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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2010/08/04 (Wed)
 
 
僕の名前の近くに
誰か立っていた
漢和辞典を忙しそうにめくっていた
若い頃の父だった

僕の名前は祖父がつけてくれた
父はぼくの出産に立ち会わなかった
そういう時代ではなかった
自分の子どもだけではなく
孫たちの名前をつけるのも
祖父の仕事だった

祖父が他界してからは
それは父の仕事になった
僕のいとこの名前やその子の名前を
十数人つけた
もしかしたら父は
僕の名前もつけたかったのかもしれない

やがて父は誰の名前もつけなくなった
もうそういう時代ではないし
何より
自分の名前や
身の周りにいる人の名前だけで
精一杯なのだ
  
 
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2010/08/03 (Tue)
 
 
いつの頃からか口の中に
ハリセンボンが住み着いている
怒らせると針が口中に刺さって痛い
ちょっとした振動にも反応するし
取り出そうとして手を突っ込んでも
針が引っかかって取り出せない
食べ物も食べられない
話したいことも話したくないことも
話せなくなった
だからこうして今
あなたに伝言を書いています
ただ海水を飲んだ時だけ
ハリセンボンはおとなしくしていてくれる
僕はつまさきからゆっくりと
海になっていく
もし全身が本当の海になったら
どうかその時はあなたの故郷の
あの美しい海の一部にしてください
  
  
 
2010/08/02 (Mon)
 
 
街を歩いていると
工事現場で父が働いているのを見つけた
道具のようなものを使って
ものを壊したり、穴を掘ったりしていた
父は大きな会社の重役をしているはずで
今朝もビシッと高級スーツを着こなし出勤して行った
僕は見てはいけないものを見てしまった気がして
知らない振りをしてそのまま通り過ぎようとしたけれど
逆に父に見つかり声をかけられた
たとえ重役とはいえ現場に熟知していなければいけないのだ
そう言うと作業着を脱ぎ
ビシッと高級スーツを着こなし
どこからかやってきた運転手付きの黒いリムジンに乗って
どこかに行ってしまった
一方、僕はといえばその後
猛暑日のアスファルトの上を約三キロ近く歩き
金魚の餌を買いに行った
帰りは帰りで段差につまづき転んで
膝を擦り剥いたのだった
  
 
2010/08/01 (Sun)


昼間はゆらゆらと
国道の標本で遊んだ
すぐ側で乾いたアイロン台が
牛のように転がっていた
人の形をしたプラスチック製のものを
道路に並べて行く
ここには車が来ないので
安心していくつも並べた
点滅する信号はもはや
燃え尽きた身体の
ひとつの部位になってしまった
うまく笑えなくても心配はいらない
毎日とは
優しさとの戦いと
優しさに似たものとの妥協
その限りない連続なのだから
夕方になると
ユスリカの群れをかき分けて
ソフトボール部のキャプテンが
許しに来てくれた
なるべく言葉を選んで
丁寧にお侘びとお礼をした
ソフトボールなんて
したこともないのに
 
2010/07/31 (Sat)
  
 
雨上がりの遊覧船の匂い
が敷き詰められた
ポリエステル、もっと
素材でありたい
ドラッグストアに住み着く
鱗しかない魚が
ヒレを探しているけれど
風邪薬の扉が開かないので
胃薬にまみれて泣いている
いつ死んでも構わない、
なんて
死んだことのない生物の台詞だ
深夜、ひとりで産卵していると
もしかしたら自分は
モヤシではないかという気がしてきて
冷蔵庫を確かめてしまう
  
 
2010/07/30 (Fri)
 
 
毛が生えている家が格安で売り出されていたので
後先考えず不動産屋と契約してしまった
見た目は洋風でモダンな感じで毛が生えているのに
中に入ると障子や襖や梁の木目など和のテイストが
ちょっとしたアクセントになっていて毛が生えている
キッチンは使い勝手の良い広さで収納場所も多く毛が生えている
収納棚を開けてみると毛が生えている
家相に関しては敷地の形状の関係でトイレの位置に問題はあるものの
それを除けばほぼ完璧で毛が生えている
そのトイレといえば毛が生えてはいるものの
ウォシュレトはオプションなのが残念で毛が生えている
お風呂は浴槽にも毛が生えていて
足がきちんと伸ばせるのが何より嬉しくて毛が生えている
フローリングや天井は基本的に無垢の杉や檜で毛が生えている
二階の6畳の部屋からの景色は特に抜群で窓には毛が生えているけれど
開けると山々の緑が美しく気持ちの良い風が入って毛が生えている
この家に合う家具を探しに明日は家具屋に行こうと思い毛が生えている
リビングにはやはり毛が生えているソファーが似合うなあ
と夢は広がり足元を見ると毛が生えている
庭にはびっしりと毛が生えていて
雑草を抜く手間が省けて楽で良いけれど
夏は特に毛が伸びるのが早いから脱毛だけはしてくださいね、
と最後に不動産屋は言った
 
 
2010/07/29 (Thu)
 
 
もうすっかり真夏だというのに
町内を一匹の羊が歩いていた
川を探しているようだった

取り壊しが決まって無人となった団地が
フェンスと草むらの中に
数棟納まっている
淋しい幼少期を過ごした人も
何人か住んでいたのだと思う

頭の上に広がっている場所が
空だと知ってしまったときから
僕は少しずつどこかが
減り続けている
やがてすべてがなくなる
そしてそれは例外などではない

一階のベランダに
パラボラアンテナが置き去りにされている
羊が欲しそうな顔をして見ていたので
持ち帰っても誰も怒らないよ
と言うと、嬉しそうに
敷地に入れる場所を探しに
角を曲がった
  
 
2010/07/28 (Wed)
 
 
土曜日はいつも
草のことを考える
誰もいないのに
ハサミで紙を切ってしまう
 
 
+
 
 
青空を両手ですくう
指の間からさささらと零れ落ちる
さっきから公民館の前で
人が笑ったまま動かない
 
 
+
 
 
むかし友だちに教わった手話を
いくつか練習してみる
砂漠のただ中に置かれた
椅子にひとり座って


+


空から拾ってきた月で
父が一輪車を作ってくれた
どっちが長生きできるか競争しよう
二人ともこれが夢だと知っているのに
 
 
+
 
 
ピアノが海に沈んでいく
洗濯機がなくした部品を探している
「明日」という言葉が持つ嘘に
気づかない振りをしながら
  
  
 
2010/07/27 (Tue)
 
 
豆腐がテーブルの下に入ったまま
出てこようとしない
いくら呼んでも
何の反応もしないでじっとしている
仕方なく椅子をどけて
自分がテーブルの下に入る
特に豆腐に恨みがあるわけでもないが
冷奴にして食べる
しんみりとした夜
自分も豆腐もこんな暗闇の中から
生まれてきたのかもしれない
そう思うと懐かしく感じられて
いつもよりたくさん膝を抱える
  
 
2010/07/26 (Mon)
 
 
手の知らない言葉を
書き続けていく
手のすることはすべて
わたしを助けるのに
わたしのすることのすべてが
手を助けるわけではない
途中、水が足りなくなって
手を洗いに行く
排水溝に落ちたまま
帰ってこれなくなった叔母が
いつものように文句を言う
いつか菓子折りなどを持って
謝りに行かなければ行けない
と思っているけれど
何がふさわしいか悩んでいるうちに
数年が経ち
みな、年を取った
消しゴムの行商人の軽トラックが
音楽を鳴らしてやってくる
今年もすっかりと夏だ
呼び止めて消しゴムを買う
二個で百五十円
毎年来る人とは違う感じの人が降りてくる
いろいろと事情があったのだろう
世間話をしているうちに
昔からの知り合いのような気がしてくる
それでは、と立ち去ろうとすると
おまけにひとつつけてくれた
手がわたしのために受け取る
  
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *