プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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カウンター


魚屋の片隅にあった目薬を買う
お店の人と角膜や水晶体等について
少しだけ話した
すぐ側で魚介類はそれぞれに
幸せそうな形で整然と並んでいた
それから帰りの駅ではお腹が痛くて
膝を抱えたまま眠った
どれくらいたったのか、眼が覚めると
あたりはすっかり暗くなっていた
電気を落とした列車が
一番線のホームに停車していた
模型のような息だけが
唇のわずかな隙間から漏れていく
ポケットから目薬を取り出す
透明な薬剤の中を
小さな魚が泳いでいる
今まで見たどの魚とも似ていて
どの魚とも違う気がした
そのようにして記憶をたどると
辛かったことも楽しかったことも
同じくらいに残っていて
それでも人の気持ちは
半分以上が良くわからなかった
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鉄鉱石の中にある海を
小魚が泳いでいく
夜の明けない方に向かって
今日は海が重すぎるから
いつまでたっても
カモメは空を飛べない
そしてわたしは
シャボン玉の作り方を
初めて教わった


ピキは犬ではないのかもしれない
犬だと思ってドッグフードまであげていたのに
買ってきた犬図鑑に載っているどの犬とも
その形状は一致しない
図鑑の犬はすべて四本足なのに
ピキは六本足で歩き、走り、寝る
図鑑の犬は長い短いはあるものの
全身毛に覆われている
ピキには毛と思われるものは無く
皮膚は見た目が金属のような質感で
撫でると触感は柔らかな紙に似ている
耳だか鼻だか目だか分からないものが
顔の真ん中に二つ
幼児向けの絵本には
いぬはわんわんとなきます
と書いてあるけれど
ピキはポクポクと鳴く
というより泣いている感じがする
体の大きさは適当な比喩が見つからないので
いつも説明に困る
それでもリードにつないで散歩させていると
可愛いわんちゃんですね、と人は誉めてくれる
ピキは嬉しそうにしっぽを振る
位置的にはしっぽで間違いないと思う
甘えたように体をこすり付けてきたり
水っぽい舌で舐めたりするけれど
それを愛情や友情と呼ぶのは
僕の勝手な思い込みかもしれない
ピキが行動するにはピキの事情があって
本当に心が通じあっているのかもわからない
それでも僕はピキを守る
ピキが犬であるかどうかなんて関係ない
僕は犬図鑑を捨てる


クランクを回す
上りのエスカレーターが動き出す
人が乗る
負荷がかかる
乗る人の数は徐々に増え
更に力を込めて回す
見上げると人が
下りのエスカレーターを待っている
上りの方を止めて
下りの方のクランクを回す
ブレーキがかかっているので
やはり力がいる
これを生業として毎日がある
来月には経営の効率化のため
上下一度に動かせる仕組みが導入される
そして効率化のため
給料は五パーセントカットされる
上の階には行ったことがないから
何があるのか知らない
知りたいと思ったことなら何度かある
今日はまだない


深夜、電話が鳴っている
誰もいない、何もない
とても遠いところで
そんな気がして目が覚める
電話はどこにも見つからない
安心して再び眠る
夢の中で電話が鳴る
受話器は取らない
夢だと知っているから
夜が明け、いろいろな隙間から
朝日が射し込む
その頃になると電話は
自分が電話であることを思い出す


国道16号線を走る
千葉44km
渋滞に巻き込まれる
千葉42km
千葉40km
ゆっくりと近づいていく
千葉30km
千葉4km
もう少しだ
そう思って標識を見ると
千葉44km
また同じところに戻っている
近づきそうで近づけない
近づきそうなのに寧ろ遠ざかっている
その繰り返し
そんなに大層なことではないけれど
ただのセンチメント
そう言われればそれまでだけれど
そのようにして
僕は40代の前半を生きた


紙に押した自分の指紋で
迷路をしなければならない
広い会場のような所にわたし
そして試験監督みたいな格好をした人
二人だけで向かい合って着席している
何度やっても
わたしの指紋にはゴールがない
挙手をして
ゴールがありません、と告げる
大丈夫です、時間に制限はありませんから
そう言われたのが春の初め
今ではすっかり真夏になり
良く効いた冷房の中
ゴールを見つけようとしている
このまま秋が来て冬が来て
ひとつずつ年を取っていく
そんな生き方や死に方も悪くはないかな
と思うことにも慣れ始めてきた
骸骨だけになっても
ゴールを探し続けるのかもしれない
その頃にはもう指紋も無いのに
窓の外では関係のない人たちが
色々なことをして汗をかいている
癖だろうか
試験監督みたいな格好をした人が
二回、三回とまた空咳をする


待合室のソファーで
男の人が傘を差していた
空が見えないから
屋根に気づかなかったのかもしれない
名前を呼ばれ
男の人が立ち上がった
傘を丁寧に閉じて
今日はひどい雨ですね、と言って
診療室に入っていった
たぶん自分にも
気づかないことがあるはずなのに
それが何なのか思い出せない


お店屋さんで息をした
お店屋さんだから
みんなしていた
様々な形が売っていた
気に入った色があったので
近くにいた店員の女の人に
色だけ買えるか聞いた
形もついてきます
と言われたので仕方なく
お店屋さんを出て振り返ると
先ほど話しかけた人が
レジに並んでいた
以前はこの辺に住んでいたけれど
立っている人も歩いている人も
知らない顔ばかりになっていた
目印にしていた人も
もう同じところには座っていない
お客さんだとわかっていたら
もっと他のことを聞いたのに
そう思うと申し訳なくて
少しの間
息をとめた


少年が電話の凹凸に触れているころ
少女はまだポストの中で
封筒から漏れてくる潮騒を聞いていた
すべてが終わったら、
横断歩道をきれいに塗りなおそう。
町中いたるところの横断歩道を。
そんな二人の約束事が書かれた紙は
すでに粘土よりも柔らかくなり
春が深呼吸でできていることに
気づき始めている