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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
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56
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2004/12/17 (Fri)
男は書店で物理の参考書を買った。大学を卒業し就職して既に十数年が経っている。文系出の男にとって物理など縁遠いものであったし、特段の興味があったわけでもない。それでも男は物理の参考書を買ってしまった。「~してしまった」という衝動はきっと誰にでもあることだろう。正確に言うと「~してしまった」というのは衝動ではなく何らかの衝動によりなされた行為について後悔をもって評価することであり、それではその衝動をどのように表現したら良いのかということを考えた時、言葉というものはいつも脆弱で危うい。
それはそれとして男はその参考書のありかを持て余している。男は小学生の頃、同級生たちが持ってくる色とりどりのいい匂いのする消しゴムが欲しくて町の小さな文房具店で万引きをしたことがある。まんまとその犯罪は成功したわけであるが、良心の呵責からだろうか、戦利品を学校に持っていくことも出来ず、かといって家の者に見つかることを考えるとごみ箱に捨てるわけにもいかず、机の引出しの一番奥に仕舞い込み、二度とその消しゴムを見ようとはしなかった。その時の途方もない持て余した感覚にどこか似ていた。ただ違っていたのは、しばらく迷った挙句、男は持て余したそれを頁を一度もめくることなくにコンビニエンスストアの店先にあるごみ箱に捨てたことだ。無論、可燃ごみの方に。
その夜、男は寝床の中でまだ見たことのない生物(それは恐らく深海、若しくは高い高い空の果てに住んでいる)の輪郭を指でなぞった。見たことのないその生物は実体を有しておらずいわば概念としてのみ男の想像の中で存在した。その生物の鳴き声はやはり概念でしかなくそれは耳には響くことは無かった。その見たことの無い生物と、例えば現在居間にあるであろうリビングチェアのシルエットとの差異が男にはよくわからなかった。いや、本当はわかっている。翌朝になればごみ箱に捨てた物理の参考書がゴミの収集業者によりしかるべき場所へと運ばれることも。
さて、と突然にこの物語は終了する。人々が「物語」と称するそのほとんどすべては事実の断片にすぎない。男は参考書を捨てたコンビニで缶コーヒーと握り飯を買い、家では何度か屁をし、別れた恋人に泣きながら未練がましい手紙を書いたかもしれない。しかし、その一分一秒のすべてを物語は語ることはしない。もっと早くこの物語を終わらせても逆にあと百行続けたとしても何を語ることができるというのだろう。あなたはいつでも席を立って良かったのである。
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