プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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ウォーリーは探されなければならなかった
探されるためには行方をくらまさなればならなかった
行方をくらますためにはいつも同じ服装をしなければならなかった
その服装が決めたものなのか決められたものなのか
ウォーリーには見当もつかなかった
ただ探されることは探すことよりも難しい気がした
探されるからには誰も傷つけることなく探されなければならなかった
そこに争いがあってはならなかった
憎しみがあってはならなかった
もっともウォーリーは一度も探したことなどなかった
気がつけばいつも探されている
それは呼吸のようにあたりまえのことであったが
ウォーリーには呼吸というものの正体がわからなかった
そもそも紙のように広がる街並みの中に
空気があるのかすらも疑わしかった
空気があるのかすらも疑わしい人と人との間に
今日もウォーリーは行方をくらまし
探されるための痕跡を残す
作り物のような原色の花が咲いてなびいている
ウォーリー、たとえ空気がなかったとしても
それは風と呼ばれるものだ
探されるためには行方をくらまさなればならなかった
行方をくらますためにはいつも同じ服装をしなければならなかった
その服装が決めたものなのか決められたものなのか
ウォーリーには見当もつかなかった
ただ探されることは探すことよりも難しい気がした
探されるからには誰も傷つけることなく探されなければならなかった
そこに争いがあってはならなかった
憎しみがあってはならなかった
もっともウォーリーは一度も探したことなどなかった
気がつけばいつも探されている
それは呼吸のようにあたりまえのことであったが
ウォーリーには呼吸というものの正体がわからなかった
そもそも紙のように広がる街並みの中に
空気があるのかすらも疑わしかった
空気があるのかすらも疑わしい人と人との間に
今日もウォーリーは行方をくらまし
探されるための痕跡を残す
作り物のような原色の花が咲いてなびいている
ウォーリー、たとえ空気がなかったとしても
それは風と呼ばれるものだ
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テレビが湿っている
ただで人からもらった
のだから仕方がないけれど
水分をたっぷりと含み
少し軟らかい感じがする
付属のリモコンも
ただで人からもらったから
同じように湿って
チャンネルを押すと
水槽に手を入れたときと
同じ音がして
同じように指先は濡れる
本当は水槽なんていらなかった
金魚も臭いからいらなかった
でも縁日でもらった
とお姉ちゃんが朱色のを二匹
袋に入れてきて
このままじゃ死んじゃうからって
水槽に入れて
そして二日後に赤飯は
お姉ちゃんのために炊かれた
それから二匹の金魚を
生きたまま埋めて
終わりにした
ただだったから誰も
そのことに気づかなかったし
赤飯も美味しくないから
食べたくなかった
湿ったテレビの中で
司会者や出演者の髪や服は
何かをしてきたみたいに
やはり湿っている
ただでテレビをくれた人が来て
テレビはどうでしたかと聞くので
湿ってますと言うと
庭先にあったバケツを
持って帰ってしまった
結局ただのものなんてありはしない
けれどバケツは滅多に使わないし
縁側にもうひとつ別のがあるから
それでもよかった
こうして眺めると
あの日、金魚の近くに
自分を埋めたことがわかる
ただで人からもらった
のだから仕方がないけれど
水分をたっぷりと含み
少し軟らかい感じがする
付属のリモコンも
ただで人からもらったから
同じように湿って
チャンネルを押すと
水槽に手を入れたときと
同じ音がして
同じように指先は濡れる
本当は水槽なんていらなかった
金魚も臭いからいらなかった
でも縁日でもらった
とお姉ちゃんが朱色のを二匹
袋に入れてきて
このままじゃ死んじゃうからって
水槽に入れて
そして二日後に赤飯は
お姉ちゃんのために炊かれた
それから二匹の金魚を
生きたまま埋めて
終わりにした
ただだったから誰も
そのことに気づかなかったし
赤飯も美味しくないから
食べたくなかった
湿ったテレビの中で
司会者や出演者の髪や服は
何かをしてきたみたいに
やはり湿っている
ただでテレビをくれた人が来て
テレビはどうでしたかと聞くので
湿ってますと言うと
庭先にあったバケツを
持って帰ってしまった
結局ただのものなんてありはしない
けれどバケツは滅多に使わないし
縁側にもうひとつ別のがあるから
それでもよかった
こうして眺めると
あの日、金魚の近くに
自分を埋めたことがわかる


テレビの画面いっぱいに
モザイクがかかっている
娘は笑って見ているから
面白いアニメか何かなのだろう
低俗なものはきちんと排除され
僕らは安心を手に入れる
新聞の記事にもモザイクはかけられ
今日も世界はなんとなく
平和なのだ思う
原材料名や消費期限のモザイクは安全の証
僕らの毎日は
気づかいと優しさに守られている
包丁で切ってしまった、と
妻が絆創膏を探す
その指先にモザイク
傷口の深さなど誰も知らなくてよい
僕らは守られている
何の代償も払うことなく
/今夜、僕は妻を抱くだろう
お互いの卑猥な生殖器にはモザイクがかけられ
初めての夜のように二人は小さく喘ぐだろう
そしてまた僕は泣くだろう
モザイクから溢れ出してしまう
妻の生い立ちのために
モザイクがかかっている
娘は笑って見ているから
面白いアニメか何かなのだろう
低俗なものはきちんと排除され
僕らは安心を手に入れる
新聞の記事にもモザイクはかけられ
今日も世界はなんとなく
平和なのだ思う
原材料名や消費期限のモザイクは安全の証
僕らの毎日は
気づかいと優しさに守られている
包丁で切ってしまった、と
妻が絆創膏を探す
その指先にモザイク
傷口の深さなど誰も知らなくてよい
僕らは守られている
何の代償も払うことなく
/今夜、僕は妻を抱くだろう
お互いの卑猥な生殖器にはモザイクがかけられ
初めての夜のように二人は小さく喘ぐだろう
そしてまた僕は泣くだろう
モザイクから溢れ出してしまう
妻の生い立ちのために


母が縄跳びをしている
僕はしゃがんで回数を数えている
あんなに腰が痛い
と言っていたのに
背筋をピンと伸ばして
交差跳び、綾跳び、二重跳び
次々ときれいに跳んでみせる
既に数は百回を超えて
五百回目あたりからやっと
これは夢なのだと気づき始める
でもその様子が見事なので
まだ数えながら眺めてる
やがて日も暮れたけれど
星が見えないあの暗闇のあたりは
僕のまぶたなのだろう
母の縄跳びは続く
謝ることがあったはずなのに
おそらく
一生謝ることはないと思う
僕はしゃがんで回数を数えている
あんなに腰が痛い
と言っていたのに
背筋をピンと伸ばして
交差跳び、綾跳び、二重跳び
次々ときれいに跳んでみせる
既に数は百回を超えて
五百回目あたりからやっと
これは夢なのだと気づき始める
でもその様子が見事なので
まだ数えながら眺めてる
やがて日も暮れたけれど
星が見えないあの暗闇のあたりは
僕のまぶたなのだろう
母の縄跳びは続く
謝ることがあったはずなのに
おそらく
一生謝ることはないと思う


階段の近くで生まれました
階段で話をして
それから歌い
お互いの名前を呼び合い
Tシャツ、セーター、靴下、下着の類
何度も着替えをしました
時々触れて
時々離れて
おしなべてそのどちらかでした
ざわめき、伸縮、優しさ、戦争
階段にはいろいろなものがありました
木漏れ日、あなたが指差す
その先には木漏れ日がありました
隠れると階段を数段あがって
木漏れ日、わたしが指差した先には
雨上がりの水たまりがあって
二人とも何が懐かしかったのか
よく笑いました
階段で話をして
それから歌い
お互いの名前を呼び合い
Tシャツ、セーター、靴下、下着の類
何度も着替えをしました
時々触れて
時々離れて
おしなべてそのどちらかでした
ざわめき、伸縮、優しさ、戦争
階段にはいろいろなものがありました
木漏れ日、あなたが指差す
その先には木漏れ日がありました
隠れると階段を数段あがって
木漏れ日、わたしが指差した先には
雨上がりの水たまりがあって
二人とも何が懐かしかったのか
よく笑いました


庭の木にニンジンがなっていました
友だちは一本もぐと
器用にカッターを操って
舟の形にくり抜きました
池には用水路で捕まえてきた
小さな黒い棒状の魚が群れて泳いでいました
浮くことなくニンジンの舟は沈みました
ピーマンなら浮いたのに
友だちは大層悔しがりましたが
ピーマンはあんなふうにはならないし
なによりも
明日お別れだなんて
明日になっても言えない気がしていました
友だちは一本もぐと
器用にカッターを操って
舟の形にくり抜きました
池には用水路で捕まえてきた
小さな黒い棒状の魚が群れて泳いでいました
浮くことなくニンジンの舟は沈みました
ピーマンなら浮いたのに
友だちは大層悔しがりましたが
ピーマンはあんなふうにはならないし
なによりも
明日お別れだなんて
明日になっても言えない気がしていました


交差点で迷子になっていたラマを
保護した警官の官舎には
ひまわりに似た花が
誰かのために一年中咲いている
庭の木々は良く育ち
晴れた日はアスファルトの道路にも
木漏れ日を落とした
通学路にしている子どもたちは
登下校の途中
木漏れ日に隠れたり
木漏れ日を隠したりしてよく遊んだ
ラマは通報のあった動物公園に
無事引き渡されることとなったが
いくつかの事件や事故と重なり
調書を作るのに数時間かかった
園長と飼育係は何度も頭を下げ
天気予報のとおり
風向きは午前と変わっていた
保護した警官の官舎には
ひまわりに似た花が
誰かのために一年中咲いている
庭の木々は良く育ち
晴れた日はアスファルトの道路にも
木漏れ日を落とした
通学路にしている子どもたちは
登下校の途中
木漏れ日に隠れたり
木漏れ日を隠したりしてよく遊んだ
ラマは通報のあった動物公園に
無事引き渡されることとなったが
いくつかの事件や事故と重なり
調書を作るのに数時間かかった
園長と飼育係は何度も頭を下げ
天気予報のとおり
風向きは午前と変わっていた


豚はどうなるんだ、と怒号が飛んだ連休前の特別会議
ファックスのそばに置かれた空き缶は明日誰かが捨てるのだろう
二度目の稟議書が読まれることなく机の上に放置されてる
唾つけてページをめくる指先にいつかは毒を塗ってやりたい
コピー機に隠れた窓の向こうはおそらく冷たい雨が降ってる
詳細は後ほど、と言ったきり夏の間に報告はなかった
課長が一人でシュレッダーの物真似をしているオフィスの休日
ファックスのそばに置かれた空き缶は明日誰かが捨てるのだろう
二度目の稟議書が読まれることなく机の上に放置されてる
唾つけてページをめくる指先にいつかは毒を塗ってやりたい
コピー機に隠れた窓の向こうはおそらく冷たい雨が降ってる
詳細は後ほど、と言ったきり夏の間に報告はなかった
課長が一人でシュレッダーの物真似をしているオフィスの休日


白い牛が見たいというので
柵のところまで案内しました
ちょうど啼いているところでした
確かに牛は白かったのですが
着ていたワイシャツの方が
白と呼ぶに相応しかったかもしれません
それから事務室に戻り
酪農の歴史についての本を
書庫から持ってきて渡しました
貸出帳、という
表紙の文字は前任者が書いたもので
性格と同じように丁寧でした
名前と連絡先を記入してもらうと
手にかいた汗で
頁がめくれました
自分も少し汗ばんでました
遠い夏のお休みのようでした
柵のところまで案内しました
ちょうど啼いているところでした
確かに牛は白かったのですが
着ていたワイシャツの方が
白と呼ぶに相応しかったかもしれません
それから事務室に戻り
酪農の歴史についての本を
書庫から持ってきて渡しました
貸出帳、という
表紙の文字は前任者が書いたもので
性格と同じように丁寧でした
名前と連絡先を記入してもらうと
手にかいた汗で
頁がめくれました
自分も少し汗ばんでました
遠い夏のお休みのようでした