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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
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57
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男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2010/03/22 (Mon)
 
 
学習机の上で勉強されているのは
パラジクロロベンゼン

パラジはパラダイス
クロロは苦労人
ベンゼンはベンゼン大使
みな、一様に春を待ってる

勉強しているのは
ナオミキャ・ンベル

ナオミキャは浪岡修平
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である

浪岡修平は「防虫剤を囲む会」の会長
もちろんナオミキャは浪岡修平だが二人に面識はない
ンベルはどとのつまり
月に一度の会合が奇しくも本日開催される
第一高等学校の校舎が見える公民館集会場
八畳敷きの部屋
定刻通りに会合は始まる
事務局長の田中が簡単に挨拶をし
会の設置規則第四条第一項に基づき会長である浪岡修平が
座長として議事の進行を執り行う旨を宣言する
ちなみに田中は事務局長を名乗っているが
その他に事務局員はいない模様

この会においてパラジはパラダイスではなく
クロロは苦労人ではなく
ベンゼンはベンゼン大使ではない、それはあくまでも
ナオミキャ・ンベルの学習机の上のみのことである
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である

浪岡修平はこの公民館のある町会長にも就任している
地元のちょっとした名士であり
優れた人格の持ち主であり
肩が小さい
若い頃に肺を患い生死の境をさまようが
奇跡的に助かる
以来、痰の絡む咳をよくするようになる
さて、という浪岡修平の一言で議事が始まる
出席者は会長及び事務局長を含め七人
ナオミキャ・ンベルは学習机で一人
流れるように議事は進行する
畳の上に座る七人の真ん中には防虫剤がひとつ
会が始まってから五分遅れて会員の中村が到着する
それから数分後、定期券を忘れたと言って
中村は再び離席し公民館を出て行く

ナオミキャ・ンベルが窓を開ける
風の匂いを嗅ぐとやはり間違いなく
明日からきっちりと春である
近所の犬が吠える
何にでも吠える犬である
定期券を取りに走る中村の姿が見えるが
ナオミキャ・ンベルにはそれが誰であるか知る由もない
学習机の上では
パラジとクロロとベンゼンが
一様に春を待って
春の話をしたがっている

集会場では浪岡修平の流れるような進行で議事も終盤である
次回の会合の日にちの取り決めを行い
結局間に合わなかった中村には
後日事務局長の田中が連絡することとなる
次回の主な議題は予算と決算です
田中が確認をする
もうそろそろ春ですかね、と浪岡修平が呟くと
会員が一様に頷く
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である

中村が転ぶ
上着のポケットの中で防虫剤の割れる音がする
それでも立ち上がり
会に間に合うことを信じて走り続ける
 
 
  
 
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2010/03/19 (Fri)
 
 
軟らかな自転車に乗って階段を下りる
ハンドルが人の手みたいに生温かく汗ばんでいる
階段の下には民家と民家に挟まるような形で
小さくて細い劇場がある
切符売場で数枚の硬貨を出すと係の女性が
異物を排出するような仕種でチケットを差し出す
その手からチクロ飴の匂いが微かにする
中に入ると海亀が産卵をしていて人が集まっている
産むそばから、精がつくから、などと言って
粘液にまみれた卵を持っていってしまう
空いている席を探すけれど
どこの席もたんぱく質の固まりのようなものが
あったり、いたりして身動きもできない
開演のブザーが鳴り緞帳が上がると
向こう側に観客席が現れる
隅っこの席に自分の家族が数名座りこちらを見ている
スポットライトの熱さの中で
覚えたはずの無い台詞を
必死になって思い出そうとする
 
 
2010/03/17 (Wed)
 
 
夕方の公園で男が一人
ブランコをこいでいる
くたびれた感じのスーツを着て
サラリーマンのようにも見えるけれど
首から上に頭は無い
代わりに
水の入った水槽が乗っかっている

水槽の中には小さな魚が一匹いて
銀色の横腹を見せながら泳いでいる
溢れそうになりながらも
水槽から水をこぼすことなく
男はブランコをこぐ
こんな時間にスーツ姿の男が、とは
おそらく何か訳有りなのだろう

やがて男はブランコを止めて
公園を立ち去る
降りる時にこぼれた一滴の雫が涙に見えたのは
僕のつまらない感傷かもしれない

男の後を着いて行くと
魚が一匹では淋しい、とか
そろそろ餌の時間だ、とか思い始め
落ち着かない気持ちになる
アスファルトに伸びる男の影を見て
それが僕自身の姿だと気づくのに
さして時間もかからなかった
  
 
2010/03/14 (Sun)

61
 
窓口で明日のことを聞く
明後日のことはわからないと言う
 
犬の尻尾を握ったまま
数日が過ぎた
 
公印の刷り込まれた
きれいな色の証明書が届く
 
 
62
 
受話器を取ると
波音が聞こえる

海は何を伝えたかったのだろう
その海では
伝えたくないことばかり
生まれてくるというのに
 
でも僕は
ソファに広がっている
 
 
63
 
室長にひびがはいる

スペイン語で書かれた懸案事項は
昔からずっと
偽物のまま

分断して
蒸気船が入港する
 
 
64
 
駅名の無い駅で
ベンチに座り
来るはずのない人の名を
待っている
今日は言葉の代わりが
見つからないので
チューリップの絵を描いて
終日過ごす
 
 
65
 
メニューに
僕の名前が書いてあった
 
隣の席の人が僕を注文したので
こちらへどうぞ
と店員に案内される
 
注文した人と対面する
負傷した人たちが
帰還してくるのが見える
 
 
66
 
慈しんだ
あの空を
この朝を
食卓のピーナッツバターを
素晴らしい、素晴らしいと言っても
それを咎める者など
誰もいなかった
   
  
67 
 
眠っている人の
まぶたを押して歩く
 
みな安らかな寝顔なのに
淋しさや悲しみの類の答えが
返ってくる

屋根に星屑が降り積もる
朝までには
すべて溶けるのだろう
  
 
68
 
豆腐専用のポストに
豆腐を投函する
家に帰ってから
絹ごし用の方に
木綿を入れてしまったことに気づく
誰かに謝りたくて
果物でも剥こうと思ったけれど
昨日から台所が壊れている
  
  
69
 
家の裏に都会がある
華やいだ人々のざわめきや
乗り物の動いている音がする

一度行ってみたいのに
家の裏へと続く
道が見つからない

都会のある方の壁に
窓と
窓から都会を覗く
自分の絵を描いてみる
 
 
70
 
無人のお花畑に
パラシュートを開いたベッドが
落下する
揚げたてのコロッケを
たくさん積んで
 
もし新しい子が生まれたら
白い色鉛筆を持たせてあげよう
好きなものを
好きな形で
描けるように



2010/03/11 (Thu)
 
 
つぶやく、と、言葉が
僕をポケットにする
だから何でも入るし
ピアノだって上手に弾ける
ピアノを弾くと父はだんだん丸くなり
丸くなった背中を母が高く馬跳びする
着地したところはすぐ近くに小さな漁港があって
漁船が湾内にいくつか浮かんでいる
父が、やわらかいお刺身を食べたい、と言うので
漁師さんに死んだ魚をわけてもらう
魚だって丸ごと入る
立派なポケットになった、と
二人ともほめてくれる
気がつけば僕の年は
とっくに両親に追いついてしまった
運河沿いを並んで歩く
昔と同じ距離感で
夫婦には夫婦の
親子には親子の距離で歩く
明日は何をしようか
明日が来るのがあたりまえのように話していると
やがて野原みたいなところではぐれてしまう
迷子のアナウンスをしてくれる係の人を探して
足早に歩く、そして、つぶやく、と、
もうポケットではない僕が
だらしなく破れたポケットを引きずり
ただ足早に歩いている
 
 
2010/03/09 (Tue)
 
 
クラゲの夢の中で
わたしは一輪のタンポポでした
ぽかんと風に吹かれて
空を見上げているばかりでした
タンポポさん、と幼い声で
男の子が手を振ってくれました
わたしには振り返すための
手もなかったけれど
やがて空が割れて
すべてが水びたしになるまで
ずっと手を振っていてくれました
  
 
2010/03/08 (Mon)
 
 
雨上がりの軒下で
兄はひとり
シュレッダーになった
わたしは窓を開けて
要らなくなったものを渡す
最新式なのだろう
やわらかな音と振動で
兄は細断していく

ダイレクトメールや領収書などの
紙類だけでなく
偏平足の人形
もういない人の衣服
文鳥の死骸も
上手に細断してくれる

悲しいことは今までもすべて
兄が請け負ってくれた
要らないものはあらかた終り
これからは必要なものや
大事にしていたものまでも
処分しなくてはいけない

まだ所々に兄の名残がある
せめてもの慰みに
わたしは虹の見える方角を教え
わたしの指をあげた
  
 
2010/03/07 (Sun)
 
 
交差点の真ん中に
ダチョウが一頭立っている
たくさんの車や騒音に驚きもせず
ただ悠然としている

身長二メートル数十センチ
人より背は高いけれど
人がつくった周りの建物はさらに高い
そでれもはるか遠くを見据えて
首をまっすぐにしている

私はそのようなダチョウが好きだ
そしてそのようなダチョウのいる交差点が好きだ
やがて日没が近づくと
ダチョウは翼を広げ
空へと飛びたっていく

夢とか希望とか
そんな言葉を
ありふれたもの、と嘲ることなく
今日は家まで持って帰る
  
  
 
2010/03/06 (Sat)
 
 
僕の中で爆発する
バクとハツ
バクは奇蹄目バク科バク属に含まれる哺乳類の総称である
ハツは架空の人物、性別は女、推定年齢七十歳前後
幼少の頃、本家から分家に養女に出される
分家の苗字は本家に一文字追加されている
バクは燃えるゴミの収集日になると
どこからともなくゴミステーションに一頭でやってくる
そこにどこからともなくやってくるハツ
架空の人物なので輪郭がぼやけているが
白髪であることは辛うじて判別できる雰囲気
バクの形態は動物図鑑にはっきりとある
ただし図鑑のバクは側面から描かれた絵なので
ゴミステーションではいつも横を向いており
絵は実写に見えるように補正されている


  この時点ではまだバクもハツも爆発する予兆なし
  僕はひとり喫茶店で軽食を取っている


ハツの右手には市が指定した緑色の燃えるゴミ専用の袋
左手にはたくさんのパンの耳が入ったビニルの袋
カラス除けのネットを上げて先ずはゴミを捨てる
既に多数のゴミが捨てられている
もちろん地域の住民によって捨てられたものであるが
いつどのように持ち込まれたのかは
あくまで一般的なイメージを超えない
住宅街である
幹線道路が街を縦断しており、このステーションは
道路を挟んで右側の住民のみが利用することができる
右側、とは何に向かって右側であるのか
これもまた一般的なものの範囲内である
周辺の家はほぼすべてが二階建てで一区画およそ六十坪
窓がありドアがあり壁があり屋根がある
ある、ということだけがただあり、材質などは問わない


  この時点においてもまだバクもハツも爆発の兆しはない
  ただ、僕の中でバクもハツも爆発を待っている
  テーブルにケチャップが無いので店員を呼ぶ
  いつもと同じメーカーのケチャップが出てくる
  このメーカーが一番美味しい、とかではない
  ただケチャップがある
  その姿はイメージに似ている


ハツは左手に持っていたビニル袋を開け
パンの耳を事務的にバクに与える
その仕草に動物を愛するなどといった感傷的な様子はない
あくまで事務的にその動作は進められる
バクはハツの差し出すパンの耳を食べるが
バクの正面の姿は動物図鑑では確認できなかったので
食べるときも横向きである
正面のないバクと輪郭のぼやけたハツ
ハツの餌を与える動作は動作として見て取れるが
バクの餌を食べる行為は具体的ではない
家がある、ということだけがあるように
食べる、ということだけがある


  用事を済ませ喫茶店を出る
  先ほどの店員が「準備中」と書かれた札をノブにかける
  あの店員は山本さんだと思う
  僕は歩き出す
  もう一度山本さんだと思う
  行くあてもなく歩く、という言葉の便利さがある
  ここまできてもバクもハツも爆発しない
  僕はやや焦りだす
  景色やすれ違う人の詳細は割愛されている
  自分の手を見る
  しわがあり、青い静脈がはしり、所々に毛が生え
  複雑に枝分かれした手相がある
  ような気がする
  本当は誰が誰の中で爆発するのか
  見たことのある住宅街に出る
  ゴミステーションに横を向いたバクがいる
  間もなくハツも来るだろう


2010/03/04 (Thu)
 
 
ささやきが切符になる
私は列車に乗ることを許される
植物の蔓などでできた
自動の改札を抜ける
切符に自分が記録される
ホームへと続く階段を上る
一度も下ったことなどないのに
誰かのつくった列車が
ひとりでとことこと到着する
扉が開くと中には
海が広がっている
遠浅なのだろう
どこまでも海の中を歩く
服のほころびを見つけると
取り返しがつかなくなるまで
指でいじるのが好きな子だった
何となく春になるところまで
行きたかった
聞こえてくる波音が
身体の外に溢れないように
耳をふさぐ
  
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *