プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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壊れたメトロノームの
壊れたリズムで
第一楽章は始まる
歪んだ旋律が
琥珀色のホールを満たし
それでもヒトたちは
祈るように席に座り続けた
やがて楽団員が一人また一人と
舞台から姿を消していく、そして
沈黙
の中に壊れたメトロノームの
壊れたリズムと
ヒトの皮膚感覚だけが残される
最後に指揮者が登壇し
一礼をすると
何もない海へと飛び込んだ
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深い霧は晴れ
街やヒトを形づくる
様々な線たちが
再び姿を現す
言葉は辞書の中で
既に朽ち果てている
「幸せ」という
一語の印字のみを残して
鳴くこともなく
路上に何となくカラスがいる
鳴き方を忘れてしまったのか
それともカラスは鳴く生物である
ということが
わたしの事実誤認であるのか
確かめようとしても
どこにも見当たらないのだ
わたしだけが


都市の息づかいの奥へと
延びていく砂利道
書きかえられた公図の写しを
大事そうに抱えた男が
小さな石の陰でうずくまっている
眼の中を覗き込む
そこは既にもぬけの殻
わたしの数十年など
男の一センチにも満たない
窓という窓が溶ける
それらはやがて海のない水となる
都市は浸食されながら
人口を産み
人口を削る
それでもヒトは
言葉さえあれば
貝の肉等を食べ続ける


樹皮から分泌される
石英に群がる
葉脈という葉脈
と、忽然とヒト
背骨に埋め込まれた記憶から
逃れることもできない
鉄製の門扉は赤血球に錆び
こんにちは
いつかヒトは幼い代名詞となり
眠り方も覚える


一団の土地から分筆された遊休地に
エンジンのない建設機械が放置されたまま
数十年が経ち
その間にもわたしの弟は
産まれてこなかった
だからまだ名前もないし
椅子に座ったこともない
遠い昔、というありふれた表現のある日
粘土で遊ぶ約束をしたのは
脳のどこかの部位で作り出された
偽物の記憶だったのだろうか
近所の斎場の前を車で通るたび
俺が死んだらここでやってくれ
と父は言い
もっと交通の便の良いところでやりましょう
と母は返す
兄は仕事で遠くに行ったまま帰ってこない
そして弟はまだ産まれてこない
だから食べ物の食べ方も
生き物の触り方も知らない
いつの間にかわたしは
早く産まれすぎてしまった


人、水、それぞれに
順番
マネキン人形でもないのに
死んじまえと
死ぬほど言われたんだぜ
シーソーの話をすると
シーソーが嫌いな奴はすぐにわかる
シーソーなんて嫌い、って言うからだ
水、人、それぞれに
役割
両手からろうそくの匂いがする
で、それはそれとしてシーソーなんだが
シーソーなんてどうでもいい、って
態度の奴が一番気に食わない
みんな、一度くらい
シーソーのお世話になったことくらいあるだろう?
もちろん、機能
それぞれに、人、水
シーソーの無いところに産まれた
可愛そうな子どももたくさんいることくらい
気がついてる、でも俺にできることといったら
募金したり、募金する箱に小銭を入れたり
祈りの真似事をするくらいだ
と言って
キャバ嬢の胸を触ろうとして
ビンター!イッパーツ!
タウリン1000ミリグラム配合って
1000ミリグラムって、1グラム、要は1グラムだぜ
1グラムでいったい何ができるっていうんだ
ちなみに青酸カリの致死量は
経口摂取で150~300mgと推定されている
(出典 ウィキペディア)
ちなみにフグの毒のテトロドトキシンの致死量は
経口摂取で2–3mg
(出典 ウィキペディア)
なんだぜ、凄いぜタウリン
すっげーたくさん入っているぜ、水
人、それぞれに持ち物
世の中、擬音語と擬態語だらけだ
おい、こら、勝手に自分の飲み物を頼むな
フルーツ盛なんてもっての他だ
こっちは1時間ポッキリ3000円で生きてるんだ
と言って
キャバ嬢のお尻を触ろうとして
ビンター!イッパーツ!
俺な、漁場をなくしちまったんだよ
だから明日あたりアマゾン川にでも行こうと思う
なんか知らんけど
魚みたいなものくらい獲れるだろう
魚がいなくても潜れば
アワビの仲間くらいいるだろう


小さな恒星が
子豚の側で燃え尽きた
最後は寒天状の塊になり
それもキノコのように溶けて
地面に吸い込まれた
そんな様子をぼくは
娘と隠れん坊遊びをしている最中に
まだ仏様の入っていない
仏壇の隙間から覗いていた
今度生まれ変わるなら
豚肉がいい
豚は嫌だ
生きながら死ぬのは嫌だ
あの子豚もいつかは育って
屠殺されてしまう
豚肉ならもう死んで意識もないから
生きる苦しみも死ぬ苦しみもないし
人や他の動物の体内で
消化酵素に分解されても
何も感じる必要などないだろう
そんなことを考えているうちに
何故か勃起していた
いつまでたっても
娘はぼくを見つけにこようとしない
もしかしたら遊びのルールを
忘れてしまったのかもしれない


汽笛が鳴って観覧車が発車する
ゆっくりとした速度で空を進む
向かいの席に座った初老の女性が
リンゴを剥いている
いかがですか、と勧められ
親戚でも無いのに半分をいただいた
リンゴは特別好きな食べ物ではないけれど
嫌いでもないので美味しかった
窓の下に見える建物や人が小さくなっていく
同じように女性もわたしも小さくなっていく
トンネルの入口が近づき
煙が入ってこないように慌てて窓を閉める
真っ暗な闇の中で
身体が身体で呼吸をしていることがわかる
トンネルを抜けて再び明るくなると
お互い姿が見えないほどに小さくなっている
窓からは遥か遠くに広がる牧場の干草しか見えない
この観覧車はどこまで行くのですかね
と尋ねられたので
いつか元の場所に戻るんですよ
そう笑って答えてはみたものの
いつ元の場所にに戻るかなんて
わたしにもわからない


窓ガラスに
幼い指紋がついていた
指紋をめくると
それは昔の日記帳だった
歩道橋で終わっていた
日記の続きを書くために
歩道橋を最後まで渡り
階段を下りた
まだ小学生で
ランドセルを背負っていた
町内に一軒しかない電気屋に入ると
薄い青色の冷蔵庫の前に立ち
いつものように扉を開ける
いつもと同じオルゴールが流れる
ずっと憧れていた
それが店主のいたずらであったと
数年後に母から聞かされた
幼い指紋をふき取る
窓ガラスは水晶体になり
やがて角膜に覆われ
自分の眼となった
瞼を閉じてみた


階段の気配がする海岸通りを
古めかしい山高帽の
大男が歩く
ふいに倉庫の角を曲がると
夏は男を見失ってしまう
+
本の敷地に生えた
時計草の実を半分に切る
それが今日の優しさの基準
明日もまた知らない人と
話さなければならない
+
両方に手すりがあって
どこかにあるはずの
台所が見あたらない
干からびたネジのすぐ側で
木の列はどこまでも延びる
+
列車に乗ったたくさんの目が
小さな駅を通過していく
そのような時代が幾年と続き
その間も人は
草刈りに余念がなかった
+
殻を破って耳が孵化する
すべての生き物の言語が
沈黙を始める
保育園の狭い庭では静かに
人々が好きな遊びをしている