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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
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56
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2024/05/05 (Sun)
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2004/09/25 (Sat)
行ったきり帰って来ない父を待っている間に
僕は肩を壊してボールを握れなくなった
故障した肩は匂いや形が花に似ているみたいで
通りを歩いていると勘違いしたハチが集まってきて困る
その度にそよ風のようなタッチで叩き落とさなければいけない
何事も大切なのはそよ風のようなタッチだ
父の口癖を僕は守り続けた
それでもハチに当たらないときは
いよいよ判定に持ち込まれる
真夏の炎天下、旗を降る係の人も大変だ
ほんの気持ちですからと中元や歳暮を贈っても
風光明媚な絵葉書を添えて丁寧に送り返してくる
その後は採血検査
こちらの検査員は中元や歳暮どころか
三食昼寝付きまで喜んで受け取る
それなのに検査の結果を教えてもらったことはない
今頃は冷たい箱のような中にコレクションされているのだろう
おかげで友人からも
エッチな身体になったね
と言われるようになった
腰を振り振り歩くと
ああ、自分も立派になったんだなあ
という実感がわいてきて
余計にハチが集まってきてしまう
時々父が殺虫剤のスプレーを持って助けに駆けつけてくれる
そんな夢を見る
父さん、僕は人より肌が弱いんだよう
いつも嫌な汗をかいてとび起きる
考えてみれば物心ついてから寝汗ばかりかいている気がする
ためしにノートいっぱいに父の名を書き殴ってみる
どこかに点をつけなければならないというのに
スライダーの投げ方みたいにうまく思い出せない



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2004/09/22 (Wed)
どううぶつえんの檻の前で親友は盤を取り出し
飛車角落ちで良い、と言う
親友の温かい手から飛車と角を受け取り
どううぶつの檻に投げる
どううぶつは隅でうずくまったまま見向きもしない
飛車も角も生肉ではなかった
並べる前にどううぶつの檻の前で記念写真をとることになり
近くにいた飼育係にシャッターを押してもらう
はいチーズ、と飼育係は決して言わなかったが
自分の父親と母親の名前を教えてくれた
良い名前ですね、と褒めると
優しい両親でした
そう笑って、どううぶつの飼育に戻っていった
並べているとどううぶつの欠点ばかりが目に付いて
なるべく汚い悪口を言いたい衝動にかられる
親友はそんな僕に、銀もいらないから、と
またその温かい手で握らせる
いったいいくつ並べたのか、もはや数え切れない
このまま並べ続けられればいい
そのように思ったのは僕だけではないはずだ
けれど終わって欲しくないことにはやがて終わりがくるものだし
飼育係の両親の良い名前ももう思い出せない
ポケットの中で親友の銀が音をたてた
いつも何かが多いくせに
足りない気持ちでいっぱいになる


2004/09/19 (Sun)
ありったけの小銭を持って
僕らはオークションに出かけた
実家が火事なんです
と泣きじゃくる男の人に競り勝ち
三匹のサワガニを落札した
一匹は僕が名前をつけて
一匹は彼女が名前をつけ
もう一匹は帰りの地下鉄の中で
行方を見失ってしまった
駅の係にその旨を伝え
ついでに火事のことも聞いてみたが
上司に相談してきます
と言ったきり姿を見せない
何かの間違いだったのかもしれないねえ
ということになって
以来、僕らの間で火事の話はタブーとなった
一方、二匹のサワガニはといえば
水槽においた石の陰のようなところから出てこようとしない
そんなに好きならば、と
陰のようなところを増やしてやると
サワガニはこっちの意図を見透かしているように
冷ややかな目で見るものだから
何だか気まずい雰囲気になって
やがてサワガニの話もタブーになった
それからしばらくして
見つかったとの連絡があり駅の係に行くと
サワガニはきれいに干からびていた
その頃には
他の二匹もとうに生きてなかった


2004/09/13 (Mon)
本日はお日柄もよろしく
押入れの中は相変わらずのじめじめ模様が続きます
いつまでこの暗闇の中でかくれんぼをしなければならないのか
親方にも僕にもよくわかりません
ただ、かび臭い布団や枕に囲まれたり包まれたりしていると
親方の英語の発音もいつもより透きとおっている気がして
どうやら自分が鬼であることを忘れておられるようです

親方はカンナの使い方もピアノの弾き方も教えてくれませんが
親方、数えてください、と言うと
いち、にい、さん
親方は定理の説明を中断して
暗闇に溶けていくようにゆっくり数え始めます
きっと親方の唇は正確に動いているのでしょう
僕には無理なことだし、その必要もないことです
親方、こんなことを考える僕は生徒に喩えるなら
良くない生徒なのかもしれません

ふすま一枚隔てた向こう側はハイウェイで満たされて
緑色のスポーツカーや何やらも軽快に走っている頃と思います
気管支の弱い僕の咳がまた一つ増えるわけですが、親方
それは忘れられないということとどう違うのでしょうか
たとえば親方が好きだった整然と並ぶ故郷の模型
親方が愛していた綺麗な声で鳴くカエルたち
そしてその一匹一匹を僕が死なせてしまったこと
なども

親方は「もういいかい?」とだけ訊きます
僕の「まあだだよ」はこの暗闇では「もういいよ」と同じことです
顔が見えなくて良かった
それでも親方の変なところにある黒子を思い出して
ついつい笑ってしまうのだけど
乙女の純情みたい
という言葉で恥ずかしがったのは僕ではなく
親方の方でしたね

お日柄のよろしい一日の終わりを告げる音楽が流れ
扉や窓が閉じられる時刻となりました
親方がふすまを開けると光が目に痛くて
かくれんぼの終わりを知らなかったのは僕だけでした
知らないことは知らなかったという事実に気づいた後で
いつもそのことに小さく鳴いてしまう
親方はゆっくりとスポーツカーに近づいていきます
やはりまだ僕には乗れません
親方、そこから僕の姿が見えますか
決して振り返りもしないで


2004/08/25 (Wed)
スチュワーデスさん、とスチュワーデスに声をかけると
私にはケイコという名前があるんです、とそっぽを向かれる
今度こそ間違いの無いように、ケイコさん、と呼ぶのだが
ケイコは押し黙ってしまう
「ケイコさんの実家は浜松で煎餅屋をやってるの」
彼女が耳元で囁く
何でそんなことを知ってるのだ?
「情報化社会よ」
そう言う彼女はこれから会いに行く俺の両親の職業も知りはしない
俺はただ単に機内サービスのアイスコーヒーが欲しいだけなのに
他の人のトレーにはオレンジジュースばかり並んでいる
「何を頼んでもいいのよ」
彼女がまた耳元で囁く
そういう問題じゃないだろうと思うのだ、俺は
確かにメダルの色は銀より金がいいに決まってる
けれどそれこそが元凶であるということを
俺は嫌というほど知っているつもりだし現に知っているつもりだ
いずれにせよ、ケイコにとってそんなのは重要ではない
鉛筆と紙をよこし、とりあえず好きなことを書いてください、とケイコは言う
俺に書きたいことなどあるものか
「好きなことを書けばいいの」
彼女の忠告どおり俺は今までの半生を書き始めた
二十二歳の夏、近所の草むらでの出来事にさしかかったあたりで
「死」という言葉を使わずに書いてください、ケイコが言う
冗談じゃない、ここまできてそれはないだろう
猛烈に抗議をするとケイコは悲しそうな顔でアイスコーヒーを持ってくる
仕方なく死に関連するところを消しゴムで消していく
今まで書いたことのほとんどが消えてしまったし
これから書こうとしていたことのほとんどが書けなくなった
何故俺の周りはこんなにも死人ばかりなのだ
人間ばかりではない
ひよこも出目金もミドリガメもヤモリもイモリも飼犬も飼猫も皆死にやがった
「誰もが皆いつかは死ぬのよ」
そうかもしれぬ
だが、それが俺たちの生きていることの理由になるのなら何だというのだ
「好きよ」
ああ、好きだ、ケイコ、俺はおまえが好きだ
ケイコ、何故俺たちはいつも愛し合うことができないんだ
記憶の中で悲しいのはおまえだけじゃない
他に御用は?というケイコの声が色も無くはみ出している
高度41,000フィートの空
ケイコは最早ケイコの体をなしていない


2004/08/11 (Wed)
何はともあれ
やっとのことでお触りバーにたどり着いた
とにかくここまでの道のりが大変だったのだ
目覚し時計にカミキリムシが巣をつくって
がちゃがちゃ長針と短針を適当に動かすものだから
何時におきるべきかわからなくなるし
朝食だってそうだ
トーストとバターの順番が逆じゃないか、と
あとミルク、とか五月雨式にそんな感じで
困ったことに、「過呼吸症候群の靴を救え」
と書かれたプラカードを持った人たちが家の前でデモ行進をしていて
うちは靴屋じゃない!
と怒鳴ると、
アメフラシの汁!
そうシュプレヒコールを浴びせられる
毎日触りたいわけじゃないんです!
という言葉で威嚇し、峰打ちで中央突破
通りかかったタクシーに乗り込み
今日は朝から犬を三匹見たよ、って
口癖のように繰り返す運転手に場所を教えるために
地図を取り出せばそれは天気図にそっくりで
高気圧の上から三本目の等圧線、海を見ながら右に
などと説明しなければならず、それでもようやく到着したのだ
ついでに言うと
お触りバーは雑居ビルの二階にあって
ダッシュ、一段抜かしで階段を駆け上がる途中
彼女に四回もさよならのメールを送るはめになった
おかげで足をすべらせ急降下、頭を強打し
耳の穴から何かが出できたぞ
ドンマイ、ドンマイ
そんなわけで何はともあれ、お触りだ
暗闇の中
触る、とにかく触る
地番のない一点から別の一点へと指を滑らせていく
伝わってくる感触が自分自身のようだ
触る
涙が出てくる
触りたかったのだ
本当に触りたいものはいつも触れないものばかりなのに
そんなこと知っていたはずなのに
TOKYO、TOKYO、何度か呪文のように唱えると
やっと安心することができた
目覚し時計にいたのはセミだったかもしれない
そんなふうに思え
余計に涙が出てきた



2004/06/25 (Fri)
降りしきる雨の中
傘もささずに俺たちは歩いた
死ぬほど歩き続けた
けれどそれで
俺たちが死ぬことはなかった
俺たち いい奴だった
俺たち 輝いていた
俺たちは生の肉だった
俺たちは皮膚そのものだった
俺たち 愛しあってた
俺たちはポケットに
鋭利なナイスを忍ばせて歩いた
時々鋭利なナイスをちらつかせて
俺たち 素敵だった
好きな食べ物は何ですか
そう聞かれて
カブト虫
と答えてしまったような気まずさが
生きていく俺たちにはあった
別にダンゴ虫でも良かった 
俺たちはダンゴ虫が好きだった
俺たちには名前があった
降りしきる雨の中
歩く俺たちを追いこしていく
別の名前たち
アスファルト
雨が水となって溜まる
ガードレール
のように
俺たち 無口だった
俺たち 平和だった
矮小なバクテリア

そしてテリア
首輪をひきちぎり
テリア走る 北へ
背中の手が届かないところが
痒い俺たちは
ショウウィンドウを見ながら
お互いの背中を掻いた
俺たちはショウウィンドウ
になりたかった
俺たち 幸せだった
降りしきる雨の中
僅かな言葉で愛を語り続ける
俺たちはいつまでも頭蓋骨だった


2004/06/01 (Tue)
日が暮れていく、僕の脆弱な血管の中を
翼よ、あれがパリの灯だ
けれど、僕の翼はじゃがいもでできている
ポム・ド・テール!
大地のりんごよ、大空を飛べ、飛べったら飛びたまえよ

  エッフェル塔は垂線である
  その垂線をただひたすらに登り続ける僕は言葉なんて知らない
  だから飛んでくる戦闘機をただひたすらに
  両の拳で叩き落すことしかできません
    
    モンマルトルのアパルトマン、西日のあたる一室
    漢字の練習をしているマドモアゼルは僕の懐かしい恋人
    「愛」という字がうまく書けない
    モナムール、そんなに泣いてはいけない
    さあ、僕がじゃがいもを茹でてあげよう
    僕の翼はじゃがいもでできている

  エッフェル塔の下ではマダムたちが落ちてくる戦闘機の翼を茹でる
  あまり味がしないので、僕は塩やバターをたっぷりとつけて食べるのだ
  エッフェル塔の下でたくさん、たくさん食べますよ
  だから僕、もっと戦闘機を叩き落としたまえ、落とせったら落としたまえよ

      セーヌ川の川上から巨大なじゃがいもがドンブラコと流れてくる
      太郎
      あの中には僕の懐かしい太郎がいるはずだった
      巨大なじゃがいもは護岸を削り、木々をなぎ倒し、橋を壊し
      アデュー
      太郎、海へ

  すべての戦闘機を叩き落し、咆哮!あの月に、あの満月に
  被弾してズタズタ、肉体、落下するエッフェル塔から
  ポム・ド・テール!
  のイメージだけが翼となり大地に激しい口づけ
そして僕はじゃがいもを食べたひたすら食べた死ぬほど食べた
エッフェル塔の下で
懐かしい恋人、懐かしい太郎
を抱いて本当は空を飛びたかった


2004/04/23 (Fri)
フセイン、昨晩おまえの夢を見た
おまえは壇上から民衆に向かって演説をしていた
それはおまえの国の言葉なので俺には聴こえなかった
サダム・フセイン、俺がおまえの夢を見ているとき
おまえは俺の夢をみていただろうか
心配しなくてもいい、俺は演説などしない

フセイン、今朝、おまえが最初に目にしたものは何だ
聞いた音は何だ
嗅いだ匂いは
何だ
時計代わりの携帯のチャクメロで俺は今朝も目が覚めた
最初に目にしたのは朝の闇、そしてディスプレイ
最初に嗅いだのは自分の小便の匂いだ
ここは何も変わらない
サダム・フセイン、おまえはもう
おまえの国の人々やおまえの国ではない人々が苦しむ姿を見ていないだろう
叫びを聞いていないだろう
いや、もしかしたら見ているかもしれない、聞いているかもしれない
俺と同じテレビジョンの中
そこでは血と火薬の匂いだけがしない

フセイン、おまえにはおまえの正義がある
合衆国には合衆国の正義がある
俺の国には俺の国の正義があって
俺には俺の正義がある
正義?そうだ、正義だ
すべてのことは正義の名のもとに行われている
正義の名のもとに侵略が行われ、人が殺戮され、別の正義が駆逐される
俺は俺の正義の名のもとに守るべきもの守らなければならない
サダム・フセイン、おまえが駆逐した正義は何だ
駆逐されたおまえの正義は何だ
俺は押し寄せてくる正義の波に溺れている
もしかしたら俺の正義のためにどこかで誰かが死んでいるかもしれない
そんなのはつまらない感傷だ、とおまえは笑うだろう
フセイン、今日の俺は弱い

フセイン、おまえが俺のことをしらないのと同じように
俺は採集した昆虫のことを図鑑で調べる程度にしかおまえのことを知らない
もし俺たちが死んだら
神様を信じているおまえと神様を信じていない俺は別のところに行くのだろうか
違う正義をもつ俺たちはわかりあえないのだろうか
サダム・フセイン、もし電車の席に座っているおまえの目の前にお年寄りが立ったら
おまえは席を譲るか?
雨に濡れている人がいたら傘を差し出すか?
おまえと俺の正義は本当に違うものなのか
そんな簡単なことをおまえに聞きたい
今日の俺はとても弱い
そう言っている間にも、おまえも俺も知らない誰かが血を流し
俺たちは正義の名のもと、無邪気に許しを乞うている
2004/04/17 (Sat)
駅のホームで国歌を斉唱します、国歌を斉唱したいのです
どこの国歌でも構いません、僕は斉唱したいのです
恋人はホームの先端でフェンスを噛み砕いています
ものすごい音をたて、あるいは音をたてないで
僕は国歌を斉唱します、高らかに!斉唱したいのです

ある日、僕はこつ然と駅のホームに立ちました
国歌を斉唱する僕の足元にスズメがやってきて小さな歌を歌います
ベンチでは初老の紳士が一人、西洋式の便器を大事そうに抱きかかえ
良い思い出を、とつぶやきながら、走り去る列車に手を振っています
ホームの先端、恋人はフェンスを噛み砕き続けています
もう、彼女に歯はありません、僕は国歌を斉唱します

どこの国歌でもいいのです
その国の人を大切に思います
その国の大地、一番北に咲く花のことも
その国のすべての階段という階段が健やかに階段であることを祈ります
僕に国歌を斉唱させてください

ホームの先端でフェンスを噛み砕き続けている恋人は
すでにフェンスになってしまいました
伝えなければならないことが沢山あったはずなのです
だから僕は駅のホームになろうと思います、なりたいのです
先端でフェンスである恋人がフェンスを噛み砕いている駅の
ホームになりたいのです
そして僕は国歌を斉唱します
もう、「愛」という言葉で何もごまかしません
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* ILLUSTRATION BY nyao *