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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2024/12/12 (Thu)
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2006/06/23 (Fri)
駅前の商店街で産まれ育った
近くには八幡神社があって
お祭りの時には店の前の広い道路は
歩行者天国になった
ふだん車の往来が激しい道路を歩くと
何だかくすぐったい気持ちになって
誰かの服の端を掴まずにはいられなかった
自転車が欲しいとせがみ
この色しか残ってない、と
赤い自転車を月賦で買ってもらった
月賦で自転車を買ってもらった
親のいる前でもいない前でも
会う人すべてに自慢げに話した
少し歩くと海があり
一人で行くことは禁じられていたけれど
たまに大人に手を引かれて行くことがあった
ビニルだかクラゲだかわからないものが
たくさん浮いていた
そのうちのいくつかは本当のビニルで
いくつかは本当のクラゲだったと思う
その頃まわりには優しい人がいっぱいいて
落し物をすると
拾って届けてくれたりした

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2006/05/25 (Thu)
先生はわたしたち一人一人に
新しい武器をわたしてくださる
先生、先生はどうして
テレビで見たそーり大臣に似ているの?
チルドレン わたしたち
ニューチルドレン 新しいわたしたち

人生いろいろ 会社もいろいろ
でも歌も旗もいろいろ
というわけにはいかないのですよ
と先生はおっしゃる
ニューソング ニューフラッグ
けれど新しくないものたちのために

武器の取り扱いには注意してください
間違うと大変な目にあいます
先生、ゆう君が大変な目にあってます
心配ありません
それを自己責任と言うのですよ
フォー・ザ・ソング
フォー・ザ・フラッグ
わたしたちがいる限り
ここは紛争地域ではないのですから

先生がくださったのは
本当は武器ではなく
新しい翼
どこまでも高く飛んでいけます
たとえ落ちて地面に叩きつけられても
先生はオペラでも鑑賞するかのように
いつも寛容に笑って
わたしたちも少し嬉しい

先生、わたしたちはうまく飛びます
だからその時は力強く褒めてください
よく頑張った
感動した
チルドレン わたしたち
ニュージェネレーション
背番号をふられた
新しい人として


2006/04/02 (Sun)
(夏)

波音の届きそうにない
部屋でただ
いき過ぎるのを待ってる
テレビにはめ込まれた
冷たいガラスの匂いだけが
わたしに似ている



(秋)

言葉になり損ねて
落ちた木の実
そのひとつを
生えたばかりの新しい足が
踏み
つけていく
まだ生えてない
これからの新しい手が
拾い上げると
音はまだ始まったばかり



(冬)

降るものと
降らないものとが
積もったり
積もらなかったり
の野原では
むかし逝った人の口癖を真似ながら
子供たちが雪のダルマを
作っているのが見える



(季節)

自分が自分になるための入口
が季節、ね
とあの人は
出口で言った
季節、まだかしら



(春)

やわらかい、光
やわらかい、わたし
輪郭から少しはみ出して
やわらかい、土に還す
それから
春に咲かない草木にも
たくさんの水を
あげた

2006/03/20 (Mon)
あなた、むかし、ひとがいました
ひとは足で歩いてました
あなた、でもそれは、あなたではない
足の、裏の、歩くの、速さの、
それらすべては、あなたではない
あなたはまだひとではないから

そらを飛ぶことは放棄された
うみを泳ぐことは放棄された
放棄することは放棄された
でも、あなた、ひとであることを放棄してはいけない
あなたはまだひとではないから

  いちご、取って、いちご、そう
   野菜室の、下の棚に、あるの
    取って、いちご

  ねえ、お母さん
   わたしもう、ひとを産める体になったのよ
    先生が言ってたのよ

  そうなの、取って、いちご
   野菜室の下の棚の、
    あなた、また逝くためにひとが産まれるのね

あなた、むかし、ひとがいました
手のやすらぎ
セーターの赤色
コンクリートの塩味
すべて、それらが、あなたではない
あなたはまだひとではないの
取って、そう、野菜室の、あなた、あなた
あなたをもう一度
産んであげたいと思いました


2006/03/02 (Thu)
君が笑った
笑った口元から
白い歯がこぼれた
こぼれた歯は
たくさんの子どもになった
うまれた子どもたちは
道路を掃除した
掃除された道路は
きれいになった
子どもたちがその上に
でたらめな線路をひいていく
もう少しきちんと描きなさい
とは君も僕も言わなかった
やはて列車がやってくると
子どもたちを乗せて発車した
僕らは角を曲がるまで
手を振り見送った
泣くのなら
誰かのために泣こう
そう二人で決めた
笑うとは
そういうことだ
2006/02/18 (Sat)
裏庭から
雨音に紛れて
犬が落下していく
音が聞こえる
どこまで落ちていくのか
犬にも僕にもわからないまま
犬は落下し続け
僕は音を聞き続けている
少し傲慢に生きてきて
思い出は美しい
だから今でも僕は
思い出以外のものに
優しくなれない
やがて音が止まると
今度は僕の落下が始まる
きちんとお座りをして
僕の落下する音を聞いている犬に
雨のあたっている
音が聞こえる

2006/02/05 (Sun)
一頭の牛が
ブランコを押してくれた
こんなに高くは初めてで
空だけがきれいに見えたけれど
必ず元の場所に戻って
どこにも進むことはなかった
明日食べられるのだ、と
牛は言った
食べられた後はどうなるのだろう
牛にもそれはわからなかった
背中に伝わる牛の力は
すでに夕日に似ていた
気をつけて
牛さんも気をつけて
誰にもわからない明後日のことを考えながら
酷いことを言ってしまったと
泣きながら帰った
2006/01/09 (Mon)
重さ、とは
預かること
預かる、とは
許すこと
許されること

必然的に張り巡らされた
偶然によって
僕の細胞は君の細胞と出会い
やがてまたひとつの
重さとなった

雨が降っていた
雨の話をした
それ以外の話も
出来る限りたくさんした


2006/01/03 (Tue)
久しぶりに三人で手を繋ぐ
いつもより寒い冬
汗をかいた小さな掌は
どことなく妻に似ていた

歳を聞けば指で
三つや五つを作っていたのに
今では両手の指すべてを使わなければならない
もちろんそんな仕草をすることなく
普通に十歳と答える
年月が経つ、ということには
そういうことまでもが含まれている

縁起をかつぐのが好きな妻が
僕と娘に五円を渡す
恐らくこの日のために取っておいたそれには
昨年の年号が刻印されていて
落ち着かないくらいに光っていた

手を合わせる僕らの背中の方から
他の人たちの声が聞こえる
世界の平和、なんて
どうして願ってしまったのだろう


2005/12/07 (Wed)
芽、夏の始まる頃
なだらかに繁茂し
雨戸のような
古い匂いのする部屋
少年は水棲生物の絵を描き
鉛筆の芯はそのために
おられ続けている
逝くもののために祈り
生まれるもののために祈る
それはささやかな毎日
というわけではないが
時として
生きるための手立てだ
部屋を満たす夕焼けの色に
溺れそうになりながら
少年は何のために
振り返ったのか
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* ILLUSTRATION BY nyao *