プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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僕にヒゲが生えていた頃
あなたは優しくヒゲを撫でてくれた。
今ではすっかりヒゲは枯れ
ビルなどの建築物が建ち
唇の近くまで人も歩くようになったけれど。
あなたの手のことはあまり思い出せない。
指はだいたいいつも五本くらいあったことを
ぼんやりと覚えているだけで。
手のしわの数や位置
黒子の有無
掌の相や指紋の形など
何も描くことはできない。
でも、正確に記憶していたとしても
それらはあなたそのものではない。
ヒゲを通して伝わってくる
あなたの手のぬくもり
(あなたは決して地肌には触れなかった)
それだけが僕にとっては
あなたのすべてだった。
もう一度僕はヒゲを生やそうと思う。
建物や人には他の所に移ってもらって
もう一度。
きっかけがあったわけではなく
おそらくそのような時期
年齢や周りの環境や今後のことなどを勘案して
そのような時期にきているのだと。
あなたがヒゲを撫でてくれなくても
気まぐれな風が撫でて行ってくれる。
もちろんそのぬくもりは違うけれど
あなたがいない、ということが
あなたそのものであるということを
ずっと忘れないために。
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計算ドリルをしていると
首筋に夜明けがやってくる
近くに声の病院があるので
あたり一面、ささやきや独り言が
しん、としている
隣の人が自転車に乗って
仕事場へと向かう様子が見える
仕事場に必要なものは
人なのか自転車なのか
よくわからないことが
ありふれている
計算ドリルはページの隅にまで
問題が敷き詰められている
答を書く余白がないので
いつまでもドリルは終わらない
あなたに伝えたいことは
たくさんあるはずなのに
握り締めたままの鉛筆の香りが
口実のように掌に染みついてる


近所の庭先に
みかんが生っている
枝は良く伸び
実は公道にまではみ出している
その下にひとつ
うんこが落ちている
多分、犬の
うんこ
何て素晴らしい響きなんだろう
純粋で
孤独で
何度発音しても
気高さを失わない
その語感を掴もうとして
手を伸ばしても
うんこはするりと身をかわし
逃げて行ってしまう
物質としてのうんこは
何かと間違えない限り
掴もうとしないのに
大した手土産も無く
知人宅へと向かう
もちろん
うんこの話もしない


静かな時計の匂いが
降り積もる教室で
僕らは眠るための訓練をしています
皆、先生に買ってもらったばかりの
蓮根を大事に抱えて
明日の晴れる日を想像しています
教室の隅には
かかとのように小さなホテルが
何となく建っています
先生が泊まるホテルなので
僕らは泊まることができません
先生は優しくそして時には厳しく
指導やアドバイスをしてくれますが
最後に必要なのは自分の力を信じることだ
と言います
抱えている蓮根は丸ごと一本なので
穴を確認することはできませんが
自分の力を信じて
中には穴があることを
僕らは知っています
先生がホテルから出てきて
今日のあいさつをします
おじぎ草の真似をするわけでもないのに
僕らは頭を垂れます


デオキシリボ核酸
でおきしりぼかくさん
でおきしりぼすけさん
格さん(渥美格之進)
横内正
助さん(佐々木助三郎)
里見浩太朗
正しくは
助さん(佐々木助三郎)
里見浩太朗
格さん(渥美格之進)
横内正
物事には正しい順序がある
順序を間違えれば人も命を落とすし
小さな虫も空を飛べない
この印籠が目に入らぬか
と言われて目に印籠を入れた悪代官は
眼の病院に入院したまま帰ってこない
その間に僕の理解できる黄門様は
東野英治郎だけになってしまった
すたろん、とした
友情出演
シルヴェスター・スタローン
に見送られ
何も知らない人のようにぼんやりと流れる川を
僕は流れていく
すべてのものはいつか必ず角を曲がる
その先には恋があり
そして墓標がある


光る小さな玉が
ふわふわと三つ
それぞれに適度な引力を持ち
時にはふわふわと引き合い
ふわふわと離れ
角もないのに接触した拍子に
傷をつけ、傷をつけ合い
そうかと思えば
光が曇って震えていると
互いに寄り添い
あるいは遠くから見守るように
ふわふわと
ただふわふわと
それらを命と呼ぶのか
魂と呼ぶのかわからないけれど
適度な距離を保って歩く
ままごとみたいだと笑われても
三人きりの家族であった


荒野に冷蔵庫はあった
冷蔵庫は洗濯機を冷やしていた
洗濯機は食器洗浄機を洗っていた
食器洗浄機は炊飯器を洗浄していた
炊飯器はマトリョーシカを保温していた
マトリョーシカは五重になっていた
その一番小さな中に
みんなの花子は眠っていた
みんなの大切な花子
花子に理由などなかった
それを希望と呼ぶのであれば
彼らは否定も肯定もしないだろう
次の春に花子が目覚めるまで
淡々と自分の仕事をこなすだけで
冷蔵庫にうっすらと雪が降り積もる
積雪量が多い地域ではなかったが
厳しい冬の寒さを越さなければならなかった


浦島太郎は海を見ていた
浜辺で膝を抱え
亀が海から来るのを待っていた
まだ青年だった
衣服から露出している腕や脚は
しなやかな筋肉で覆われていた
亀をいじめそうな腕白な子どもたちは
何度も浦島太郎の前を走って行ったけれど
亀が現れることはなかった
子どもたちは大人になり
それぞれの家庭を持った
それでも浦島太郎は一人で亀を待ち続けた
そうしているうちに髪も鬚も白くなった
かつての子どもたちの孫が
今では同じように目の前を走っていく
そして、いつもの浜辺で
ひっそりと息を引き取った
身寄りが無いので
村人たちによって埋葬された
また駄目だったか、と
絵本作家はため息をついて
新しい浦島太郎を描き始めた


世界地図を描くと
いつもはみ出してしまう
そんな遠くの大陸に広がる
乾燥した椅子地帯では
今年もイスコロガシの
産卵時期をむかえている
普段、イスコロガシは椅子を餌としているが
この時期になると
六本足のうち後ろの二本を器用に使い
逆立ちするような格好で
きれいな球状になるまで椅子を転がす
最後に椅子球の上部にくぼみを作り
そこに卵を数個産みつけ
背もたれの部分で蓋をする
卵は数日で孵化し
幼虫は自分を取り囲む椅子を食べて成長し
やがてさなぎになり
成虫の姿になると椅子球の中から出てくる
イスコロガシの椅子を転がす音は
季節風に乗って世界中へと運ばれる
寂しいとき
耳を澄ますとそのコロコロという音が
ふと聞こえてくる


逆立ちをしているゾウの足に
流れ星が刺さった
昼間の明るさで
誰にも見えなかった
ゾウは少し足が痛い気がしたけれど
逆立ちをやめてしまうと
子どもたちががっかりするので
我慢してその姿勢を崩さなかった
やがて夕方となり
子どもたちは家に帰って行った
ゾウは逆立ちをやめて
長い鼻で足に刺さった流れ星を取った
徐々に闇が濃くなるにつれ
流れ星は本来の輝きをとり戻した
その正体が何であるのか
ゾウにはわからなかったけれど
子どもたちにも見せたいと思った
でも彼らは食事や宿題をする
自分たちの生活の途中であり
そしてゾウは
彼らの親ではなかたった
流れ星は燃え尽きて
ただの石ころになった
ゾウがくしゃみをすると
どこかにとばされて
他の小さなものと
区別がつかなくなった