プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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道路を丸めて食べる
どうしたら草の音みたいに
生きることができるのだろう
曲った色鉛筆
間違えないように覚えた言葉
値札の無い指の軌跡
並べることばかり
いつの間にか上手になって
見知らぬサルが隣に座って
昔からの友だちになる
何かの卵を手渡しでくれる
ひとつずつ温める
信じられないよ、
親になるんだ
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長いものに巻かれている
とても柔らかな
マシュマロに腰を掛けて
呼吸に合わせて
長いものが少しうねる
今まで大切な人と
大切なお話をしていたはずなのに
もう残りものの空しか見えない
ここは世界の果てかもしれない
ふと思う
そんな思いが救いになったことなど
一度もないけれど
身体がゆっくりと
マシュマロに溶けていく
自分にも体温があったことに
今更ながら戸惑う


整形外科で溺れた
子どもの頃から登り棒は得意だった
誰よりも早く天辺に登れる自信があった
それなのに整形外科で溺れてしまった
むしろ言葉の綾、
と言った方が正確なようにも思えるけれど
綾子そのものは昔の彼女の名前であり
どこかで幸せに暮らしていることを願うのは
ただのエゴなのかもしれない
しばらく溺れていると
二人の看護師さんに助けてもらった
二人とも細身で男の人だった
溺れて初めて
魚が何故エラ呼吸をするのかがわかった
もし魚だったら
看護師さんは助けてくれなかっただろうから
医師には右肩の亜脱臼と診断された
そのあとでエラ呼吸の仕組みについて
詳しい説明を受けた
エラ呼吸はともかく、右肩の亜脱臼は
自分の生活の中では珍しいことなので
きっと控えめな様子で
周りの人に自慢するのだろう
そしてその中に
綾子の姿はないだろう


売店で夕刊を買った
読むこともなく畳んで
テーブルの上に置いた
翌日から連泊の出張だった
帰ると夕刊はまだ同じ場所で
同じ格好をしていた
古新聞の上に積んだ
年を重ねるごとに増えた
「良くあること」のひとつ
たったひとつ
人にしてあげたいことが増えた
出来ないことも増えた


鉄条網を飲み込んだまま
息絶えたヘビ
懐かしいものはもう
手の甲に残る夏だけで構わない
「なつかしいなつ」
を逆さに読んでも
「なつかしいなつ」
になる
そんなはずもないのに
しばらく暗唱していると
大切な菓子を地面に落とし
泣いている子の
姿勢が目に入る
その瞬間に視界を遮る
虫の羽音に良く似た
わたしの薄い瞼


町の公民館に移動映画館が来た
視聴覚室の小さなスクリーンと
パイプ椅子で上映された
打算的な男と女の物語だった
適当なところで事件が発生し
男も女もよく舌打ちをした
飽きてしゃべりだす子どもたちを
たしなめる親の声が
あちらこちらから聞こえた
映画は無難な結末で終わった
帰りに、一人で暮らしている
再従兄のアパートに寄った
先ほどまで寝台で横になっていたようだ
最近は手の震えがひどくて何もかも億劫だよ
そう言って湯を沸かし始めた
手伝おうとしたけれど
お茶を入れるくらいなら
と言って急須にお湯を注いだ
お茶を飲み
いくつかの世間話や親類の話をした
その後、簡単に部屋の掃除をして
シンクに溜まっていた食器を洗い
アパートを出た
掃除中に、いいから、いいから、
と言っていた再従兄の声が耳に残った
かえって傷つけてしまったのかもしれない
と思うのに精一杯で
他のことは特に何も思わなかった


会社の電話が鳴る
受話器を取ると
雨音だけが聞こえる
すぐに父親からだとわかる
何の前触れもなく
そして何も話さないから
電話の時は昔からそう
ずっとそう
受話器から漏れてくる雫で
耳がじゅくじゅくになる
爪を噛むことなく
雨音を聞き続ける
中学生の頃からだろうか
爪を噛まない、という
変な癖がついてしまったのは
私用の電話なら早く切るように
と、上司に注意される
血も涙も無いような厳しい上司
それでも昼時になれば食事に出る
血や涙を作るために
週末、父はデパートの近くで
ひっそりと再婚の式を挙げる
特にこみ上げるものも無いまま
仕事を終えて地下鉄に乗る
窓に映るぼんやりとした容姿のように
世の中のすべてが
比喩だったら良いのに
部屋に着いた数十分後の
自分を想像してみる
まず最初に
コートを脱ぐのだろう


列車も停まらないような
ホームの一番端でひとり
ご飯を食べている
ちゃぶ台は誰かが置いていってくれた
多分、親切な人なのだと思う
納豆や根菜類の煮物など
好きなおかずを並べて
やっぱり白いご飯は美味しい
並んだ人々は何かを待ったまま
小さくかじかんでいる
通過した特急列車の風に
焼海苔が飛ばされる
やがて細かく砕け
曖昧なものになるのだろう
前後関係がうまく繋がらない
古い記憶のように
もう一杯食べたいけれど
炊飯器は
産まれた町に忘れてきてしまった
お代りが遠い


目が覚めるとわたしは突然
車掌さんになっていて
最後尾の車掌室にいる
夢の続きだろうか、と思い
頬っぺたをつねろうとするのに
指が見つからない
車掌さんなんてしたことなどないくせに
無難に仕事をこなしていく
これから明るくなるのか
もっと暗くなるのか
わからないほど真っ暗な空気に包まれて
列車は走っていく
終着駅に着くと
なで肩の人々がホームに降りてくる
少なくともわたしの友だちや
親類縁者ではない感じだ
車内の点検中
網棚に誰かの忘れていった
小さな命があった
自分の命のような気もしたけれど
わたしとは型が合わない
他の物と一緒に係へ届ける