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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2024/12/12 (Thu)
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2005/11/17 (Thu)
家屋は言葉のように
優しく朽ち果てていた
時間があればそこかしこで
両親は笑顔を絶やさなかった
幸せな玄関ホール
その壁には今でも
兄と私の指紋が残されていて
静かに機械の匂いがする
足りないものなど何も無かった
という少しの嘘とともに
私たちはきっと
愛されていたのだと思う
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2005/11/14 (Mon)
フリマの一番隅の方で
いなくなったままの父が
お店を出していた
犬がいっしょにいた
名前をペロといった
父が好んでつけそうな名だった
お店には小さな靴が一足
子供のころ私が履いていたものだ
私が買ってあげた
父は小さく礼を言い
両手を広げると
秋の高い空へ飛んでいった
あんなに楽しそうにしている父を
私は初めて見た気がする
ペロも楽しそうに後を追った

2005/11/02 (Wed)
話に尾ひれがついて
泳ぎだす速度で
泳ぎだす
身体にあたると少し痛く
自分の血はまだ赤い

眠たい目を擦りながら
恋人のだらしない口元にキスして
唇から溢れたものは
唇に戻るのだよ
と、聞いちゃいない
恋人は

たかし、たんとお上がり
母の声が聞こえる
母さん、僕はたんと頂いてます
それよりその言葉は
たかし、という子にかけてあげてください
何度言いたかったことか

窓を開けると
話は隣家の外壁との合間をぬって
景色の方へ泳いでいく
窓を閉めると
景色は
窓で終わる

2005/11/01 (Tue)
中村が集団となって土ぼこりをあげながら
ひなびた温泉街を走る
中村が健脚だとは聞いていたが
この地で生まれ育った番頭ですら
中村がどこに行こうとしているのか知らない
おい、とうろく、ちょいと見ておいで
丁稚奉公のとうろくは何処かに行く途中だったが
日ごろ目をかけてくれている番頭の言いつけならば仕方ない
草履をつっかけて中村の後を追いかけていく
いったい何里走ったことか
中村の脚は次第に鈍り始め
やがて何かの順番を待つかのように
すっかり動かなくなった
とうろくは伸びをしたり飛び跳ねたりしてみたが
自分より背丈のある中村が邪魔になって
先の中村がどうなっているのか様子がわからぬ
ならば、とそこは幼い頃を山の中で過ごしたとうろく、
大きな樫の木に登り
中村の頭、頭、頭、の連なりの先を見晴らしてみる
大きな川が流れていて中村が次々と入水しているのが見える
川を渡るのが目的ではなく、川を流れていくのが目的
であるかのように川に入った中村は
抵抗することもなく流されていく
水を飲みすぎ大きく腹を膨らませながら流れていく中村
大きな岩にぶつかりぱっくりと割れた頭の中村
その光景が大変なことなのか
それともどうでも良いことなのか
とうろくは皆目検討もつかない
とりあえず番頭に知らせなければ
と、来た道を走る
途中、そういえば厠に行くところだったのだと思い出し
道の端で立小便を始める
ああ、小難しいことを知らないというのは幸せなことかもしれない
小水が抜けていくと同時に頭が空っぽになっていく気がして
首を振ってみる
耳垢のこそばゆい音ばかりが聞こえる


2005/09/16 (Fri)
どこからかまた盗賊が来て
盗んでいった
かまぼこ板だけなら良かった
かまぼこまで盗まれたら
僕ら家族はかまぼこを食べられない

子供たちは泥棒さんが来た、と大はしゃぎし
とりわけ下の子は
泥棒さんにお手紙を書くのだと言って聞かない
チラシの裏側に
昨日牧場で見た牛さんが食べられませんように
と泣きながら願い事を書いている

僕は寝転び少し高くなった天井を見る
行きたい所ではなく
行けない所を消去法で塗りつぶしていく
そろそろそんな時期なのかもしれない

かまぼこ売り切れだったわ
そう言って玄関でサンダルを脱ぐ君に
えーっ、と上の子が不満の声を上げる
子供とはきっとそういうものだ
2005/09/06 (Tue)
せっかく外に出たのだから
妻と娘に土産を買って帰りたかった
二人が泣いて喜ぶようなものではなく
小さな包みのもので構わない
ほんの少し甘いお菓子で
お土産買ってきたよ
あら、ありがとう
なんて大げさではないお礼を言われ
食べながら美味しいとか美味しくないとか
ありきたりの話を適当にする
家族の絆とか
そういうご大層なものではなく
僕ら家族三人を世界が放っておいてくれるような
そんな筏を買って帰りたかった
2005/08/30 (Tue)
種子が私を追い越そうとしている
それはとても嫌なことなので
速度を上げる
と、背が少し伸びる
冬に逝った人の名を
夏の終わりになって
帳面に書き足す
遠くが見えるということは
かわいそうことなのだ
そう気づき始めている
種子が種子の中で発芽する
私が私の中で行方不明になる
2005/08/21 (Sun)
ひまわり畑の上を
一羽のペンギンが羽ばたいていく
僕はその意味がわからないまま
男の人と手を繋いでいて
見送るより他なかった

ぎゅっと握ると
男の人の手は少し汗ばんでいて
何か大切なものを包み込むような力が
僕を押し返す
とても有り触れた
けれど特別な名前で
その人を呼んでいた気がする

ひまわりが無かったら
ペンギンはどうなるのだろう
そう考えると急に恐くなって
更に力を込めた
掌の中で
男の人も景色のすべても
粉々に砕け散ってしまった


2005/08/17 (Wed)
子供が行きたがっていたはずの
遊園地に行った
子供が恐がるであろう乗り物
恐がらないであろう乗り物
そのひとつひとつに順序良く
そしてなるべく丁寧に
乗っていく
スタンプカードがたまったので
景品交換所で綺麗な色の
飴玉に換えてもらう
子供と共通した記憶などあるはず無いのに
どんなに高いところまで上っても
観覧車からは懐かしい形のものしか見えない
何歳になったのか
なんて自分の子の歳を忘れる親などいるものか
なめていた飴玉で口の中を切った
かすかに地下鉄の味がする
そのまま地下鉄に乗って
観覧車の見えないところまで
行くつもりだった
2005/08/10 (Wed)
モラルを守るの、ラルモ
それは大切なこと大切なことよ
生きて再び歩いたりしてはだめ
火遊びもまた
街がひとつ陥落しているわ
ジス・イズ・ア・ペン
それは荒井注のギャグよ
スペルは忘れてしまった
けれど人はスペルで話をするわけじゃない
それは当たり前のこと当たり前のことよ
もうあなたは魂という言葉がなければ
存在することすらできない
そう、それがモラル
ああ雨が降ってきたわ
他の人が
取り込み忘れた洗濯物のことを考えている
ラルモ、あなたの代わりに
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* ILLUSTRATION BY nyao *