プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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金物店の前の交差点に
洗濯機が横たわっていた
横断中に大型の車にでも轢かれたのだろうか
歪に凹んだ体や散らばった部品に
朝いっぱいの陽射しを浴びて
きらきらと言葉のように光っていた
生死の確認はするまでもなかった
車は避けてとおり
集まり始めた野次馬が
その様子を遠巻きに眺めていた
やがて警察の人と
市の土木作業車がやってきて
きれいに片付けていった
遺失物なのか廃棄物なのか
恐らくそんな話になるはずだが
未明に一人で横断歩道を渡る洗濯機の
行先も理由も
最後まで誰にもわかることはないのだ
翌日、新聞紙の地方版に
事実関係のみの記事が小さく載った
その隣には
県内で今年初めて黄砂が観測された、と
やはり数行あった
洗濯機が横たわっていた
横断中に大型の車にでも轢かれたのだろうか
歪に凹んだ体や散らばった部品に
朝いっぱいの陽射しを浴びて
きらきらと言葉のように光っていた
生死の確認はするまでもなかった
車は避けてとおり
集まり始めた野次馬が
その様子を遠巻きに眺めていた
やがて警察の人と
市の土木作業車がやってきて
きれいに片付けていった
遺失物なのか廃棄物なのか
恐らくそんな話になるはずだが
未明に一人で横断歩道を渡る洗濯機の
行先も理由も
最後まで誰にもわかることはないのだ
翌日、新聞紙の地方版に
事実関係のみの記事が小さく載った
その隣には
県内で今年初めて黄砂が観測された、と
やはり数行あった
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ノックをしてみる
と、きちんとノックが返ってくるので
僕は待ってる
春になって数回目の風が吹く
見上げる空の青さも
鳥の羽ばたきも
風にさらされている皮膚も
本当は多分
言葉でしか知らない
雑草とそのみすぼらしい花しかない
ただ広いだけの野原
僕と誰かとのノックの音が
小さく響いている
と、きちんとノックが返ってくるので
僕は待ってる
春になって数回目の風が吹く
見上げる空の青さも
鳥の羽ばたきも
風にさらされている皮膚も
本当は多分
言葉でしか知らない
雑草とそのみすぼらしい花しかない
ただ広いだけの野原
僕と誰かとのノックの音が
小さく響いている


空をさす小枝のような
父の指に
赤とんぼがとまる
お父さん
声をかけると
赤とんぼを残して
父は飛んでいってしまった
驚かせるつもりなんてなかった
いい年をして、と
笑われるかもしれないけど
もう一度だけ
褒めてほしかった


話す声が小さくなっていく、朝
きみは一冊の
ノートになった
軽くなった身体をめくって
話の続きを書く
これからは大切なことも
大切、とは少し違うことも
こうしなければきみに届かない
黒子の位置も
小さいころ深く切った指の傷も
探さなくてもわかってるのに
当たり障りのない言葉だけが
きれいに並んでく
あなたはいつもそうやって逃げる、と
ぼくは自分で書くしかなかった


郵便局の方から来ました
と言い残して校長先生は
ぼくの枕を盗っていった
庭ではぼくを産んで
その後育て続けた両親が
淋しい冬の作業をしている
三年前、僕の腕を
きれいな形だと褒めてくれた
今はまた
違う色の服を着ている
二階を開けると
大事そうに枕を抱えて郵便局の方に向かう
校長先生の後姿が見える
幸せ、は線路のように便利な言葉なのに
いつも線路のように見ているだけの気がする
もうすぐ交差点を渡れば
校長先生にも海の近さがわかる
と言い残して校長先生は
ぼくの枕を盗っていった
庭ではぼくを産んで
その後育て続けた両親が
淋しい冬の作業をしている
三年前、僕の腕を
きれいな形だと褒めてくれた
今はまた
違う色の服を着ている
二階を開けると
大事そうに枕を抱えて郵便局の方に向かう
校長先生の後姿が見える
幸せ、は線路のように便利な言葉なのに
いつも線路のように見ているだけの気がする
もうすぐ交差点を渡れば
校長先生にも海の近さがわかる


使い古されたピアノが一台
早朝の小さな港から
出航する
ピアノの幅、奥行、高さ
しかもたないのに
言い訳をすることなく
ただ外海を目指していく
誰もが自分自身のことを語りたがる
確証もなく
それがまるで
自分自身のことであるかのように
人気のない春
港だけが
やわらかい風に透きとおってる
早朝の小さな港から
出航する
ピアノの幅、奥行、高さ
しかもたないのに
言い訳をすることなく
ただ外海を目指していく
誰もが自分自身のことを語りたがる
確証もなく
それがまるで
自分自身のことであるかのように
人気のない春
港だけが
やわらかい風に透きとおってる


オープニング
どこまでも行く
つきあたりを右折
空港がある
教師のAさん(仮称)は空港を黒板に板書していく
重要なところは赤いチョークで
重要だがそれより重要度の低いところは黄色
重要ではないが変化をつけたいところは青
教師のAさん(仮称)は自分の生活に変化を好まない
いつも決まった形
昔からそう
「先生、昔とはいつのことですか?」太郎さんの質問
「昔、の基準は人それぞれですよ」教師のAさん(仮称)の答え
以降、「教師Aさん(仮称)」は「A」と略して表記
「太郎さん」は昔からそのまま「太郎さん」
オープニング
どこまでも行く
人それぞれの基準
それぞれの形で
太郎さんは前から三列目に着席し
体には適正な範囲内の水分が保たれている
Aの板書する空港をノートに次々と書きとめていく
どこまでも行く
つきあたりを左折
太郎さんの肩、その向こうに
高く切り立った崖B(仮称)がある
春のうららかな光の中
以降「高く切り立った崖B(仮称)」は「B」と略して表記
「太郎さん」はずっと「太郎さん」のまま
Bからたくさんの人や物が落ちていくのが見える
「きれいですね」Aは感想を述べながら空港を板書し続ける
「落ちていくからきれいなのでしょうか、
それもときれいだから落ちていくのでしょうか」太郎さんの質問
「本当にきれいなのはそれを見ているわたしたちなのです」
Aもまた体のいたることろに水分を含んでいる
太郎さんの生家の近くには牛舎があった
まるで誰かの余談のように
複数頭の牛が仲良く並ぶ日もあった
そして他の誰かの余談のように突然牛舎は壊され
牛たちは跡形もなくなった
Aが省略から開放され「教師のAさん(仮称)」を取り戻し
管制塔を書き終えたころ
滑走路を一人歩く太郎さんの最後の姿が目撃された
後には空港で埋め尽くされたノートが残され
細長くどこまでも
オープニングだけが続く


鳥として生まれ
鳥として逝く
その間にいくつかの
鳥ではないものがある
車の通り過ぎていく音を
人の小さな話し声を
洗濯物が風に揺れて触れ合う姿を
幸せと同等のものが包み込む
鳥はふと誰かの理由となり
わたしたちは躊躇することなく
その名前を呼ぶことができる
できるだけいっぱい腕を伸ばす
その先にある指、の
その先に
陽だまり
遠く棚田が見える


夜になると
鳥は空を飛ぶことを諦め
自らの隙間を飛ぶ
高い建物の立ち並ぶ様子が
都会、と呼ばれるように
鳥は鳥の言葉で
空を埋めていってしまう
知らないことは罪ではない
人は窓を閉めて眠り
時々崩れていく微かな音を聞く


海賊が泣いていた
アスファルトの水たまりを見て
海を思い出していたのだろう
海の歌を歌ってほしいと言うので
何曲か歌った
関係ない歌もいくつかあったけれど
気づかれることはなかった
いつかおまえを海の男にしてやろう
守られることなく忘れられていく約束
海賊も僕も何となくわかってる
たぶん人はこのようにして
年をとっていくのだ
家に帰って妻と仲直りをした
娘とおせちのきんとんに使う芋を裏ごしした
三人で来年の話もした