友は
亀はみんなそう言うんだよ
と笑った
+
テーブルの上には
きれいに揃えられた
一足のスリッパと
家族に宛てた白い封筒
また父が
飛び降りたのだ
2005/10/19 (Wed)
小詩集「書置き」
太った男の人が
日向で陽の光を浴びて
まだ少しずつ
太っている
やがて坂道経由の犬がやって来て
すべてを食べてしまった
+
お座り、が得意な子でした
お手、もしたし
おかわり、も覚えました
私は悪い親だったのかもしれません
明日が卒業式です
+
彼女がカメを連れて遊びに来たので
二人でテレビを見ることにした
ちょうど五対一の真っ最中だったけれど
どのようなシステムで点数が増え
点数が減るのか、僕らは知らない
それでもその人たちが
二人の好きな色の服を着ていたおかげで
小一時間ほど楽しむことができた
彼女がビニルの袋から出した餌を
カメに与え始めた
カメってくさいね、と僕が言うと
くさいね、と彼女は答えた
+
届いた荷物には
「過去」
とだけ書かれていた
煮ても焼いても食えねえな
そう思いながら開けたら
「生食用」
と記されていた
+
やわらかい
握れば掌の中で縮み
あるいは形を変え
それでも戻ろうとして
わずかばかりの負荷が
自分から一番遠いところにある
中心に届こうとする
午後は音がするのだ、と思う
なるべくたくさん拾い集めて
並べていくと
石畳の上
雨ざらしになる
+
漢字練習帳に
死体。死体。死体。
と書き綴った日が
確かに私にはあって
そのことで
私の何も痛まなかったし
痛む必要などなかった
今こうして
あなたのうっすらと冷たく
懐かしい身体に
触れようとすると
+
白線の内側にお下がりください
と言われて人々はみな
思い思いに白線を描き
内側に下がると
そのままどこかに行ってしまった
どうして僕は
チョークを忘れてしまったのだろう
+
電車は電力をなくし
いつしか犬が
車両を引くようになった
町にひとつしかない駅を
特急が犬の速度で通過する
それでも当時の名残で
誰もが
電車、としか呼ばない
+
誕生日なので飛行機に乗り
どこか遠くに行こうと思いました
幾つかの交通機関を乗り換え
大きな空港に着くと
ロビーには既にたくさんの人がいました
みんな今日が誕生日なのだ、と思うと
僕はまだ産まれてなどいませんでした
+
野原の真ん中で
扇風機が首を振っている
何かの神様に見えたのかもしれない
小さな子供が
土のお団子をお供えして
いつまでも手を合わせていた
日向で陽の光を浴びて
まだ少しずつ
太っている
やがて坂道経由の犬がやって来て
すべてを食べてしまった
+
お座り、が得意な子でした
お手、もしたし
おかわり、も覚えました
私は悪い親だったのかもしれません
明日が卒業式です
+
彼女がカメを連れて遊びに来たので
二人でテレビを見ることにした
ちょうど五対一の真っ最中だったけれど
どのようなシステムで点数が増え
点数が減るのか、僕らは知らない
それでもその人たちが
二人の好きな色の服を着ていたおかげで
小一時間ほど楽しむことができた
彼女がビニルの袋から出した餌を
カメに与え始めた
カメってくさいね、と僕が言うと
くさいね、と彼女は答えた
+
届いた荷物には
「過去」
とだけ書かれていた
煮ても焼いても食えねえな
そう思いながら開けたら
「生食用」
と記されていた
+
やわらかい
握れば掌の中で縮み
あるいは形を変え
それでも戻ろうとして
わずかばかりの負荷が
自分から一番遠いところにある
中心に届こうとする
午後は音がするのだ、と思う
なるべくたくさん拾い集めて
並べていくと
石畳の上
雨ざらしになる
+
漢字練習帳に
死体。死体。死体。
と書き綴った日が
確かに私にはあって
そのことで
私の何も痛まなかったし
痛む必要などなかった
今こうして
あなたのうっすらと冷たく
懐かしい身体に
触れようとすると
+
白線の内側にお下がりください
と言われて人々はみな
思い思いに白線を描き
内側に下がると
そのままどこかに行ってしまった
どうして僕は
チョークを忘れてしまったのだろう
+
電車は電力をなくし
いつしか犬が
車両を引くようになった
町にひとつしかない駅を
特急が犬の速度で通過する
それでも当時の名残で
誰もが
電車、としか呼ばない
+
誕生日なので飛行機に乗り
どこか遠くに行こうと思いました
幾つかの交通機関を乗り換え
大きな空港に着くと
ロビーには既にたくさんの人がいました
みんな今日が誕生日なのだ、と思うと
僕はまだ産まれてなどいませんでした
+
野原の真ん中で
扇風機が首を振っている
何かの神様に見えたのかもしれない
小さな子供が
土のお団子をお供えして
いつまでも手を合わせていた
2005/10/16 (Sun)
小詩集「書置き」
焼き鳥が
香ばしい匂いを振りまきながら
暁の空を行く
カルシウムでできた複雑な骨を失い
たった一本の竹串を骨にすることで
初めて得た飛行を
力の限り大切にしながら
もうコケコッコーも
言わないつもりなのだ
+
交番の前では
制服姿の警察官が
三人で話をしている
すぐ近くにあるバケツでは
音も無く
水が蒸発している
+
仔犬の眼の中に
なみなみとしている
プールで私が泳いでいると
雨が降っているフェンスの
向こう側
誰かのお墓みたいに
木々が直立していて
いつか仔犬、
あなたの分まで
死んであげたいと思った
+
そんな幸せ
が転がっていて
小人たちが
拾い集めている
あの時
霧雨に濡れていたのは
何だったのだろう
静かな
壁の近くで
+
ミスとミスターと
が徒歩でやって来て
言葉を書いて
殴るように書いて
本当に殴って
簡単な履歴で良かったのに
わたしには何一つ干渉することなく
これは詩だよ、これは詩だよ
と朗読を始め
それからなるべく沢山の
フルーツ風味のドーナツを食べて
これは奇麗だよ、これは奇麗だよ
と空地に咲いていた
セイタカアワダチソウの良いところを
何本か見繕って摘んで
徒歩で帰って行った
ミスとミスターと
であった
+
夕べ着ていたパジャマと
同じ色をした霊柩車がゆっくりと走り
そのうしろを枕と同じ姿の人たちが
僕の遺影をもってついて行く
これは夢なのだ
すぐにわかりはしたが
夢から覚める方法を思い出せないまま
最後尾に並ぶ
+
長い廊下の一番奥では
補欠部員の僕が
練習をしています
足と耳のバランスが悪く
あとは残りの
手と声も
まだなれてません
もうひとつの一番奥では
レギュラーたちが
乗り物から降りるのが見えます
彼らはすっかりなれていて
その悲しみも
背負っているかのようでした
顧問の号令にあわせて
いっせいに瞬きをしています
+
夕食の準備をしている妻が
冷蔵庫を覗き込みながら
帰りたい、とつぶやくのを
僕は聞いてしまった
翌日故郷に向かうチケットを
二枚買って帰ると
妻は冷蔵庫の前から
決して動こうとはしなかった
+
男の人と女の人が
投入口から
コインを次々と入れていく
いろいろな形や大きさの
コインがあるというのに
いつまでたっても
必要な金額を満たさない
側では小さな男の子が所在無さ気に
蟻の行列を見ている
とてもわかりやすく言えば
僕はそんな子供だった
+
すっかりと細く
その気になれば
どこの隙間にでも
当てはまりそうなのに
わずかばかりの肉体
その厚みのために
わたしはまだ
いなければならない
遠くから
下校途中の子供たちの
声が聞こえる
わたしにもあんな時があった
そして
その声を聞いていた人が
確かにいたはずなのだ
香ばしい匂いを振りまきながら
暁の空を行く
カルシウムでできた複雑な骨を失い
たった一本の竹串を骨にすることで
初めて得た飛行を
力の限り大切にしながら
もうコケコッコーも
言わないつもりなのだ
+
交番の前では
制服姿の警察官が
三人で話をしている
すぐ近くにあるバケツでは
音も無く
水が蒸発している
+
仔犬の眼の中に
なみなみとしている
プールで私が泳いでいると
雨が降っているフェンスの
向こう側
誰かのお墓みたいに
木々が直立していて
いつか仔犬、
あなたの分まで
死んであげたいと思った
+
そんな幸せ
が転がっていて
小人たちが
拾い集めている
あの時
霧雨に濡れていたのは
何だったのだろう
静かな
壁の近くで
+
ミスとミスターと
が徒歩でやって来て
言葉を書いて
殴るように書いて
本当に殴って
簡単な履歴で良かったのに
わたしには何一つ干渉することなく
これは詩だよ、これは詩だよ
と朗読を始め
それからなるべく沢山の
フルーツ風味のドーナツを食べて
これは奇麗だよ、これは奇麗だよ
と空地に咲いていた
セイタカアワダチソウの良いところを
何本か見繕って摘んで
徒歩で帰って行った
ミスとミスターと
であった
+
夕べ着ていたパジャマと
同じ色をした霊柩車がゆっくりと走り
そのうしろを枕と同じ姿の人たちが
僕の遺影をもってついて行く
これは夢なのだ
すぐにわかりはしたが
夢から覚める方法を思い出せないまま
最後尾に並ぶ
+
長い廊下の一番奥では
補欠部員の僕が
練習をしています
足と耳のバランスが悪く
あとは残りの
手と声も
まだなれてません
もうひとつの一番奥では
レギュラーたちが
乗り物から降りるのが見えます
彼らはすっかりなれていて
その悲しみも
背負っているかのようでした
顧問の号令にあわせて
いっせいに瞬きをしています
+
夕食の準備をしている妻が
冷蔵庫を覗き込みながら
帰りたい、とつぶやくのを
僕は聞いてしまった
翌日故郷に向かうチケットを
二枚買って帰ると
妻は冷蔵庫の前から
決して動こうとはしなかった
+
男の人と女の人が
投入口から
コインを次々と入れていく
いろいろな形や大きさの
コインがあるというのに
いつまでたっても
必要な金額を満たさない
側では小さな男の子が所在無さ気に
蟻の行列を見ている
とてもわかりやすく言えば
僕はそんな子供だった
+
すっかりと細く
その気になれば
どこの隙間にでも
当てはまりそうなのに
わずかばかりの肉体
その厚みのために
わたしはまだ
いなければならない
遠くから
下校途中の子供たちの
声が聞こえる
わたしにもあんな時があった
そして
その声を聞いていた人が
確かにいたはずなのだ
2005/10/10 (Mon)
小詩集「書置き」
手に触れるすべての
温度と湿度が
いつもより優しく感じられる
マリオをやれば
たくさんコインを取れる気がする
喪服に袖を通す
今日はもう
泣かずに済むのだと思う
+
こっちのセリフだ
とあっちが言うので
そっちはもう
どっちでもない
そんなことはどうでも良いが
きみが並べた出鱈目の様に
今朝から寂しい
+
鍵盤をひとつひとつ
失いながら
ピアノが
海を沈んでいく
最後まで
多忙であった
+
犬自身の中に
犬小屋はある
遊ぶのに飽きて
帰ろうとするが
夕暮ればかりが続き
いつまでもたどり着かない
+
自転車のペダルをこいでいると
それは何かの高さの
ようでもあった
転落しないように、と
二人で笑って
幸せだったかもしれない
+
扉を開ける
また扉がある
今度こそは、と開けると
案の定扉はある
入ろうとしているのか
出ようとしているのか
わからないうちに
通過してしまった
動かなくなった父の側を
+
ハウスの裏は
どこまでも川がつながっている
余計なお世話ですが
ポテトのSはいりませんか
という店員の辱めにもめげず
僕らは馬の姿のまま
身勝手にギャロップをしている
+
テーブルの上に
林檎が一つ置かれている
の音がする
私の生きている、は
不確かな幻かもしれないけれど
幻だった例もないのだ
+
手足が絡み合って
体操をなくした
途中、味のしない地下鉄に
追いかけられた
この海は
意味のない繰り返しだね
結論はきみに出して欲しい
と言ったら
+
他所様の庭で
席替えは続けられて
友だちはまた沖へと
流されていく
奥さんと娘さんは
まだ栗の皮を剥いていますか
黒板けしをきれいに叩くと
新しい学期は
もう始まっている
温度と湿度が
いつもより優しく感じられる
マリオをやれば
たくさんコインを取れる気がする
喪服に袖を通す
今日はもう
泣かずに済むのだと思う
+
こっちのセリフだ
とあっちが言うので
そっちはもう
どっちでもない
そんなことはどうでも良いが
きみが並べた出鱈目の様に
今朝から寂しい
+
鍵盤をひとつひとつ
失いながら
ピアノが
海を沈んでいく
最後まで
多忙であった
+
犬自身の中に
犬小屋はある
遊ぶのに飽きて
帰ろうとするが
夕暮ればかりが続き
いつまでもたどり着かない
+
自転車のペダルをこいでいると
それは何かの高さの
ようでもあった
転落しないように、と
二人で笑って
幸せだったかもしれない
+
扉を開ける
また扉がある
今度こそは、と開けると
案の定扉はある
入ろうとしているのか
出ようとしているのか
わからないうちに
通過してしまった
動かなくなった父の側を
+
ハウスの裏は
どこまでも川がつながっている
余計なお世話ですが
ポテトのSはいりませんか
という店員の辱めにもめげず
僕らは馬の姿のまま
身勝手にギャロップをしている
+
テーブルの上に
林檎が一つ置かれている
の音がする
私の生きている、は
不確かな幻かもしれないけれど
幻だった例もないのだ
+
手足が絡み合って
体操をなくした
途中、味のしない地下鉄に
追いかけられた
この海は
意味のない繰り返しだね
結論はきみに出して欲しい
と言ったら
+
他所様の庭で
席替えは続けられて
友だちはまた沖へと
流されていく
奥さんと娘さんは
まだ栗の皮を剥いていますか
黒板けしをきれいに叩くと
新しい学期は
もう始まっている
2005/10/10 (Mon)
小詩集「書置き」
好きなものを頼みなさい
メニューを渡すと
娘はしばらくうつむいて
星が見たいと言う
隣のテーブルにバスがいたので
手を繋ぎ乗る
ひとつ前の停留所で
サーカスを見るために
大半の客は降りた
私たちは終点で降り
小高い丘を登って
いつまでも天体観測を続けた
+
空腹に
ソーセージが詰められていく
そのうちの何本かは
ウィンナーかもしれない
そう考えると
すっかり縮みあがって
夜盗の助走は
失速する
+
距離とは
きっと
何かの理由
会いたいとか
会えないとか
頭突きをするとか
しないとか
+
大工さんたちが私を囲んで
私の一部をはがしたり
何かを取り付けたりし始める
リフォームをするのだと言う
頼んではいない、と抗議すると
家の人に許可をいただいてますから
そう返される
父も母もすでにこの世にはいない
妻とはとっくに別れた
いや、そうではなかったかもしれない
元気な父と母
美しい妻と可愛い息子と娘
それに産まれたばかりの仔犬
優しい思い出が溢れ出して
幸せな気持ちでいっぱいになる
脳みそを取り替えられたようだ
新しい脳みその
どこか遠いところでそう思いながら
+
これは東三丁目に行きますか
本の表紙に描かれた
バスの絵を指差しながら
初老の女性が途方に暮れている
小さい頃によく遊んだマリコちゃんに
会いに行きたいのだと言う
マリコちゃんにどうぞ、と
グレープフルーツを差し出すと
女性は嬉しそうに微笑む
どこまでが思い出で
どこまでが女性自身なのか
すでに見分けはつかなくなってた
+
ハラメシの炊き上がった匂いがする
一年に一度だけ食べられるハラメシは
特段美味しい、ということもないが
風習とはそういうものだ
ハラメシを前に
家族皆で手を合わせる
そのことの意味を誰も知らないが
祈りとはそういうものだ
この日ばかりは
食後のゲップは禁忌である
+
右手と左手は
朝から機嫌が悪い
キオスクで働く兄は
右足と左足を取り違えたまま
勤めに行ってしまった
右岸で寝ている人の夢の中で
左岸の人は今日も忙しい
あと何日
自分は生きるのだろうか
+
男は、ムラオカです、
とだけ名乗り
金属がより金属に近づこうと
静かに脱皮を続ける
かの口調で
立方体の話をする
別れ際、男は
本当はスズキだったのです、
と言ってそれから
何事も無かったかのように
春の花を満載した自転車に
ひかれた
+
三時間目図工の授業では
遊園地の絵を描く課題が与えられた
級友たちが様々な形の乗り物を
色彩豊かに塗りつぶしていく中
少年だけはみすぼらしいベンチを描いた
何に乗ることも無く父親と二人で
一日中ベンチに腰掛けていた
遊園地にはそんな思い出しかないのだ
少年は座っている人を描き始めたが
そこには少年と母親の
幸せそうな姿しかなかった
+
街は保とうとする私たちの外形
私たちは不規則に
膨張を繰り返すものの軌跡
ほのかな光を発し
自分自身の中を飛行する寂しい
、の電力を運ぶため
送電線は走る
路上に放置されたコンクリートの破片
私たちはその中にさえも
記憶されることは難しい
メニューを渡すと
娘はしばらくうつむいて
星が見たいと言う
隣のテーブルにバスがいたので
手を繋ぎ乗る
ひとつ前の停留所で
サーカスを見るために
大半の客は降りた
私たちは終点で降り
小高い丘を登って
いつまでも天体観測を続けた
+
空腹に
ソーセージが詰められていく
そのうちの何本かは
ウィンナーかもしれない
そう考えると
すっかり縮みあがって
夜盗の助走は
失速する
+
距離とは
きっと
何かの理由
会いたいとか
会えないとか
頭突きをするとか
しないとか
+
大工さんたちが私を囲んで
私の一部をはがしたり
何かを取り付けたりし始める
リフォームをするのだと言う
頼んではいない、と抗議すると
家の人に許可をいただいてますから
そう返される
父も母もすでにこの世にはいない
妻とはとっくに別れた
いや、そうではなかったかもしれない
元気な父と母
美しい妻と可愛い息子と娘
それに産まれたばかりの仔犬
優しい思い出が溢れ出して
幸せな気持ちでいっぱいになる
脳みそを取り替えられたようだ
新しい脳みその
どこか遠いところでそう思いながら
+
これは東三丁目に行きますか
本の表紙に描かれた
バスの絵を指差しながら
初老の女性が途方に暮れている
小さい頃によく遊んだマリコちゃんに
会いに行きたいのだと言う
マリコちゃんにどうぞ、と
グレープフルーツを差し出すと
女性は嬉しそうに微笑む
どこまでが思い出で
どこまでが女性自身なのか
すでに見分けはつかなくなってた
+
ハラメシの炊き上がった匂いがする
一年に一度だけ食べられるハラメシは
特段美味しい、ということもないが
風習とはそういうものだ
ハラメシを前に
家族皆で手を合わせる
そのことの意味を誰も知らないが
祈りとはそういうものだ
この日ばかりは
食後のゲップは禁忌である
+
右手と左手は
朝から機嫌が悪い
キオスクで働く兄は
右足と左足を取り違えたまま
勤めに行ってしまった
右岸で寝ている人の夢の中で
左岸の人は今日も忙しい
あと何日
自分は生きるのだろうか
+
男は、ムラオカです、
とだけ名乗り
金属がより金属に近づこうと
静かに脱皮を続ける
かの口調で
立方体の話をする
別れ際、男は
本当はスズキだったのです、
と言ってそれから
何事も無かったかのように
春の花を満載した自転車に
ひかれた
+
三時間目図工の授業では
遊園地の絵を描く課題が与えられた
級友たちが様々な形の乗り物を
色彩豊かに塗りつぶしていく中
少年だけはみすぼらしいベンチを描いた
何に乗ることも無く父親と二人で
一日中ベンチに腰掛けていた
遊園地にはそんな思い出しかないのだ
少年は座っている人を描き始めたが
そこには少年と母親の
幸せそうな姿しかなかった
+
街は保とうとする私たちの外形
私たちは不規則に
膨張を繰り返すものの軌跡
ほのかな光を発し
自分自身の中を飛行する寂しい
、の電力を運ぶため
送電線は走る
路上に放置されたコンクリートの破片
私たちはその中にさえも
記憶されることは難しい
2005/10/06 (Thu)
小詩集「書置き」
よく晴れた日
ハンガーに吊るして
自分を干してみる
きっと人はこのように
優しく干からびていくのだろう
水分も記憶も失いながら
+
鏡に向かって
笑う
そんな嘘
ばかりついてる
+
目が覚めると
家が巨大なクラゲになっていた
さっきまで寝ていた布団も
すっかり湿っている
クラゲは透明な触手を揺らして
威嚇をする
なるべく刺激しないように
そっと洗面所に行き
蛇口をひねる
タツノオトシゴが沢山出てくる
実は水の中にいるのだと
気づきたくないので
呼吸ばかりしている
+
栞の代わりに挟んだ
刺身がもう腐って
臭いから
部屋の隅に寄せる
明日は部屋の外に出す
明後日は家の外にある
+
夜中にお腹がすいて
台所に行くと
すでに母は来ていた
父が大事に育てていた
カイワレダイコンを
二人して食べた
父は怒らなかった
笑うことしか
知らない人みたいに
+
枕の中を航行する
船の甲板で
あなたが手を振っている
もしかしたらそれは
尻尾を振っている
あなたの犬かもしれない
輪郭が曖昧なまま
睡眠という
悲しい航海は始まる
+
このエレベーターは
どこまで行くのだろう
既に最上階を越えて
それでもまだ
昇り続ける
忘れ物を置いていくように
懐かしい人の顔が
次々と浮かぶ
懐かしくない人も
懐かしい人になっていく
+
足がたくさん生えていたので
あるだけの靴やサンダルを
履かせていく
それでも足りなくて
近所の靴屋に買いに出かける
途中一足拾って
少し得した気分になる
どこに生えていたのか
なんて余計なことは考えずに
買い物は続く
+
今日も一日駅に
列車はやって来なかった
駅員は所定の事項を日誌に書くと
丁寧なお辞儀をして
夜勤の者に引き継ぐ
それから徒歩で他の駅へ行き
列車に乗って
帰宅をする
+
町の外れにはピラミッドがある
それが偉い人のお墓だということは
小さな子供でも知ってる
どれだけ偉い人なのか、ということは
入学して二年目に勉強する
三年目になると子供たちは
先生に引率されて
ピラミッドの頂上に登る
先生は町を見下ろしながら
あれが学校、駐在所、何とかという商店
と町の地理をひととおり説明をする
それから数年後町を出た子供たちは
他の町で育った同級生や同僚に
懐かしそうにその話をする
そして大抵の場合
そんなピラミッドなど知らない
と言われる
ハンガーに吊るして
自分を干してみる
きっと人はこのように
優しく干からびていくのだろう
水分も記憶も失いながら
+
鏡に向かって
笑う
そんな嘘
ばかりついてる
+
目が覚めると
家が巨大なクラゲになっていた
さっきまで寝ていた布団も
すっかり湿っている
クラゲは透明な触手を揺らして
威嚇をする
なるべく刺激しないように
そっと洗面所に行き
蛇口をひねる
タツノオトシゴが沢山出てくる
実は水の中にいるのだと
気づきたくないので
呼吸ばかりしている
+
栞の代わりに挟んだ
刺身がもう腐って
臭いから
部屋の隅に寄せる
明日は部屋の外に出す
明後日は家の外にある
+
夜中にお腹がすいて
台所に行くと
すでに母は来ていた
父が大事に育てていた
カイワレダイコンを
二人して食べた
父は怒らなかった
笑うことしか
知らない人みたいに
+
枕の中を航行する
船の甲板で
あなたが手を振っている
もしかしたらそれは
尻尾を振っている
あなたの犬かもしれない
輪郭が曖昧なまま
睡眠という
悲しい航海は始まる
+
このエレベーターは
どこまで行くのだろう
既に最上階を越えて
それでもまだ
昇り続ける
忘れ物を置いていくように
懐かしい人の顔が
次々と浮かぶ
懐かしくない人も
懐かしい人になっていく
+
足がたくさん生えていたので
あるだけの靴やサンダルを
履かせていく
それでも足りなくて
近所の靴屋に買いに出かける
途中一足拾って
少し得した気分になる
どこに生えていたのか
なんて余計なことは考えずに
買い物は続く
+
今日も一日駅に
列車はやって来なかった
駅員は所定の事項を日誌に書くと
丁寧なお辞儀をして
夜勤の者に引き継ぐ
それから徒歩で他の駅へ行き
列車に乗って
帰宅をする
+
町の外れにはピラミッドがある
それが偉い人のお墓だということは
小さな子供でも知ってる
どれだけ偉い人なのか、ということは
入学して二年目に勉強する
三年目になると子供たちは
先生に引率されて
ピラミッドの頂上に登る
先生は町を見下ろしながら
あれが学校、駐在所、何とかという商店
と町の地理をひととおり説明をする
それから数年後町を出た子供たちは
他の町で育った同級生や同僚に
懐かしそうにその話をする
そして大抵の場合
そんなピラミッドなど知らない
と言われる
2005/10/04 (Tue)
小詩集「書置き」
尖った粘土に
刺さった虫
のように
息だけ
している
息しか
できない
+
明方
キリンの群れが横断歩道を
渡っていく
あれは首長竜の一種だ
と弟に教える
弟は悲しそうな顔をしながら
恐竜図鑑に書き加えていく
+
愛は海よりも
深い
たとえ遠浅でも
海は海だ
愛が愛であるかは
別として
+
たくさんの背中を
見すぎて
父さん、乱視は
進んでいきます
合う眼鏡がなくて
今日も世界は
気持ちが悪いままです
+
弁当箱の
裏についた
米粒のあたりで
宇宙の四百二十三番地が
発見された
+
二人で
もっと大きな
ビルディングを食べよう
明日の話は
それから
+
昨日荷物を
引きずっていた人が
今日は荷物に
引きずられている
その様子を見ながら
母親が子供に
時刻を教えている
+
自分の身体の一部が
埋まっている気がして
深夜
砂場へと出かける
いくら掘っても見つからない
時々何かがあるけれど
身体のどこにも
当てはまらない
+
空は陥落した
その下には
今日も美しい都市が
広がっている
絶えることの無い
笑顔と歌声
確かに
廃墟はあるのだ
人々の皮膚に覆われて
+
色をなくして
列車は走る
既に形を失い
音も名前も失った
それでも車掌が
列車だと言い張るので
運転士は春の土手を
全速力で走る
刺さった虫
のように
息だけ
している
息しか
できない
+
明方
キリンの群れが横断歩道を
渡っていく
あれは首長竜の一種だ
と弟に教える
弟は悲しそうな顔をしながら
恐竜図鑑に書き加えていく
+
愛は海よりも
深い
たとえ遠浅でも
海は海だ
愛が愛であるかは
別として
+
たくさんの背中を
見すぎて
父さん、乱視は
進んでいきます
合う眼鏡がなくて
今日も世界は
気持ちが悪いままです
+
弁当箱の
裏についた
米粒のあたりで
宇宙の四百二十三番地が
発見された
+
二人で
もっと大きな
ビルディングを食べよう
明日の話は
それから
+
昨日荷物を
引きずっていた人が
今日は荷物に
引きずられている
その様子を見ながら
母親が子供に
時刻を教えている
+
自分の身体の一部が
埋まっている気がして
深夜
砂場へと出かける
いくら掘っても見つからない
時々何かがあるけれど
身体のどこにも
当てはまらない
+
空は陥落した
その下には
今日も美しい都市が
広がっている
絶えることの無い
笑顔と歌声
確かに
廃墟はあるのだ
人々の皮膚に覆われて
+
色をなくして
列車は走る
既に形を失い
音も名前も失った
それでも車掌が
列車だと言い張るので
運転士は春の土手を
全速力で走る
2005/10/03 (Mon)
小詩集「書置き」
人の嘘で
鳥は空を飛ぶ
鳥の嘘で
ドアは人を
閉じ込める
ドアの中で
人は鳥を
飛ばし続ける
+
いつも
三人なのに
いつも
八等分
してしまう
+
叩く
ただひたすらに
叩き続ける
それを何かの確認だと
思うことなく
+
指先から
枯れた草の匂いがする
帰って来ないあの人の指先も
同じ匂いがした
他に何も似てないのが
おかしいくらいに
+
あのきれいな色の
ジュースを飲めば
きれいになれる
かもしれないのに
必ず十円が足りない
+
紙に知らない人の
名前を書いてる
多分それは
知らない人の
名前だったと思う
+
機械を拾いに
広場に行く
思ったより落ちていたのは
機械化が進んいるからだろう
持ち帰り
きれいに一つ一つ磨いて
きれいに庭に埋めていく
+
廊下に長い影
長く伸びすぎて
壁に折れる
蹴ったボール
その向こう
窓からは
雑木林が見える
+
母がブランコをしている
少し離れて
妹が泣いている
母をしまう
妹はブランコに駆け寄り
落ちていた人形を拾って
嬉しそうに笑う
+
いつのころからか
雨のように鳴く虫が
目の中に住み着いてる
涙を餌にしているようで
最近すっかり
涙が零れなくなった
人でなし、と
散々罵られる
雨の音は
きみには聞こえないらしい
鳥は空を飛ぶ
鳥の嘘で
ドアは人を
閉じ込める
ドアの中で
人は鳥を
飛ばし続ける
+
いつも
三人なのに
いつも
八等分
してしまう
+
叩く
ただひたすらに
叩き続ける
それを何かの確認だと
思うことなく
+
指先から
枯れた草の匂いがする
帰って来ないあの人の指先も
同じ匂いがした
他に何も似てないのが
おかしいくらいに
+
あのきれいな色の
ジュースを飲めば
きれいになれる
かもしれないのに
必ず十円が足りない
+
紙に知らない人の
名前を書いてる
多分それは
知らない人の
名前だったと思う
+
機械を拾いに
広場に行く
思ったより落ちていたのは
機械化が進んいるからだろう
持ち帰り
きれいに一つ一つ磨いて
きれいに庭に埋めていく
+
廊下に長い影
長く伸びすぎて
壁に折れる
蹴ったボール
その向こう
窓からは
雑木林が見える
+
母がブランコをしている
少し離れて
妹が泣いている
母をしまう
妹はブランコに駆け寄り
落ちていた人形を拾って
嬉しそうに笑う
+
いつのころからか
雨のように鳴く虫が
目の中に住み着いてる
涙を餌にしているようで
最近すっかり
涙が零れなくなった
人でなし、と
散々罵られる
雨の音は
きみには聞こえないらしい
2005/10/03 (Mon)
小詩集「書置き」
朝のやかん
なぞって
もう一度寝る
エビの夢を
見ながら
+
階段
すべてが
階段
そんな
建物
+
夕刊の
「帰」という字を
黄色く
塗っていくと
多いのか
少ないのか
よくわからない
+
歯を磨くことが
こんなにも
難しい
会えない人の
名を呼びながら
+
生きている、と
生きている人に
言う
しまらない
とどかない
+
カミツキガメ
に噛みついた
女の伝記
身勝手に生きて
身勝手に逝った
+
昔から部屋の中を
川が流れているのに
どちらが上流か
まだわからない
という夢の中で
魚は溺れる
+
もう少し
水のように話そう
双子の
手品師と
詐欺師が
シーソーをする
公園で
+
誰にも届けられなかった
花束が
空を飛んでいる
スズメやカラスが
群がり突っつく
しばらく見ていたけれど
他に珍しい鳥は
現れなかった
+
ベランダに
干してある
シャツ
パンツ
タオル
靴下
布類はいつも
そこで終わっている
なぞって
もう一度寝る
エビの夢を
見ながら
+
階段
すべてが
階段
そんな
建物
+
夕刊の
「帰」という字を
黄色く
塗っていくと
多いのか
少ないのか
よくわからない
+
歯を磨くことが
こんなにも
難しい
会えない人の
名を呼びながら
+
生きている、と
生きている人に
言う
しまらない
とどかない
+
カミツキガメ
に噛みついた
女の伝記
身勝手に生きて
身勝手に逝った
+
昔から部屋の中を
川が流れているのに
どちらが上流か
まだわからない
という夢の中で
魚は溺れる
+
もう少し
水のように話そう
双子の
手品師と
詐欺師が
シーソーをする
公園で
+
誰にも届けられなかった
花束が
空を飛んでいる
スズメやカラスが
群がり突っつく
しばらく見ていたけれど
他に珍しい鳥は
現れなかった
+
ベランダに
干してある
シャツ
パンツ
タオル
靴下
布類はいつも
そこで終わっている