プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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やはりカバンが良い
と男は言って
口から出した大きな舌で
炎天下の夏草を刈り始めた
確かにそこは空地に見えるけれど
昔、わたしが「草」
という字をたくさん書いた漢字練習帳の
ちょうど真ん中くらいなのだった
男はすべての草を刈り終えると
やはりカバンが良い、と言って
舌を真っ赤に腫らしたまま
飛べないインドカマキリのように
駅ビルから出てきた人と人の間に入って行った
カバンはおそらく
深い水底にでも忘れてきたのだろう
こうしてわたしはまた一から
「草」という字を書き始め
昔よりも下手糞になったものが
愛しくてたまらない
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01
冷蔵庫売り場で火遊びをしている少年のシャツは裏返っていて、肌がまぶしい。
02
扇風機の真似をする君が、今日は朝から羽が壊れて、うまく首が振れない。
03
アイロンの代わりにコンニャクをかけると、誰かが出口で待っていてくれる気がする。
04
生まれてからひたすら乾電池を食べ続けた男が最後の一本を食べ終えると、判定員は悲しそうに「参考記録」の旗を振った。
05
テレビの中から自分の名前を呼ばれている気がして振り返るけれど、まだ家に帰る上り坂の途中だった。
06
冷蔵庫の中から出てきた子供たちが行儀良く列をつくり、中庭でチューリップになって咲き始める。
07
空を飛んで行くドライヤーの群れを眺めながら、化粧の上手くなった君が生まれ故郷の見取り図を描いている。
08
掃除、洗濯、食事の用意など、家事すべてを完璧にこなす家事ロボットが開発され、しかも軽量・コンパクト化にも成功したのだが、唯一の欠点は、それでも全長三十メートルあることだった。
09
砂漠の真ん中で置き去りにされた室外機は、まだエアコンと繋がっていることを疑わずに、ファンを回そうとする。
10
近所の電気屋さんに「タイムマシーン売り切れ」の貼り紙が出てからもう七百年が過ぎた。
11
洗濯機にアメフラシが住み着いたので今日から洗濯物は紫色に染まります、と朝の家族会議で妻は口火を切った。
12
掃除機に鎖をつけて散歩をさせている男の背中から生えている翼は、空を飛ぶには退化しすぎているようだ。
13
ウイルスに感染したパソコンも母は叩いて直してしまう。
14
祖父の愛用していた鉱石ラジオを珍しそうにひと舐めして、オオアリクイは別の蟻塚を探しに行った。
15
このソフト、2と3では使えるゲーム機本体が違いますけどお孫さんはどちらが欲しいと言っていました?と店員に聞かれて、財布のお金を数えているおばあさんの手から落ちた手書きのメモが、人の足に踏まれてくしゃくしゃになっていく。
16
波打ち際の蛍光灯に海ほたるが付着して、やがてかつての団欒のような明りがぼんやり灯るだろう。
17
男は朝起きて電気シェーバーでひげを剃ろうとしたが、顔が無いことに気がついたので、仕方なく歯を磨こうとしたがやはり顔が無かったので、泣こうとしても泣くこともできなかったので、大好きな天気予報を見ることも聞くこともできなかたったので、念のため出掛けに傘を一本持って行くことにした。
18
とある電化製品の取扱説明書は先鋭な思想と美しい文体とで、世界的に権威の高い文学賞を総なめにしたが、製品の方は必要なネジやバネが無いなど欠陥だらけで、さっぱり売れなかった。
19
計算が苦手な計算機は家族が寝静まると、こっそり子どもの計算ドリルで特訓をする。
20
こたつに入ると中は雨降りだったので、人数分の長靴を買いに行くことにした。
21
「ごはんは レンジのなかにあるものを あたためて たべてください」と母親が残していった手紙の空いているところに、少女は今日覚えた花の名前を三つ書いた。
22
写真係の岡田君がカメラと間違えて冷蔵庫を修学旅行に持って来てしまったけれど、同級生はできるだけたくさんの思い出をその中に詰め、みんなで担いで帰った。
23
警察の発表によりますと、凶器は炊飯器のご飯で、口論の末かっとなった妻が夫の背中に炊きたてのご飯を放り込み、全治十日間の火傷を負わせましたが、食べ物を粗末にしてはいけない、と一粒残さず二人で食べたということです。
24
掃除機は空を見るといつも雲を吸ってみたくなるけれど、あそこまでどうやって行けばよいのか、近そうなのに自分だけとても遠くにいる気持ちになる。
25
テレビのような人がいて、人のようなテレビがいて、両方から夏に逝く虫の鳴き声が響き、それでもお互いに理解しあえないことだけが、たったひとつの救いだったんだろう。
26
結婚して初めて二人で買ったのがこのポップアップトースターだ、という父の嘘が、母の一番のお気に入りだった。
27
海に出ない日、海賊は家電量販店で食器洗浄器の実演販売をしているが、そんな時でさえも、むやみやたらに人を傷つけないという海の掟は絶対に破らない。
28
すべてのものはいつか必ず土に還るのだ、と信じて、古くなった家電たちは今日も自分の墓を掘り続けている。
29
炎天下、大型の家電を運ぶ配送センターの青年からアスファルトに落ちた汗の雫は一瞬のうちに蒸発し、明日はどこか他のところで誰かのための雨になるのかもしれない。
30
風に乗れなかった紙飛行機が一機、エアコン売り場の床に墜落している。
31
人々が衣服を汚すことのない世界を夢見て、洗濯機はひとり最終列車に乗った。


○父
窓から庭のブランコを
眺めることが多くなった
あれにはもう一生分乗った
と言って
時々体を揺らす
背中が
押されるところではなく
支えられるところとなってから久しい
○母
美味しいのは音でわかる、と
スイカをひとつひとつたたき
一番良い音がしたのを買っていく
後には粉々になったスイカが散乱し
甘い匂いとともに
短い夏は始まる
○兄
深夜、起きだして
大好きな人のために
ひとり
腕立て伏せをする
○僕
これでも昔はもてたんだぞ
と自慢したりするけれど
今でも満員電車が苦手で
人に足があると踏んでしまう
蟻などは
必要以上に潰さなくなった
○弟
外野フライを
どこまでも追いかけたまま
春の河川敷から帰ってこないので
未だに図書館から
「宇宙戦争」の返却依頼がある
○妻
名付け親でもないのに
一番僕の名前を知っている人
そして僕が
決して名前を忘れない人
あなたを知らない人生より
あなたを知っている人生の方が
ほんの少し長くなった
○家族
世界で一番小さい、さびしさの単位
○娘
鳥にいじめられて
部屋の隅っこで丸くなってる
それでも絵を描くときは
鳥のための
青い空を忘れない
窓から庭のブランコを
眺めることが多くなった
あれにはもう一生分乗った
と言って
時々体を揺らす
背中が
押されるところではなく
支えられるところとなってから久しい
○母
美味しいのは音でわかる、と
スイカをひとつひとつたたき
一番良い音がしたのを買っていく
後には粉々になったスイカが散乱し
甘い匂いとともに
短い夏は始まる
○兄
深夜、起きだして
大好きな人のために
ひとり
腕立て伏せをする
○僕
これでも昔はもてたんだぞ
と自慢したりするけれど
今でも満員電車が苦手で
人に足があると踏んでしまう
蟻などは
必要以上に潰さなくなった
○弟
外野フライを
どこまでも追いかけたまま
春の河川敷から帰ってこないので
未だに図書館から
「宇宙戦争」の返却依頼がある
○妻
名付け親でもないのに
一番僕の名前を知っている人
そして僕が
決して名前を忘れない人
あなたを知らない人生より
あなたを知っている人生の方が
ほんの少し長くなった
○家族
世界で一番小さい、さびしさの単位
○娘
鳥にいじめられて
部屋の隅っこで丸くなってる
それでも絵を描くときは
鳥のための
青い空を忘れない


くにゅくにゅ列車が
小さなバス停にやってきて
ダチョウを三羽乗せて行った
ダチョウたちが仲良く
キャラメルを分け合っているのが
窓の外からも
なんとなくわかった
何も無い妹の手を引いて
僕は軒下の連続を歩く
途中、雑草のようなスミレの花を
摘んで帰った
母はたいそう喜んでくれて
優しく痩せた手で新聞紙にくるみ
これからも大切にしてくれるにちがいなかった
疲れたでしょう、と
母はバターとスプーンを持ってきてくれた
血の味がするから、と
妹は少し嫌々をしたけれど
血は味がしないんだよ、と教えてあげると
一匙すくって舐めた
大きくなったら何になりたいのか聞くと
ひとつ
と妹は言う
ひとつ、は割り切れないから
幸せも不幸せもないでしょう
と習いたての算数を言う
ゼラチン質の夕日が差し込んで
言葉だけが
いつもでもどこまでも静かだ
ふと薄暗闇の向こうに耳を澄ますと
僕ら三人が
くにゅくにゅ列車に乗り込む
音が聞こえてくる


01
図書館にパンが落ちていたので男は拾って食べたのだが、それはパンではなくムカデの足だった。
02
図書館の大砂漠で遭難した司書は一週間後に救助され、その翌年には大統領になったが、死ぬまで左側に物を置かなかった。
03
図書館で借りてきた本を途中で読むのを止めて、魚は自分の鱗をしおりの代わりにはさんだ。
04
図書館の館長になることが夢だった少年は、大人になり夢がかなって館長になったけれど、誰もそのことを教えてくれない。
05
図書館が休みの日、館長は網と虫かごを持って野原に昆虫図鑑を捕まえに行き、もう昆虫図鑑は要りません、といつも副館長に叱られる。
06
泥棒は図書館にあるすべての本を盗んでしまおう思ったが、海の大好きな子どもがいると可愛そうなので、「海辞典」だけは残して行った。
07
翌日、泥棒が図書館に行くと、「海辞典」は貸し出し中だったので、すっかり安堵してシナモンパンを買って帰った。
08
図書館は図書館に生まれてきたことが嬉しくて、どこにあるのかわからない、心、というわれているところで、皆にありがとうを言う。
09
図書館の本がすべて盗まれてしまったので、館長は空っぽになったすべての書棚を丁寧に拭き掃除して、とりあえず、昆虫図鑑を十冊並べた。
10
盗んだ本を返してください、と毎日泥棒の夢の中に図書館が泣いて出てくるので、泥棒は本を返しに再び図書館に忍び込んだが、昆虫図鑑十冊のスペースのところだけ本が並べられず、受付カウンターに「世界美術史体系全十巻」を平積みして置いて帰った。
11
朝、カウンターの上に置かれた「世界美術史体系全十巻」を見つけた司書は、淡々とそれらをもとの位置に並べ、十冊の昆虫図鑑を淡々と館長の机の上に平積みして置いた。
12
図書館を走り回る子供のポケットから湿気たネズミ花火がこぼれ落ちて、夏は小さくてもいつか願いのように終わる。
13
図書館の一階フロア南西角はタイル一枚分が海になっていて、そこだけ「遊泳禁止」の看板が立っている。
14
図書館は駅から歩いて五分です、という案内を見た人から、走れば何分ですか、とか、雨の日は傘立てがありますか、とか、私はどうしたら良いのでしょうか、などの問い合わせが年に数件ある。
15
図書館にも秋が来て、館内の何処かからコオロギが鳴き始めるその姿を、誰も見たものはいない。
16
駅前が再開発されて図書館が廃止されてしまう夢を見て慌ててとび起きた館長は、図書館がどれだけ人々に愛されているか演説するために、慌てて再び眠りにつかなければならなかった。
17
南西角にある海で館長が大きなクジラを釣り上げて図書館を壊しそうになった日から、「遊泳禁止」の看板の隣に「釣り厳禁」の看板も立つこととなった。
18
館長は、もしかしたら自分は本ではないかと思って、自分の体を捲ろうとするけれど、いつも三ページ目から先が捲れないので諦めてしまう。
19
図書館に住み着いている幽霊は閉館時間が過ぎて誰もいなくなると、本を読むことを楽しみにしているけれど、言葉がすべてすり抜けてしまうので、体はいつまでも綺麗なままだ。
20
「今度の日曜日は図書館の日です アタリが出るともう一冊借りれます それと元気なアキアカネを差し上げます」図書館通信 第九四三号より
21
休館日、本は本であることを忘れて、思い思いの時間を過ごすが、中でも一番人気なのは読書だそうだ。
22
雪が降った日は、図書館に来ている人みんなで雪だるまを作るけれど、名前を何にするか決める前にいつも融けてしまう。
23
死ぬ前にもう一度図書館に行きたいという母親の願いを叶えるために、女は母親の手を引いて図書館前の緩やかなスロープをゆっくりとのぼり、この本がいい、と指し示した「竹取物語」の絵本を一冊だけ借りて帰った。
24
家に帰ると、母親は女と同じ布団に入り、借りてきた「竹取物語」を女に読み聞かせるのだけれど、文字がぼんやりとしか見えないので、そのほとんどは記憶の中の「竹取物語」だった。
25
春になると図書館の周囲一面はきれいなお花畑になって、時々軽い怪我をする人がでてくる。
26
図書館に一台しかない公衆電話がどこに繋がっているのかわからないことが最近になって発覚したが、それでは今までいったい誰と話をしていたのか、謎は深まるばかりだ。
27
朝一番に図書館に来て、一日中「優しい人入門」の背表紙を十年間撫で続けている男は、それでも手垢ひとつ付けないのだった。
28
図書館の空にかかった虹を折りたたんで大好きな人にプレゼントする、というペテン師の予定は、いつも予定のまま終わる。
29
図書館は数年前に既に死んでいて、現在皆が使っているのはその亡骸だということは、出入りの電気技師だけが知っている。
30
図書館は息を引き取る直前、今までありがとう、とこっそり制御盤の裏に書置きを残したのだった。
31
開かれた窓の外にはゼリー状の空が広がっていて、誰かがテーブルに置き忘れて行った歴史書を風が捲る音だけが静かに響く、ただ水溜りのようにある午後の図書館。


並んで座っている父が
僕にもたれてくる
落っこっちゃう、と言って
体を預けてくる
床から目まで
わずか数十センチの高さが
怖くて仕方ないのだ
ねえ、お父さん
お母さんや僕の奥さんには申し訳ないけど
今度もし生まれ変わることができたら
僕はお父さんの
お嫁さんになってもいいと思う
他人になったとしても
血の繋がらない愛でしか
できないこともあると思う
こうして二人
肩を寄せ合っていると
カップルに見えるかな
公園のベンチや映画館のシートじゃなくて
もう病院の待合室や
ベッドの端でしかこうしていられないけど
最後まで仲良く添い遂げる
二人に見えるのかな


父のベッドのところまで
凪いだ海がきている
今日は蒸し暑い、と言って
父はむくんだ足を
海に浸して涼んでいる
僕は波打ち際で遊ぶ
水をばしゃばしゃとやって
必死になって遊ぶ
貝殻を拾って沖に向かって投げると
網戸にぶつかる
それでも馬鹿みたいに遊ぶ
そういえば父といっしょに
海水浴なんて行ったことはなかった
車で一時間のところに海水浴場はあった
でもシーズン中は渋滞が嫌だったし
何より車がなかったし
父も運転免許を持ってなかった
学生のころ東京湾を泳いで横断した、というのは
父の自慢の一つだけれど
その勇士を最後まで見ることもないんだろう
それよりも今は狭いベッド荒波の中で
溺れないように戦うのが精一杯なのだ
母が束の間の休憩から戻ってくる
友人と食べたステーキ肉が美味しかったと笑う
僕は庭のラズベリーを一粒もいで口に入れると
ばしゃばしゃと波の中を帰っていく


ファミレスの床に
男の人が倒れていた
可愛そうだったので
メニューを見せてあげた
チキンドリア、とだけ言って
男の人は息絶えてしまった
警察やお店の人が忙しくしている間
僕はハンバーグステーキを食べて
セットのフローズンヨーグルトを半分残した
連絡を受けた男の人の家族が数人来た
最後の言葉を伝えると
大人たちはみな
やっぱり、と
ひどく悲しんだ
二人の子どもは事態が飲み込めずに
ずっと手遊びをしていた
僕のしたことのない手遊びだった


クラゲの心音がする
放課後
筆箱の中で
黒板消しが羽化するのを
慣れない手つきで私は
手伝ったのだった
ひっそりとした
カーテンの向こう
湿り気のある列車が
外形をなくして走る
嘘かもしれないけれど
遠くで私の家が
火事で燃えてるのが見える


「鼻が長かった」彼女は言った
「ゾウみたいだね」僕は言った
「ううん、キリンみたいだったわ」と彼女が言うので
「首も長かったんだ」と聞くと
「歯がキリンみたいだったの」
彼女はそう答えた
僕はどうしてもキリンの歯を思い出せなかった
自分の歯を舌でなぞってみた
昔からあったはずなのに
懐かしくも何ともない形と触感だった
それから僕は彼女の乳房を頬張った
口いっぱいに頬張った
かつて、その二つの膨らみを
本当に必要としている人がいたような気がした
雨音が聞こえた
通り雨かもしれなかった
その日は彼女の乳房と僕の歯だけがあれば
それでよかった
ただ僕らはひどく疲れていたかった