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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
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57
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男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2024/12/05 (Thu)
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2004/12/03 (Fri)
夕暮れ時のトイレで俺は
花子を殴る
ドリフの大爆笑のオープニングテーマを高らかに歌い
俺は花子を殴り続ける
だって、お化けだぜえ、恐怖だぜえ、恐いんだぜえ
俺は花子を殴る
花子は微笑み俺を殴り返さない
俺の手は痛くない
俺はその手で何度も後出しジャンケンをしてきたが
俺の手は痛まない
俺 殴る 花子 激しく 殴る 花子 微笑む 花子
激しく 微笑み 激しく 殴り 返さない 花子
花子が水について独白し始めると
花子の手紙は静かに文字化けしていく
ドリフの大爆笑は既に末端の細胞まで浸透してしまった
それでも俺は高らかに歌いつづけ
爪の隙間から溢れ出そうとする仲本工事
を俺は殴る
違う 花子
俺が殴るのは花子
季節がすべておまえの名と一字違いだったらいい
ファミレスのメニューはすべて俺の名と一字違いだった
順に料理を注文し 食べ 飲み 短くなった
足の分まで
俺は花子を殴る
何故 殴らない 俺を 花子 生きる ことは とても 
楽しい 花子 楽しい 何故 花子 こんなにも 花子
ドアの隙間から出て行こうとする半分のブー
それでも俺は花子を殴り続ける
痛まぬ拳で 花子
微笑むのはいつもおまえだけだ


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2004/11/28 (Sun)
交差点で白いす・うどんに呪いをかけている
たくさんのうどん屋の店主
ただひたすらに紙を排出する事務機器の前
笑いすぎて釣り合いがとれなくなった僕の右と左側は
吸い込まれていく 具の無い麺汁の一番奥まったところ
輪転機で刷り込まれた自分の生命に似たものたち
刷り込んで刷り込まれて擦りむいてしまった
僕のまだ幼い脛のあたり
す・うどん もちもちとして 僕を侵食する


魚眼レンズで覗き込む明るい午後はそこはかとなく脱線
いたるところのステイションで僕は列車を乗り換える
食堂車のメニューは上から す・うどん す・うどん
朗読する声も晴れやかに朗らかに軽やかに透明な空気の振動
ってバカ 忘れろ 僕が僕であることを
僕を侵食する白いす・うどん す・うどん ですもの
トイレに引きこもったまま出てこない兄の名を順番に呼ぶ少女は
昨日 朝礼の最中に貧血で倒れました
それは蛇使い座の僕の妹


敵のいない兵士が宿営地で禁止されている笑い方をすると
瞬く間にニュースとなりうどん屋のメニューの隅々まで配信される
そんな街でいつまでもくっつかない
お腹と背中を抱えて僕は笑い続ける
その隣で笑い損なっている妹
青い空は膨張していると不謹慎な発想の途中
とてつもなく す・うどん
とほうもなく す・うどん
さよならを呟くとまた形成される底なしのす・うどん


何でもいいですから
具を入れてください

2004/11/19 (Fri)
美味しい美味しいブブンヤキソバを君は作っている
キッチンは甲状腺のような白い匂いに包まれ
外の方はきっともっと広い世界が連綿と続き
幾多の人々が美味しい美味しいゼンブヤキソバを
美味しい美味しいと食べているのだろう

僕らはいつまでも部分であるということ
いつまでも全部にはなれないということ 
それは硬く 甲殻類の甲羅のように硬く あるいは
裏の動物園に潜む優しい目をした凶暴なゴリラの頭蓋骨のように硬く
もしくは病院の待合室でいつまでも誰かを待ち続ける男の
足にできたウオノメのように硬く もっと硬く
でも もじゃもじゃ

白血球の中を吹き抜けていく風の強度なら負けないぞ
君が腕まくりをすると わいいん わいいん
刃のこぼれた鋸の音が強く強く鳴り響く と
言っていたかつての知り合いは他の知り合いを探しにいったまま
帰ってこない 冷蔵庫にはブブンヤキソバの一部分 腐りかけて
まだ腐っている最中

麺の中で繰り返される小規模な分裂と結合
僕らの言葉の中心は恐ろしいまでの真空
良い形の赤血球が通過していく という
僕らの通過儀礼は世界によって断罪される!
の瞬間雨量は雨量計の針を振り切ってどこまでも逃走

滑走路の直中 歌を忘れて飛び立てない手漕ぎボート
そのオールももじゃもじゃのブブンヤキソバ
なんてことだろう君 僕は君のことが好きでたまらないよ
と囁いて行く一陣のもじゃもじゃ
僕らはいつまでも部分でいつまでも全部にはなれない
出来上がったブブンヤキソバを美味しい美味しいと食べる
残りは全部 言葉を失ったまま風の音ばかりが吹く明日の弁当箱へ


2004/11/12 (Fri)
触覚の先端ではもう無くしたての繊細な産毛
 幾千とおりの声が転回を始めている
  その閃光は深く深く脳を焦がし
   僕の両手から溢れるハチミツを虹色に染め
    やわらかく着地を始める そして舐める 

 薄透明な羽に浮かぶ葉脈のような羽脈
  ジョン と呼んで アン と犬は吠えた
   犬の名はジョンではない
    何と呼んでも アン と吠える犬
     ジョン 淋しいジョン
      シカゴの埃くさいマンションの一室で朝を待ちきれずに
       大好きな四月の暗闇の中にダイブしたジョン

  複眼を構成する眼 そのすべてに僕は映っているか
   重たい瞼に耐えかねて世界を遮断してはいないか
    たとえば恐怖 たとえば怒声 たとえば懇願
     僕は映っているか 僕は見ているか
      たとえばダイブ ジョンのダイブ
       誰も見届けなかった 淋しいジョンのダイブ

   花を見つけられないミツバチが柔らかな空気のなか
    透明なコップの縁にとまっている
     ジョンと呼んでも返事をしない それはもっと別の音
      僕を刺して絶命していったたくさんのミツバチたち
       かつて僕はその毒嚢で溺れたかった
        気がつけばジョンもミツバチも消えている
         コップから僕がこぼれ始める

2004/10/14 (Thu)
渋谷だらけの東京を秋雨前線が通過していく
地下鉄は簡単
指先のさじ加減で喜ぶことも可能です
走れ!って ぎっ?

トルエンをやめて三年目の兄弟が叩くレジから発生した油
川の流れのように空を飛ぶ美空
全部ひっくるめて脂と呼んでも構いません

むしろ渋谷です

退屈した少女が地球儀を回すと小さな竜巻
いいえ秋雨前線のことは忘れてください
アンケートを集める調査員は普通に悲しい
悲しいってその手の中で渋谷は東京だらけに
包帯を巻くのが苦手な看護師も幸せそうでした 
と泣きくたびれた美しい横顔の祖母

だから忘れろ!って ぎっ?

ハチ公の効能を三つ速やかに述べよ
いや述べなくともよい むしろ述べるな
渋谷は刻一刻と渋谷だらけの東京だらけとなり
名もない忠犬が繁茂し 波となり 岩を砕き
109のマネキンどもは一斉にカタカタ
カタカタ カタカタと笑い出し ぎっ、ぎっ、ぎっ
その中に確かに僕はいた!

交差点で見知らぬ坊主とサーターアンダギーを食べ終わったら
御茶ノ水に帰ってもよろしいとする

2004/10/12 (Tue)
西病棟の長い廊下に湿ったモップをかけるから
清掃婦の後姿は僕の幼い娘に似ているから
寧ろそれは僕の幼い娘ではなく君に似ているから
決して君ではなかった
何度目になるというのか また「正」の字が増える


ボカァ ハラァ へったァ へったァヨォ
持っているフォークにはひとつひとつ
歯がありませんから
コツコツと叩く西病棟202号室の白い皿の上では
晴れ間が続いている 本日のお天気
このままでは湿ったグラウンドの水分もきれいに蒸発するでしょうと予報士
けれでも果てしなくリレー選手は朝飯を食べ続けるから
濁りのない右手をつきあげるゴールテープは濁っている
僕の書く「正」の字のようにどこまでも
です


その片隅には君が植えたミニトマトの畑
僕も娘も沢山のミニトマトを食べて良い
でも僕の幼い娘はミニトマトが嫌いよって嫌いだから
赤く赤くはじけてしまうから
食べる度に増えていく「正」の字はいつも湿っている


内診する若い医師の白い白い手が
僕の卵管に到達して腫れあがった卵巣をまさぐり
笑い 泣き 叫ぶごとに増えていく「正」の字
生ごみは燃えるごみとしてくださいと張り紙
捨てられないものはどうぞこちらへ
ふと朝は音を失う
ボカァ ハラァ へったァ へったァヨォ
幾分かの湿り気とともに配膳車が長い廊下の中央に止まる

2004/10/09 (Sat)
昆虫を描いてばかりいる少年が
今日は汽車の絵を描いた
たび
と口にしてみる
えい、やっ
気持ちをくしゃくしゃに丸めたい気持ちになって
余白にひどく不釣合いな
一匹のノコギリクワガタを
描いてしまった
いつものようにラジオをつけたまま眠る
放送が終わり
草野原をわたる風のようなノイズが溢れ出しても
画用紙の中で
汽車はどこにも行かない
2004/10/06 (Wed)
食べられるものを食べるのが
好きな人でした
食べられないものを食べるのが
嫌いだったところは僕とは似たもの同士
だったかもしれません
食べられないものを食べないのが
好きだったか嫌いだったか
残念ながらそこまでは知りません
所詮それくらいの仲だろう、という誹りを
食べているときにも多々いただきましたが
食べられるものを食べないことは
時々好きでしたよ
と答えたときに限って相手は食べており
食べていない僕の言葉に
耳を貸してはいただけませんでした
さて今までに「食」という字は何回出てきたでしょう
という何かのジョークが披露されたような原っぱで
手を振りお別れしてから
昨日
数回の節目をむかえました
2004/10/04 (Mon)
微笑みの匂いがする最後の頁を
めくるかのように
僕が女を忘れたころ
女はいつもと同じ場所で
いつもと同じ歌を
歌っていたそうだ
未明
人も車も動き出さない冷たい駐車場
空を見失った一羽の鳥が
墜落していた
掌の中で
心音が心音でなくなる音を
確かに僕は聞いたのである

2004/09/26 (Sun)
ゴンザレス、生まれてこの方メキシコ人
今朝も早くからメキシコ風のシチューを
食べる
ゴンザレスを見守るゴンザレスの兄
生まれてこの方メキシコ人の兄
港の町では遠い海で漁をする季節
漁師ではないからゴンザレスもゴンザレスの兄も
船に乗らない
そんなメキシコ人の兄弟から恐ろしく遠いところで
僕とまだ幼い娘はボルシチを食べる
それもまたいつかの遠い話
そして食後
娘と昼寝をした


受付番号113番の僕はまだ呼ばれない
114番の娘は届かぬ足をブラブラさせている
待合室はひんやりとありふれていて
どこにも発車しない
採血室の前で人々が一斉に脱脂綿で左腕を押さえている
娘が描いたその絵をどのように褒めるべきか考えていたが
娘はまだ脱脂綿という言葉を知らない
話さなければいけないことは沢山ある
そのいくつかを話し
やがて待合室を後にすると
娘と昼寝をした


悲しいことがあると裏の森で鉄砲を撃つ女の話
小さい頃は列車の運転手になるのが夢だった
ふとある日、列車の運転者になることはできないと知り
すべての弾を撃ち尽くしてしまった
それでも悲しいことがあると鉄砲を撃ちに裏の森に行く
鉄砲の音は?
バン!バン!
三回聞かせたその話のいつも同じところで娘は笑う
女は一度も笑ったことはないというのに
僕も娘といっしょに笑う
四回目の話を終え
娘と昼寝をした

どちらが先に寝付いたか
僕は知らない
娘も知らない

誰も知らない
誰も知らなくていい話



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* ILLUSTRATION BY nyao *