プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
58
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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[09/10 GOKU]
[11/09 つねさん]
[09/20 sechanco]
[06/07 たもつ]
[06/07 宮尾節子]
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夜の更ける頃
君の身体から
今までに聞いたことの無いような
音が聞こえてきた
安らかに君は君の中で
溺れているのかもしれなかった
+
縄跳びの回数を
数え間違えて
少女はずっと
八回を跳び続けている
こっそりと開いた扉の向こうでは
誰かが春の欠伸をしている
+
犬とはぐれて
首輪が転がっている
トビウオの胸ビレを集めすぎて
子供はもう失うことを覚えている
何故だろう
夕方になると
夕日の話ばかりしてしまうのは
音も無く今
指紋がうそをついた
+
電話ボックスの中で
きみはどうして良いのかわからない
電話ボックスにいるのだから
電話をすれば良いのかもしれないが
電話をするべき相手もいないし
電話をしたい相手もいない
知らないところにとんでもない
間違い電話をかけてしまった感じがする
何かを確かめようにも
その電話ボックスには電話が無いので
きみはただいることしかできない
+
朝、棚の上で
人形が倒れていた
昨晩小さな地震があった
ふと目が覚めて
気にも留めなかったが
人形が倒れるには
それで充分だった
家の者が起きてくる前に
もとにもどしておくと
地震のことには
誰も触れなかった
+
いとこが辞書のように
眠っている
言葉などいらない
とあんなに言っていたのに
辞書のように
いつまでも疲れていた
+
削除キーの裏側には
ジャムが塗られていた
いちごのジャムだった
ジャムの中には
僕らの家があった
家の窓は外に向かって
開け放たれていた
家の外には
いちごを煮る匂いの
風が吹いていた
それがいったい何であるのか
のような雲が空にはあって
二人が何度いなくなっても
ずっとこのままで良かった
+
メニューにあった自分の
名前を注文する
似ても似つかない
ハンバーグが出てくる
隣の席では
近所のオランダ人が凄い剣幕で
ウェイターに何かまくし立ててる
オランダの言葉はわからないが
多分彼も泣きたいのだ
+
友達がランドセルを背負っていた頃
僕だけが甲羅を背負っていた
ランドセルからは教科書やノートが出てきたが
甲羅には手足を引っ込めることしかできない
いっそのこと亀だったら良かったのに
そう言うと親友は
亀はみんなそう言うんだよ
と笑った
+
テーブルの上には
きれいに揃えられた
一足のスリッパと
家族に宛てた白い封筒
また父が
飛び降りたのだ
君の身体から
今までに聞いたことの無いような
音が聞こえてきた
安らかに君は君の中で
溺れているのかもしれなかった
+
縄跳びの回数を
数え間違えて
少女はずっと
八回を跳び続けている
こっそりと開いた扉の向こうでは
誰かが春の欠伸をしている
+
犬とはぐれて
首輪が転がっている
トビウオの胸ビレを集めすぎて
子供はもう失うことを覚えている
何故だろう
夕方になると
夕日の話ばかりしてしまうのは
音も無く今
指紋がうそをついた
+
電話ボックスの中で
きみはどうして良いのかわからない
電話ボックスにいるのだから
電話をすれば良いのかもしれないが
電話をするべき相手もいないし
電話をしたい相手もいない
知らないところにとんでもない
間違い電話をかけてしまった感じがする
何かを確かめようにも
その電話ボックスには電話が無いので
きみはただいることしかできない
+
朝、棚の上で
人形が倒れていた
昨晩小さな地震があった
ふと目が覚めて
気にも留めなかったが
人形が倒れるには
それで充分だった
家の者が起きてくる前に
もとにもどしておくと
地震のことには
誰も触れなかった
+
いとこが辞書のように
眠っている
言葉などいらない
とあんなに言っていたのに
辞書のように
いつまでも疲れていた
+
削除キーの裏側には
ジャムが塗られていた
いちごのジャムだった
ジャムの中には
僕らの家があった
家の窓は外に向かって
開け放たれていた
家の外には
いちごを煮る匂いの
風が吹いていた
それがいったい何であるのか
のような雲が空にはあって
二人が何度いなくなっても
ずっとこのままで良かった
+
メニューにあった自分の
名前を注文する
似ても似つかない
ハンバーグが出てくる
隣の席では
近所のオランダ人が凄い剣幕で
ウェイターに何かまくし立ててる
オランダの言葉はわからないが
多分彼も泣きたいのだ
+
友達がランドセルを背負っていた頃
僕だけが甲羅を背負っていた
ランドセルからは教科書やノートが出てきたが
甲羅には手足を引っ込めることしかできない
いっそのこと亀だったら良かったのに
そう言うと親友は
亀はみんなそう言うんだよ
と笑った
+
テーブルの上には
きれいに揃えられた
一足のスリッパと
家族に宛てた白い封筒
また父が
飛び降りたのだ
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太った男の人が
日向で陽の光を浴びて
まだ少しずつ
太っている
やがて坂道経由の犬がやって来て
すべてを食べてしまった
+
お座り、が得意な子でした
お手、もしたし
おかわり、も覚えました
私は悪い親だったのかもしれません
明日が卒業式です
+
彼女がカメを連れて遊びに来たので
二人でテレビを見ることにした
ちょうど五対一の真っ最中だったけれど
どのようなシステムで点数が増え
点数が減るのか、僕らは知らない
それでもその人たちが
二人の好きな色の服を着ていたおかげで
小一時間ほど楽しむことができた
彼女がビニルの袋から出した餌を
カメに与え始めた
カメってくさいね、と僕が言うと
くさいね、と彼女は答えた
+
届いた荷物には
「過去」
とだけ書かれていた
煮ても焼いても食えねえな
そう思いながら開けたら
「生食用」
と記されていた
+
やわらかい
握れば掌の中で縮み
あるいは形を変え
それでも戻ろうとして
わずかばかりの負荷が
自分から一番遠いところにある
中心に届こうとする
午後は音がするのだ、と思う
なるべくたくさん拾い集めて
並べていくと
石畳の上
雨ざらしになる
+
漢字練習帳に
死体。死体。死体。
と書き綴った日が
確かに私にはあって
そのことで
私の何も痛まなかったし
痛む必要などなかった
今こうして
あなたのうっすらと冷たく
懐かしい身体に
触れようとすると
+
白線の内側にお下がりください
と言われて人々はみな
思い思いに白線を描き
内側に下がると
そのままどこかに行ってしまった
どうして僕は
チョークを忘れてしまったのだろう
+
電車は電力をなくし
いつしか犬が
車両を引くようになった
町にひとつしかない駅を
特急が犬の速度で通過する
それでも当時の名残で
誰もが
電車、としか呼ばない
+
誕生日なので飛行機に乗り
どこか遠くに行こうと思いました
幾つかの交通機関を乗り換え
大きな空港に着くと
ロビーには既にたくさんの人がいました
みんな今日が誕生日なのだ、と思うと
僕はまだ産まれてなどいませんでした
+
野原の真ん中で
扇風機が首を振っている
何かの神様に見えたのかもしれない
小さな子供が
土のお団子をお供えして
いつまでも手を合わせていた
日向で陽の光を浴びて
まだ少しずつ
太っている
やがて坂道経由の犬がやって来て
すべてを食べてしまった
+
お座り、が得意な子でした
お手、もしたし
おかわり、も覚えました
私は悪い親だったのかもしれません
明日が卒業式です
+
彼女がカメを連れて遊びに来たので
二人でテレビを見ることにした
ちょうど五対一の真っ最中だったけれど
どのようなシステムで点数が増え
点数が減るのか、僕らは知らない
それでもその人たちが
二人の好きな色の服を着ていたおかげで
小一時間ほど楽しむことができた
彼女がビニルの袋から出した餌を
カメに与え始めた
カメってくさいね、と僕が言うと
くさいね、と彼女は答えた
+
届いた荷物には
「過去」
とだけ書かれていた
煮ても焼いても食えねえな
そう思いながら開けたら
「生食用」
と記されていた
+
やわらかい
握れば掌の中で縮み
あるいは形を変え
それでも戻ろうとして
わずかばかりの負荷が
自分から一番遠いところにある
中心に届こうとする
午後は音がするのだ、と思う
なるべくたくさん拾い集めて
並べていくと
石畳の上
雨ざらしになる
+
漢字練習帳に
死体。死体。死体。
と書き綴った日が
確かに私にはあって
そのことで
私の何も痛まなかったし
痛む必要などなかった
今こうして
あなたのうっすらと冷たく
懐かしい身体に
触れようとすると
+
白線の内側にお下がりください
と言われて人々はみな
思い思いに白線を描き
内側に下がると
そのままどこかに行ってしまった
どうして僕は
チョークを忘れてしまったのだろう
+
電車は電力をなくし
いつしか犬が
車両を引くようになった
町にひとつしかない駅を
特急が犬の速度で通過する
それでも当時の名残で
誰もが
電車、としか呼ばない
+
誕生日なので飛行機に乗り
どこか遠くに行こうと思いました
幾つかの交通機関を乗り換え
大きな空港に着くと
ロビーには既にたくさんの人がいました
みんな今日が誕生日なのだ、と思うと
僕はまだ産まれてなどいませんでした
+
野原の真ん中で
扇風機が首を振っている
何かの神様に見えたのかもしれない
小さな子供が
土のお団子をお供えして
いつまでも手を合わせていた


焼き鳥が
香ばしい匂いを振りまきながら
暁の空を行く
カルシウムでできた複雑な骨を失い
たった一本の竹串を骨にすることで
初めて得た飛行を
力の限り大切にしながら
もうコケコッコーも
言わないつもりなのだ
+
交番の前では
制服姿の警察官が
三人で話をしている
すぐ近くにあるバケツでは
音も無く
水が蒸発している
+
仔犬の眼の中に
なみなみとしている
プールで私が泳いでいると
雨が降っているフェンスの
向こう側
誰かのお墓みたいに
木々が直立していて
いつか仔犬、
あなたの分まで
死んであげたいと思った
+
そんな幸せ
が転がっていて
小人たちが
拾い集めている
あの時
霧雨に濡れていたのは
何だったのだろう
静かな
壁の近くで
+
ミスとミスターと
が徒歩でやって来て
言葉を書いて
殴るように書いて
本当に殴って
簡単な履歴で良かったのに
わたしには何一つ干渉することなく
これは詩だよ、これは詩だよ
と朗読を始め
それからなるべく沢山の
フルーツ風味のドーナツを食べて
これは奇麗だよ、これは奇麗だよ
と空地に咲いていた
セイタカアワダチソウの良いところを
何本か見繕って摘んで
徒歩で帰って行った
ミスとミスターと
であった
+
夕べ着ていたパジャマと
同じ色をした霊柩車がゆっくりと走り
そのうしろを枕と同じ姿の人たちが
僕の遺影をもってついて行く
これは夢なのだ
すぐにわかりはしたが
夢から覚める方法を思い出せないまま
最後尾に並ぶ
+
長い廊下の一番奥では
補欠部員の僕が
練習をしています
足と耳のバランスが悪く
あとは残りの
手と声も
まだなれてません
もうひとつの一番奥では
レギュラーたちが
乗り物から降りるのが見えます
彼らはすっかりなれていて
その悲しみも
背負っているかのようでした
顧問の号令にあわせて
いっせいに瞬きをしています
+
夕食の準備をしている妻が
冷蔵庫を覗き込みながら
帰りたい、とつぶやくのを
僕は聞いてしまった
翌日故郷に向かうチケットを
二枚買って帰ると
妻は冷蔵庫の前から
決して動こうとはしなかった
+
男の人と女の人が
投入口から
コインを次々と入れていく
いろいろな形や大きさの
コインがあるというのに
いつまでたっても
必要な金額を満たさない
側では小さな男の子が所在無さ気に
蟻の行列を見ている
とてもわかりやすく言えば
僕はそんな子供だった
+
すっかりと細く
その気になれば
どこの隙間にでも
当てはまりそうなのに
わずかばかりの肉体
その厚みのために
わたしはまだ
いなければならない
遠くから
下校途中の子供たちの
声が聞こえる
わたしにもあんな時があった
そして
その声を聞いていた人が
確かにいたはずなのだ
香ばしい匂いを振りまきながら
暁の空を行く
カルシウムでできた複雑な骨を失い
たった一本の竹串を骨にすることで
初めて得た飛行を
力の限り大切にしながら
もうコケコッコーも
言わないつもりなのだ
+
交番の前では
制服姿の警察官が
三人で話をしている
すぐ近くにあるバケツでは
音も無く
水が蒸発している
+
仔犬の眼の中に
なみなみとしている
プールで私が泳いでいると
雨が降っているフェンスの
向こう側
誰かのお墓みたいに
木々が直立していて
いつか仔犬、
あなたの分まで
死んであげたいと思った
+
そんな幸せ
が転がっていて
小人たちが
拾い集めている
あの時
霧雨に濡れていたのは
何だったのだろう
静かな
壁の近くで
+
ミスとミスターと
が徒歩でやって来て
言葉を書いて
殴るように書いて
本当に殴って
簡単な履歴で良かったのに
わたしには何一つ干渉することなく
これは詩だよ、これは詩だよ
と朗読を始め
それからなるべく沢山の
フルーツ風味のドーナツを食べて
これは奇麗だよ、これは奇麗だよ
と空地に咲いていた
セイタカアワダチソウの良いところを
何本か見繕って摘んで
徒歩で帰って行った
ミスとミスターと
であった
+
夕べ着ていたパジャマと
同じ色をした霊柩車がゆっくりと走り
そのうしろを枕と同じ姿の人たちが
僕の遺影をもってついて行く
これは夢なのだ
すぐにわかりはしたが
夢から覚める方法を思い出せないまま
最後尾に並ぶ
+
長い廊下の一番奥では
補欠部員の僕が
練習をしています
足と耳のバランスが悪く
あとは残りの
手と声も
まだなれてません
もうひとつの一番奥では
レギュラーたちが
乗り物から降りるのが見えます
彼らはすっかりなれていて
その悲しみも
背負っているかのようでした
顧問の号令にあわせて
いっせいに瞬きをしています
+
夕食の準備をしている妻が
冷蔵庫を覗き込みながら
帰りたい、とつぶやくのを
僕は聞いてしまった
翌日故郷に向かうチケットを
二枚買って帰ると
妻は冷蔵庫の前から
決して動こうとはしなかった
+
男の人と女の人が
投入口から
コインを次々と入れていく
いろいろな形や大きさの
コインがあるというのに
いつまでたっても
必要な金額を満たさない
側では小さな男の子が所在無さ気に
蟻の行列を見ている
とてもわかりやすく言えば
僕はそんな子供だった
+
すっかりと細く
その気になれば
どこの隙間にでも
当てはまりそうなのに
わずかばかりの肉体
その厚みのために
わたしはまだ
いなければならない
遠くから
下校途中の子供たちの
声が聞こえる
わたしにもあんな時があった
そして
その声を聞いていた人が
確かにいたはずなのだ


手に触れるすべての
温度と湿度が
いつもより優しく感じられる
マリオをやれば
たくさんコインを取れる気がする
喪服に袖を通す
今日はもう
泣かずに済むのだと思う
+
こっちのセリフだ
とあっちが言うので
そっちはもう
どっちでもない
そんなことはどうでも良いが
きみが並べた出鱈目の様に
今朝から寂しい
+
鍵盤をひとつひとつ
失いながら
ピアノが
海を沈んでいく
最後まで
多忙であった
+
犬自身の中に
犬小屋はある
遊ぶのに飽きて
帰ろうとするが
夕暮ればかりが続き
いつまでもたどり着かない
+
自転車のペダルをこいでいると
それは何かの高さの
ようでもあった
転落しないように、と
二人で笑って
幸せだったかもしれない
+
扉を開ける
また扉がある
今度こそは、と開けると
案の定扉はある
入ろうとしているのか
出ようとしているのか
わからないうちに
通過してしまった
動かなくなった父の側を
+
ハウスの裏は
どこまでも川がつながっている
余計なお世話ですが
ポテトのSはいりませんか
という店員の辱めにもめげず
僕らは馬の姿のまま
身勝手にギャロップをしている
+
テーブルの上に
林檎が一つ置かれている
の音がする
私の生きている、は
不確かな幻かもしれないけれど
幻だった例もないのだ
+
手足が絡み合って
体操をなくした
途中、味のしない地下鉄に
追いかけられた
この海は
意味のない繰り返しだね
結論はきみに出して欲しい
と言ったら
+
他所様の庭で
席替えは続けられて
友だちはまた沖へと
流されていく
奥さんと娘さんは
まだ栗の皮を剥いていますか
黒板けしをきれいに叩くと
新しい学期は
もう始まっている
温度と湿度が
いつもより優しく感じられる
マリオをやれば
たくさんコインを取れる気がする
喪服に袖を通す
今日はもう
泣かずに済むのだと思う
+
こっちのセリフだ
とあっちが言うので
そっちはもう
どっちでもない
そんなことはどうでも良いが
きみが並べた出鱈目の様に
今朝から寂しい
+
鍵盤をひとつひとつ
失いながら
ピアノが
海を沈んでいく
最後まで
多忙であった
+
犬自身の中に
犬小屋はある
遊ぶのに飽きて
帰ろうとするが
夕暮ればかりが続き
いつまでもたどり着かない
+
自転車のペダルをこいでいると
それは何かの高さの
ようでもあった
転落しないように、と
二人で笑って
幸せだったかもしれない
+
扉を開ける
また扉がある
今度こそは、と開けると
案の定扉はある
入ろうとしているのか
出ようとしているのか
わからないうちに
通過してしまった
動かなくなった父の側を
+
ハウスの裏は
どこまでも川がつながっている
余計なお世話ですが
ポテトのSはいりませんか
という店員の辱めにもめげず
僕らは馬の姿のまま
身勝手にギャロップをしている
+
テーブルの上に
林檎が一つ置かれている
の音がする
私の生きている、は
不確かな幻かもしれないけれど
幻だった例もないのだ
+
手足が絡み合って
体操をなくした
途中、味のしない地下鉄に
追いかけられた
この海は
意味のない繰り返しだね
結論はきみに出して欲しい
と言ったら
+
他所様の庭で
席替えは続けられて
友だちはまた沖へと
流されていく
奥さんと娘さんは
まだ栗の皮を剥いていますか
黒板けしをきれいに叩くと
新しい学期は
もう始まっている


好きなものを頼みなさい
メニューを渡すと
娘はしばらくうつむいて
星が見たいと言う
隣のテーブルにバスがいたので
手を繋ぎ乗る
ひとつ前の停留所で
サーカスを見るために
大半の客は降りた
私たちは終点で降り
小高い丘を登って
いつまでも天体観測を続けた
+
空腹に
ソーセージが詰められていく
そのうちの何本かは
ウィンナーかもしれない
そう考えると
すっかり縮みあがって
夜盗の助走は
失速する
+
距離とは
きっと
何かの理由
会いたいとか
会えないとか
頭突きをするとか
しないとか
+
大工さんたちが私を囲んで
私の一部をはがしたり
何かを取り付けたりし始める
リフォームをするのだと言う
頼んではいない、と抗議すると
家の人に許可をいただいてますから
そう返される
父も母もすでにこの世にはいない
妻とはとっくに別れた
いや、そうではなかったかもしれない
元気な父と母
美しい妻と可愛い息子と娘
それに産まれたばかりの仔犬
優しい思い出が溢れ出して
幸せな気持ちでいっぱいになる
脳みそを取り替えられたようだ
新しい脳みその
どこか遠いところでそう思いながら
+
これは東三丁目に行きますか
本の表紙に描かれた
バスの絵を指差しながら
初老の女性が途方に暮れている
小さい頃によく遊んだマリコちゃんに
会いに行きたいのだと言う
マリコちゃんにどうぞ、と
グレープフルーツを差し出すと
女性は嬉しそうに微笑む
どこまでが思い出で
どこまでが女性自身なのか
すでに見分けはつかなくなってた
+
ハラメシの炊き上がった匂いがする
一年に一度だけ食べられるハラメシは
特段美味しい、ということもないが
風習とはそういうものだ
ハラメシを前に
家族皆で手を合わせる
そのことの意味を誰も知らないが
祈りとはそういうものだ
この日ばかりは
食後のゲップは禁忌である
+
右手と左手は
朝から機嫌が悪い
キオスクで働く兄は
右足と左足を取り違えたまま
勤めに行ってしまった
右岸で寝ている人の夢の中で
左岸の人は今日も忙しい
あと何日
自分は生きるのだろうか
+
男は、ムラオカです、
とだけ名乗り
金属がより金属に近づこうと
静かに脱皮を続ける
かの口調で
立方体の話をする
別れ際、男は
本当はスズキだったのです、
と言ってそれから
何事も無かったかのように
春の花を満載した自転車に
ひかれた
+
三時間目図工の授業では
遊園地の絵を描く課題が与えられた
級友たちが様々な形の乗り物を
色彩豊かに塗りつぶしていく中
少年だけはみすぼらしいベンチを描いた
何に乗ることも無く父親と二人で
一日中ベンチに腰掛けていた
遊園地にはそんな思い出しかないのだ
少年は座っている人を描き始めたが
そこには少年と母親の
幸せそうな姿しかなかった
+
街は保とうとする私たちの外形
私たちは不規則に
膨張を繰り返すものの軌跡
ほのかな光を発し
自分自身の中を飛行する寂しい
、の電力を運ぶため
送電線は走る
路上に放置されたコンクリートの破片
私たちはその中にさえも
記憶されることは難しい
メニューを渡すと
娘はしばらくうつむいて
星が見たいと言う
隣のテーブルにバスがいたので
手を繋ぎ乗る
ひとつ前の停留所で
サーカスを見るために
大半の客は降りた
私たちは終点で降り
小高い丘を登って
いつまでも天体観測を続けた
+
空腹に
ソーセージが詰められていく
そのうちの何本かは
ウィンナーかもしれない
そう考えると
すっかり縮みあがって
夜盗の助走は
失速する
+
距離とは
きっと
何かの理由
会いたいとか
会えないとか
頭突きをするとか
しないとか
+
大工さんたちが私を囲んで
私の一部をはがしたり
何かを取り付けたりし始める
リフォームをするのだと言う
頼んではいない、と抗議すると
家の人に許可をいただいてますから
そう返される
父も母もすでにこの世にはいない
妻とはとっくに別れた
いや、そうではなかったかもしれない
元気な父と母
美しい妻と可愛い息子と娘
それに産まれたばかりの仔犬
優しい思い出が溢れ出して
幸せな気持ちでいっぱいになる
脳みそを取り替えられたようだ
新しい脳みその
どこか遠いところでそう思いながら
+
これは東三丁目に行きますか
本の表紙に描かれた
バスの絵を指差しながら
初老の女性が途方に暮れている
小さい頃によく遊んだマリコちゃんに
会いに行きたいのだと言う
マリコちゃんにどうぞ、と
グレープフルーツを差し出すと
女性は嬉しそうに微笑む
どこまでが思い出で
どこまでが女性自身なのか
すでに見分けはつかなくなってた
+
ハラメシの炊き上がった匂いがする
一年に一度だけ食べられるハラメシは
特段美味しい、ということもないが
風習とはそういうものだ
ハラメシを前に
家族皆で手を合わせる
そのことの意味を誰も知らないが
祈りとはそういうものだ
この日ばかりは
食後のゲップは禁忌である
+
右手と左手は
朝から機嫌が悪い
キオスクで働く兄は
右足と左足を取り違えたまま
勤めに行ってしまった
右岸で寝ている人の夢の中で
左岸の人は今日も忙しい
あと何日
自分は生きるのだろうか
+
男は、ムラオカです、
とだけ名乗り
金属がより金属に近づこうと
静かに脱皮を続ける
かの口調で
立方体の話をする
別れ際、男は
本当はスズキだったのです、
と言ってそれから
何事も無かったかのように
春の花を満載した自転車に
ひかれた
+
三時間目図工の授業では
遊園地の絵を描く課題が与えられた
級友たちが様々な形の乗り物を
色彩豊かに塗りつぶしていく中
少年だけはみすぼらしいベンチを描いた
何に乗ることも無く父親と二人で
一日中ベンチに腰掛けていた
遊園地にはそんな思い出しかないのだ
少年は座っている人を描き始めたが
そこには少年と母親の
幸せそうな姿しかなかった
+
街は保とうとする私たちの外形
私たちは不規則に
膨張を繰り返すものの軌跡
ほのかな光を発し
自分自身の中を飛行する寂しい
、の電力を運ぶため
送電線は走る
路上に放置されたコンクリートの破片
私たちはその中にさえも
記憶されることは難しい


よく晴れた日
ハンガーに吊るして
自分を干してみる
きっと人はこのように
優しく干からびていくのだろう
水分も記憶も失いながら
+
鏡に向かって
笑う
そんな嘘
ばかりついてる
+
目が覚めると
家が巨大なクラゲになっていた
さっきまで寝ていた布団も
すっかり湿っている
クラゲは透明な触手を揺らして
威嚇をする
なるべく刺激しないように
そっと洗面所に行き
蛇口をひねる
タツノオトシゴが沢山出てくる
実は水の中にいるのだと
気づきたくないので
呼吸ばかりしている
+
栞の代わりに挟んだ
刺身がもう腐って
臭いから
部屋の隅に寄せる
明日は部屋の外に出す
明後日は家の外にある
+
夜中にお腹がすいて
台所に行くと
すでに母は来ていた
父が大事に育てていた
カイワレダイコンを
二人して食べた
父は怒らなかった
笑うことしか
知らない人みたいに
+
枕の中を航行する
船の甲板で
あなたが手を振っている
もしかしたらそれは
尻尾を振っている
あなたの犬かもしれない
輪郭が曖昧なまま
睡眠という
悲しい航海は始まる
+
このエレベーターは
どこまで行くのだろう
既に最上階を越えて
それでもまだ
昇り続ける
忘れ物を置いていくように
懐かしい人の顔が
次々と浮かぶ
懐かしくない人も
懐かしい人になっていく
+
足がたくさん生えていたので
あるだけの靴やサンダルを
履かせていく
それでも足りなくて
近所の靴屋に買いに出かける
途中一足拾って
少し得した気分になる
どこに生えていたのか
なんて余計なことは考えずに
買い物は続く
+
今日も一日駅に
列車はやって来なかった
駅員は所定の事項を日誌に書くと
丁寧なお辞儀をして
夜勤の者に引き継ぐ
それから徒歩で他の駅へ行き
列車に乗って
帰宅をする
+
町の外れにはピラミッドがある
それが偉い人のお墓だということは
小さな子供でも知ってる
どれだけ偉い人なのか、ということは
入学して二年目に勉強する
三年目になると子供たちは
先生に引率されて
ピラミッドの頂上に登る
先生は町を見下ろしながら
あれが学校、駐在所、何とかという商店
と町の地理をひととおり説明をする
それから数年後町を出た子供たちは
他の町で育った同級生や同僚に
懐かしそうにその話をする
そして大抵の場合
そんなピラミッドなど知らない
と言われる
ハンガーに吊るして
自分を干してみる
きっと人はこのように
優しく干からびていくのだろう
水分も記憶も失いながら
+
鏡に向かって
笑う
そんな嘘
ばかりついてる
+
目が覚めると
家が巨大なクラゲになっていた
さっきまで寝ていた布団も
すっかり湿っている
クラゲは透明な触手を揺らして
威嚇をする
なるべく刺激しないように
そっと洗面所に行き
蛇口をひねる
タツノオトシゴが沢山出てくる
実は水の中にいるのだと
気づきたくないので
呼吸ばかりしている
+
栞の代わりに挟んだ
刺身がもう腐って
臭いから
部屋の隅に寄せる
明日は部屋の外に出す
明後日は家の外にある
+
夜中にお腹がすいて
台所に行くと
すでに母は来ていた
父が大事に育てていた
カイワレダイコンを
二人して食べた
父は怒らなかった
笑うことしか
知らない人みたいに
+
枕の中を航行する
船の甲板で
あなたが手を振っている
もしかしたらそれは
尻尾を振っている
あなたの犬かもしれない
輪郭が曖昧なまま
睡眠という
悲しい航海は始まる
+
このエレベーターは
どこまで行くのだろう
既に最上階を越えて
それでもまだ
昇り続ける
忘れ物を置いていくように
懐かしい人の顔が
次々と浮かぶ
懐かしくない人も
懐かしい人になっていく
+
足がたくさん生えていたので
あるだけの靴やサンダルを
履かせていく
それでも足りなくて
近所の靴屋に買いに出かける
途中一足拾って
少し得した気分になる
どこに生えていたのか
なんて余計なことは考えずに
買い物は続く
+
今日も一日駅に
列車はやって来なかった
駅員は所定の事項を日誌に書くと
丁寧なお辞儀をして
夜勤の者に引き継ぐ
それから徒歩で他の駅へ行き
列車に乗って
帰宅をする
+
町の外れにはピラミッドがある
それが偉い人のお墓だということは
小さな子供でも知ってる
どれだけ偉い人なのか、ということは
入学して二年目に勉強する
三年目になると子供たちは
先生に引率されて
ピラミッドの頂上に登る
先生は町を見下ろしながら
あれが学校、駐在所、何とかという商店
と町の地理をひととおり説明をする
それから数年後町を出た子供たちは
他の町で育った同級生や同僚に
懐かしそうにその話をする
そして大抵の場合
そんなピラミッドなど知らない
と言われる


尖った粘土に
刺さった虫
のように
息だけ
している
息しか
できない
+
明方
キリンの群れが横断歩道を
渡っていく
あれは首長竜の一種だ
と弟に教える
弟は悲しそうな顔をしながら
恐竜図鑑に書き加えていく
+
愛は海よりも
深い
たとえ遠浅でも
海は海だ
愛が愛であるかは
別として
+
たくさんの背中を
見すぎて
父さん、乱視は
進んでいきます
合う眼鏡がなくて
今日も世界は
気持ちが悪いままです
+
弁当箱の
裏についた
米粒のあたりで
宇宙の四百二十三番地が
発見された
+
二人で
もっと大きな
ビルディングを食べよう
明日の話は
それから
+
昨日荷物を
引きずっていた人が
今日は荷物に
引きずられている
その様子を見ながら
母親が子供に
時刻を教えている
+
自分の身体の一部が
埋まっている気がして
深夜
砂場へと出かける
いくら掘っても見つからない
時々何かがあるけれど
身体のどこにも
当てはまらない
+
空は陥落した
その下には
今日も美しい都市が
広がっている
絶えることの無い
笑顔と歌声
確かに
廃墟はあるのだ
人々の皮膚に覆われて
+
色をなくして
列車は走る
既に形を失い
音も名前も失った
それでも車掌が
列車だと言い張るので
運転士は春の土手を
全速力で走る
刺さった虫
のように
息だけ
している
息しか
できない
+
明方
キリンの群れが横断歩道を
渡っていく
あれは首長竜の一種だ
と弟に教える
弟は悲しそうな顔をしながら
恐竜図鑑に書き加えていく
+
愛は海よりも
深い
たとえ遠浅でも
海は海だ
愛が愛であるかは
別として
+
たくさんの背中を
見すぎて
父さん、乱視は
進んでいきます
合う眼鏡がなくて
今日も世界は
気持ちが悪いままです
+
弁当箱の
裏についた
米粒のあたりで
宇宙の四百二十三番地が
発見された
+
二人で
もっと大きな
ビルディングを食べよう
明日の話は
それから
+
昨日荷物を
引きずっていた人が
今日は荷物に
引きずられている
その様子を見ながら
母親が子供に
時刻を教えている
+
自分の身体の一部が
埋まっている気がして
深夜
砂場へと出かける
いくら掘っても見つからない
時々何かがあるけれど
身体のどこにも
当てはまらない
+
空は陥落した
その下には
今日も美しい都市が
広がっている
絶えることの無い
笑顔と歌声
確かに
廃墟はあるのだ
人々の皮膚に覆われて
+
色をなくして
列車は走る
既に形を失い
音も名前も失った
それでも車掌が
列車だと言い張るので
運転士は春の土手を
全速力で走る


人の嘘で
鳥は空を飛ぶ
鳥の嘘で
ドアは人を
閉じ込める
ドアの中で
人は鳥を
飛ばし続ける
+
いつも
三人なのに
いつも
八等分
してしまう
+
叩く
ただひたすらに
叩き続ける
それを何かの確認だと
思うことなく
+
指先から
枯れた草の匂いがする
帰って来ないあの人の指先も
同じ匂いがした
他に何も似てないのが
おかしいくらいに
+
あのきれいな色の
ジュースを飲めば
きれいになれる
かもしれないのに
必ず十円が足りない
+
紙に知らない人の
名前を書いてる
多分それは
知らない人の
名前だったと思う
+
機械を拾いに
広場に行く
思ったより落ちていたのは
機械化が進んいるからだろう
持ち帰り
きれいに一つ一つ磨いて
きれいに庭に埋めていく
+
廊下に長い影
長く伸びすぎて
壁に折れる
蹴ったボール
その向こう
窓からは
雑木林が見える
+
母がブランコをしている
少し離れて
妹が泣いている
母をしまう
妹はブランコに駆け寄り
落ちていた人形を拾って
嬉しそうに笑う
+
いつのころからか
雨のように鳴く虫が
目の中に住み着いてる
涙を餌にしているようで
最近すっかり
涙が零れなくなった
人でなし、と
散々罵られる
雨の音は
きみには聞こえないらしい
鳥は空を飛ぶ
鳥の嘘で
ドアは人を
閉じ込める
ドアの中で
人は鳥を
飛ばし続ける
+
いつも
三人なのに
いつも
八等分
してしまう
+
叩く
ただひたすらに
叩き続ける
それを何かの確認だと
思うことなく
+
指先から
枯れた草の匂いがする
帰って来ないあの人の指先も
同じ匂いがした
他に何も似てないのが
おかしいくらいに
+
あのきれいな色の
ジュースを飲めば
きれいになれる
かもしれないのに
必ず十円が足りない
+
紙に知らない人の
名前を書いてる
多分それは
知らない人の
名前だったと思う
+
機械を拾いに
広場に行く
思ったより落ちていたのは
機械化が進んいるからだろう
持ち帰り
きれいに一つ一つ磨いて
きれいに庭に埋めていく
+
廊下に長い影
長く伸びすぎて
壁に折れる
蹴ったボール
その向こう
窓からは
雑木林が見える
+
母がブランコをしている
少し離れて
妹が泣いている
母をしまう
妹はブランコに駆け寄り
落ちていた人形を拾って
嬉しそうに笑う
+
いつのころからか
雨のように鳴く虫が
目の中に住み着いてる
涙を餌にしているようで
最近すっかり
涙が零れなくなった
人でなし、と
散々罵られる
雨の音は
きみには聞こえないらしい


朝のやかん
なぞって
もう一度寝る
エビの夢を
見ながら
+
階段
すべてが
階段
そんな
建物
+
夕刊の
「帰」という字を
黄色く
塗っていくと
多いのか
少ないのか
よくわからない
+
歯を磨くことが
こんなにも
難しい
会えない人の
名を呼びながら
+
生きている、と
生きている人に
言う
しまらない
とどかない
+
カミツキガメ
に噛みついた
女の伝記
身勝手に生きて
身勝手に逝った
+
昔から部屋の中を
川が流れているのに
どちらが上流か
まだわからない
という夢の中で
魚は溺れる
+
もう少し
水のように話そう
双子の
手品師と
詐欺師が
シーソーをする
公園で
+
誰にも届けられなかった
花束が
空を飛んでいる
スズメやカラスが
群がり突っつく
しばらく見ていたけれど
他に珍しい鳥は
現れなかった
+
ベランダに
干してある
シャツ
パンツ
タオル
靴下
布類はいつも
そこで終わっている
なぞって
もう一度寝る
エビの夢を
見ながら
+
階段
すべてが
階段
そんな
建物
+
夕刊の
「帰」という字を
黄色く
塗っていくと
多いのか
少ないのか
よくわからない
+
歯を磨くことが
こんなにも
難しい
会えない人の
名を呼びながら
+
生きている、と
生きている人に
言う
しまらない
とどかない
+
カミツキガメ
に噛みついた
女の伝記
身勝手に生きて
身勝手に逝った
+
昔から部屋の中を
川が流れているのに
どちらが上流か
まだわからない
という夢の中で
魚は溺れる
+
もう少し
水のように話そう
双子の
手品師と
詐欺師が
シーソーをする
公園で
+
誰にも届けられなかった
花束が
空を飛んでいる
スズメやカラスが
群がり突っつく
しばらく見ていたけれど
他に珍しい鳥は
現れなかった
+
ベランダに
干してある
シャツ
パンツ
タオル
靴下
布類はいつも
そこで終わっている


もし僕がDJだったら
もっとカオルのことを愛せたのに
父の荷物を整理している時
見慣れた筆跡で
そう書かれた紙切れを見つけた
母は屈み込んで
机の下にある二箱目のダンボールを
引っ張り出している
おそらく同じ姿勢で
昔、父が押し込んだ
父さん、やはり僕は
マリコの息子で良かった
もっとカオルのことを愛せたのに
父の荷物を整理している時
見慣れた筆跡で
そう書かれた紙切れを見つけた
母は屈み込んで
机の下にある二箱目のダンボールを
引っ張り出している
おそらく同じ姿勢で
昔、父が押し込んだ
父さん、やはり僕は
マリコの息子で良かった