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こっそりと詩を書く男の人
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HN:
たもつ
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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2024/05/14 (Tue)
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2011/05/17 (Tue)
 
 
冷蔵庫を開ける
誰かの靴が入っている
良く冷えている
冷凍室に移し替える
靴の持ち主が困らないよう
もとあった所に
その旨のメモを残しておく
それから靴以外のすべての中身を出す
廃棄物の業者に連絡して
冷蔵庫を引き取りに来てもらう
もとあった所に
やはりメモを残す
不親切にならないように
靴のことも書き添えておく
家から出る
玄関に手紙を置いて行く
「わたしを探さないでください」
何故だろう
裸足のままなのに冷たい
 
 
 
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2011/05/15 (Sun)
 
 
窓辺の席で
遺書を書いていると
一匹の蝶が
入ってきました

蝶はしばらく
便箋の上を飛び
再び出て行きました

わたしはふと
誤字に気づき
その頁を破りました
少し音がしました
  
 
2011/05/14 (Sat)
 
 
橋の上で兄は星を数えていました
すぐ横で私は橋を数えていました
星は数えきれないほどたくさんありました
橋は私たちのいた橋ひとつだけでした
何度数えてもひとつでした
それが兄と私との縮まらない距離でした

時間になると私たちは
同じ家に帰りました
それぞれの姿勢で
父と母が待っていました
台所や風呂場の狭い借家でした
雨が降ると
生きたカタツムリの臭いが
微かにしました

大人になって兄は
橋を架ける仕事に就きました
数年後に大人になった私は
椅子に座っている人と
話をするようになりました
時々、椅子と話をしたくなります
 
  
 
2011/05/12 (Thu)


Spring has come.
バネがやってきました
おつかまりください、つり革や手すりに
急停車をすることがあります
電車は事故防止のためにです
このまま直進五十メートル右折
桜の花が満開です
その下でたくさんの人が
つり革や手すりにつかまっています
Spring has come.
バネがやってきました
 
 わたしは少年です
 わたしは生徒です
 わたしは学校に行きます
 わたしは座ります
 わたしは立ちます
 わたしは日本人です
 わたしは英語を話します
 先生はイギリス人です
 Spring has come.
 これは鉛筆です
 わたしは鉛筆を持っています
 わたしはあなたに鉛筆をあげます 
 わたし、とは何者であるのか
 百文字以上二百文字以内で答えなさい
 
二点以上お買い上げで十パーセントオフ
顔色の悪い方に限り
レジにてさらに十パーセントオフ
急停車する場合がありますので
おつかまりください
それは時々つり革や手すりであったりですが
時々温かい人や低体温に悩む人の手だったりします
このまま直進五十メートル右折
防犯カメラ作動中につき
茶道のたしなみは多少あります
わたしは少年です
わたしは走ります
走り続けます、校庭をです
校庭では桜の花が満開です
母が桜の花びらでジャムを作っています
父が台所を気にしています
わたしにはしてあげられないことの方が多いです
Spring has come.
バネがやってきました

わたしは野球をします
わたしは野球が好きです
わたしは上手に野球をします
わたしは良い野球選手です
television set は
正しくテレビの受像機と訳してください
彼は英語の先生です
これはペンです
ペンがあります
ペンが二本あります
彼はペンを持っているところの先生です
This is a pen.
で笑える時代は終わりました
つり革や手すりにおつかまりください
通行の妨げになりますので
通路や階段に座らない方が良いです
むしろ座らないでください
本当は邪魔な人などいないはずですが
誰かが誰かを必要としているはずなのですが
Spring has come.
春がやってきました
わたしはつり革から手を離し
バネをポケットに入れます
 
 
2011/05/11 (Wed)


公園の風に
子どもたちが落書きをしている
落書きは異国の文字みたいに
すぐに形を崩し
消えてしまう

ぼくはすぐ近くで
地図にも載っていないような小さな紙を
呟きよりもさらに小さく
破り捨てている

宝くじが当たったんだよ
父はそう言い残して
車椅子のまま
母とぼくと犬を置いて
家を出ていった

母は新種の虹を探しに
ぼくと犬を置いて
家を出ていった

犬はぼくを置いて
家を出ていった

落書きに飽きた子どもたちが
滑り台の階段を上っていく
どこまでも上っていく

危ないから早く滑っておいで
そんな言葉が喉まで出かかったのに
喉がどこにあるのか
むかしから見つからない
 
 
2011/05/09 (Mon)
 
 
夜、起きて台所に行く
冷蔵庫を開ける
豆腐が二丁入っている
皿に豆腐をのせる
豆腐を握りつぶす
二丁ともつぶす

皿も豆腐も白いのに
皿を握りつぶすことはない
世の中の仕組みは
時々良く出来ている

翌朝、きみと二人で豆腐を食べる
形のある豆腐が食べたい
きみがつぶやく
いつもごめん、そう謝ると
きみは悲しそうにうつむく
世の中の仕組みでは
説明できないことが時々ある

このように少しずつ
すれ違っていく
ぼくときみも
ぼくと豆腐も


2011/05/08 (Sun)

 
空車、と書かれた
駐車場の表示を見て
娘が空を見上げる

もちろん空に
車などあるわけがない
雲しかないね
つまらなそうに言う

娘よ、きみには
遠い昔のことかもしれないけれど
昨日も空には
雲しかなかった

2011/05/06 (Fri)
 
 
ゼリーでできた椅子に座る
蟻がたかる
僕はゼリーではないのに
椅子に座っているだけなのに

娘が小走りでやってくる
お薬、買って来たよ
笑いながら黄色い水薬が入った容器を見せる
ありがとう、でも本当に必要な薬はお店では買えないし
それに、僕には娘なんていないんだ、そう告げると
娘はばつが悪そうな顔をして消えていく

容器を持ったままの僕に
蟻はたかり続ける
色は絵具でつけた偽物の薬
失うことに慣れてしまうと
あることや
いることのありがたみを
知らないうちに忘れていく

蟻たちはいろいろな穴から
身体の中に入ってこようとする
まるで
僕がここにいるみたいに
 
 
2011/05/05 (Thu)
 
 
雨戸の隙間から草の根、その蔓延る音
脊髄に住む父親の手紙には、咳の匂いが染み付いている
大文字と小文字が事細かに交差する場所の夜明け、わたしの血液中の鉄分はすべて磁石で盗まれてしまった
いつのころからか、水槽の底に沈む、めまい、反感、バスの時刻表、羽の折れた扇風機など、未成熟な基準で集めたものには連番が振られ、管理をしている出納簿は時々ナメクジになり庭の隅々まで行き渡る癖がついた
近所の三つ子の二人がユニゾンしている間、残りの一人は砂場に穴を掘りながら星の名をすべて覚え、古紙回収業の若者と恋に落ちた
白線に翻弄される毎日を折りたたむ、それぞれ時計に似た形の、そして
誤りは丹念に訂正され続ける、たとえそれらが誤りでなくても
メトロノームの速度で呼吸が始まる
今日も内臓は優しい色合いのまま、体の中で濡れている
子どもたちは熱心に眠る、目覚めれば、世界は幸せに満ちているはずだ
歯車が回り、世界中のブランコ工場が一斉に稼働する
夜明け、走れ
走れ
走れ
 

2011/05/04 (Wed)
 
 
他に何もない日
野原にひとつ
屍があった

今にも、ストン
と落ちてきそうな空を
屍はただひとつで支えていた

誰が手向けたのか
頭の近くに
オオイヌノフグリが咲いていた

たとえその身が融けたとしても
空が落ちることはない
孤独な仕事は知らない間に
別のひとつへと引き継がれていく
やはり他に何もない日に


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* ILLUSTRATION BY nyao *