プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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自分の手を差し出し
握り返してきたのがタコの手である
という笑い話もあるけれど
もっと簡単に見分ける方法がある
タコに書初めをさせてみればよい
筆を持った部位が手のような気持ちになってくる
墨は自家製だから手間もかからない
書初めが終わったあとは
友だちやペットにしても良いし
自由な形で椅子に座らせても構わない
もちろん刺身でも茹でても美味しくいただける
昨晩は怖い夢を見て目が覚めた
一人になりたいと思う時もあるというのに
ちなみに書体は
軟(書)体
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冷蔵庫の中から
ぼそ、ぼそ、と
人の呟きが聞こえてきた
扉を開ける
男の人が一人で
魚卵の粒を数えていた
時々、合わない、と言って
また一から数え始める
冷気と暗闇の中で
魚卵の形だけを頼りに
何度も数え直していたのだ
手伝えることはありますか
声をかけると
迷惑そうに男は扉を閉じた
カイロや計算機や懐中電灯などを
差し入れしようとしたけれど
扉は中から固く閉ざされ
二度と開けることはできなかった
そのようにしてわたしは夏を過ごし
冷蔵庫は幸せそうに
立ち枯れていった


メニューに自分の名前があった
注文すると
同姓同名の別人が出てきた
別人はテーブルに金属製の皿を載せ
上手にその上に座った
目の中を大小の生物が泳ぎ
両耳から波音が漏れてくる
初めまして、が
良く似合う人だった


コスモス畑の真ん中に
宝くじ売場ができた
カンガルーたちが並んで
順番待ちをしていた
くじを受け取ると
珍しそうに数字を眺めて
皆、帰って行った
大空を飛ぶことなど
すっかり忘れて


一番星、と空を指差したきみ
その方向を見て
ほんとうだ、と言ったぼく
でもね、あれは嘘だったんだ
見つけられなかったんだよ
だって眼鏡の度が進んでいて
きみの指先を探すだけで精一杯だったし
そして何よりもまだ
真昼だったんだもの
今度は見つけるから
眼鏡も新しいものに変えて
きちんと見つけるから
指先だけではなく
きみのすべても
探し出すから


指先に砂漠の跡
そして爪という爪、
陽炎に揺らめく廃屋の一群
排水溝を清掃する団体職員、
その煤けた
人は物だから
光に影をつくる
坂上、とだけ書かれた表示板の下に
肉も無くただ落ちている
小さな骨片
拾い上げて余白に署名する
生きていることへの
ささやかな抵抗
やがて風葬


石化する
柔らかな石
心電図の
波形の谷間が
わたしたちの眠るところ
わたしたちの見聞きするところ
わたしたちの対話するところ
/年の瀬も差し迫ったふとしたある日
一組の家族が引越しの準備をしている
出発の直前まで
母親は壁の亀裂を懐かしそうに指でたどっていた
かつて寝室だった部屋の隅には
積み残された子供用の座椅子
一番末の娘が
まだ座っている


すべての子どもたちが夢や
夢とは違うものを見ている頃
誰もいない教室では
白墨が生徒の名前を
一人一人板書している
名前の下に記されているのは
その生徒にあった今日の出来事
何もない日などない
平凡な一日という
言い訳があるくらいで
白墨がすべてを書き終えると
黒板消しがそれを消していく
翌朝ばれないように
日直の残した模様を正確に真似て
ただ白墨だけが心もち
短くなっているけれど
教室とはそういうところ
たぶん、そんなところ


友だちの家に遊びに行った
門のところで、久しぶり、と挨拶されたので
久しぶり、と答えた
もてなしてくれるのだろうか
和室に案内されて
お茶とお大福を振舞ってくれた
正直な話、あまり好きな食べ物ではなかったけれど
断るのも失礼なので
美味しいお大福ですね、と言って全部食べた
友だちは満面の笑顔で今度は羊羹を出してくれた
羊羹も好きではなかった
でも久しぶりに会った友だちを悲しませるのもあれだし
やはり残さずに食べた
その後にも
ショートケーキ、モンブラン、ドーナツ、お寿司、スパゲッティ等々
出てきた菓子や料理はすべて好きではないものばかりだった
嫌いではないものは、お茶とコーヒーの飲み物だったけれど
何か変な味がした
もしかして、この人は友だちではないのではないか
家を間違えてしまったのではないか
かつて苛めたことがあって、その仕返しをしているのではないか
いろいろな思いが頭を巡り、顔をまじまじと見ても
友だちは友だちのように、不安になるくらいの満面の笑顔で
何より思い出話はすべて通じたし
昔どこかで会った気もする
ご飯よ、と女の人の声がすると
友だちは人形の私を放り出して
部屋を出て行ってしまった
食べ物はすべて粘土で、液体は絵の具を溶かした水だった
口の中にべたべたとした粘土と絵の具の味だけが残った
もちろん、本物のお大福もスパゲッティやらも食べたことがないので
それらの味を知らないし
好きなものも嫌いなものもあるわけがなかった
おままごとをしている時だけ
私は私の人格を与えられるのだった
今度で何度目の私だったのだろう
意識が薄れていく
これからすべてを忘れる
またおままごとの機会があれば
新しい別の私が与えられるのだ


無人のブランコが揺れる
温かくても冷たくても
風はいつもものを動かそうとする
ジャングルジムの天辺に登れた人が
みんなから尊敬されていた時もあった
そんなに昔のことではないけれど
非衛生的だ、という理由で
夏休みが始まる前に砂場は撤去された
反対していた人たちも今は何も言わない
忘れる、ということだって
人にとっては大切な仕事だから
洋菓子店のケーキの箱を
宝物のようにしっかりと抱えて
女の子が母親の後ろをついて歩く
木や家の壁に飾られた電球たちも
昼は束の間のお休み
その奥では収穫されないままの柚子が
風にまだ耐えている