プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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ぼくのタクシーが壊れてしまった
だからもう、ぼくはタクシーに乗れない
朝食の後、歯を磨いていると
血のような味がして
吐き出すとやはり血だったので
歯槽膿漏か何かかと思い
壊れたタクシーは埋めることにした
タクシー一台分の穴を掘るのは
さすがに大変だったけれど
途中から兄が手伝ってくれたので
だいぶ楽になった
ぼくに兄がいる、という話は
むかし両親から聞いたことがあった
こうして本当に兄が現れると
それはあまり特別なことではなかった
何度か休憩し
お腹が空いた時は蕎麦屋などにも行った
穴を掘り終え、土をかけていった
こういうときは惜別の言葉をかけるものだ、と
兄が言うので
車検証に書かれていた文言を朗読した
最後に行灯だけが地面から出て
まるでお墓のようになった
とても可愛そうなことのような感じがして
相談した結果やはりすべて埋めることにした
せっかく兄弟そろったのだから
何か二人でできる遊びをしよう、と兄が言い
ぼくらは二人でできる遊びを探し
深夜になるまでずっと遊び続けた
テレビをつけるとちょうど
その日の放送が終わるところだった
今日の朝はほんの少し世界が優しくなっているでしょう
最後にアナウンサーが告げた
日々あふれる優しさにはうんざりしているけれど
それでも世界は
優しい方が良い気がした
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ぼくの中を犬が泳ぐ
きれいな犬かきのフォームで
どこかにある向こう岸を目指して
一方ぼくはといえば
水の中どころか
空気の中でもうまく泳げない
手足を無駄にばたばたさせて
滅茶苦茶に息つぎを繰り返すばかりだ
そもそもぼくは
向こう岸なんか目指してないのかもしれない
ぼくもぼくの中でなら
もっとうまく泳げるだろうか
けれど入口が見つからないし
入口を作るにしても
材質を何にして良いのかもわからない


卵に言葉を教えた
教えた言葉を
卵はすべて覚えたけれど
口がなかったので
話をすることはなかった
雲が形を変えながら
夏の空に消えていく
わたしが生まれてから
何度も見たその光景を
卵はざらざらとした
白い殻の表面で
ただ眺めている


門のところにクラゲが大量に発生していた
透き通ってきれいな形をしているのに
触手に毒のある種類なので
外に出ることもできない
裏門から出ようとしても
この家には裏門がないし
裏門は要りません、と大工さんに言ったのは
確かにわたしだった
道を歩いている人に助けを求めようと
窓越しに手を振ってみる
皆、水槽を泳ぐ魚を見るような目つきをして
通り過ぎて行ってしまう
自分もあんな風に魚を見ていたのかもしれない
そう思うと恥ずかしい気がして
試しに鏡を覗いてみるけれど
目をつむったわたしの姿しか映らない


朝、食卓の上に
動物園があった
雨が降っていた
動物たちは雨に濡れて
毛が硬そうに固まっていた
わたしは雨に濡れないように傘を差し
立ったままトーストを食べた
動物たちはわたしに無関心か
そうでなければ
無関心のように見えた
知り合いに電話をすると
向こうも雨が降っていたみたいで
用件を済ませるのに
思ったより時間がかかった
その分、たくさんの
言葉が必要だった


鉄棒のように目を覚まし
自分の肌と同系色のものを食べ
いつの間にか飛行機に乗らなければいけない
ということに気づき
慌てて二階にしかない部屋で
知っている限りの身支度をし
途中、道で転んだことが淋しくて
池のように泣き
原っぱに伸びる滑走路の脇で
名刺だけの人から代金と引き換えに
硬めのチケットを受け取り
飛行機が到着するまでの数十分の間
昔みたいに深呼吸をたくさんするのだ
と言って譲らなかった


先生はもう液状になって
黒板の海を
白墨で汚している
本当は海の生き物たちが
みんな住んでいたはずなのに
僕の皮膚には朝から
いろいろなものが刺さって
痛くはないけど
特に抜けない
真下にある給食室から
オルガンを煮詰めて
ジャムを作っている匂いがする
今日はすべてが終わったら
水の買える列車に乗って
水を買いに行こうと思う


世界の果てに
ベッドがひとつ
ぽつんとある
父が横になっている
わがままばかり言って困る、と
母から連絡を受けた僕が
その隣に立って
父を怒鳴りつけている
親に向かってその口のきき方は何だ
父は僕を殴ろうとする
けれど拳を握ることはできないし
たとえ握ることができたとしても
それが届くことは無い
ということを知りながら
父も僕もお互いを怒鳴り続けている
やがて疲れてしまったのか
父は冷静さを取り戻し
明日も仕事があるから帰りなさい
と穏やかな口調で言う
深夜二時、世界の果てが
いつもの静けさを取り戻す
明日も仕事があるから
僕には言い訳がある
でも父と母には
言い訳が無い


買ってきた水槽を膝に抱えて
ひとり部屋に座っている
金魚を入れたかったのに
家のどこを探しても
見つからない
代わりに大切なものを入れようとするけれど
透きとおって中身が見えてしまうし
大切ではないものを入れるには
水槽はあまりに狭すぎる
途方にくれて
会いたい人の名前をひとつずつ
口にしてみる
今となっては実際にいた人たちなのかも
よくわからない
近所のバス停にバスがとまり
動物園からの帰り道のようにはしゃぐ
子どもの笑い声が聞こえてくる
本当に動物園に行って来たのかもしれない


僕は缶詰を開けようとする
その様子を見て
来賓席で来賓の人が笑っている
僕は懸命に開けようとする
来賓の人が
中身が空であることを知っているかのように
さらに大きな声で笑うので
ますます缶詰を開けなければ、
という気持ちになる
大安吉日の晴天
行事には最適なお日和である
僕はありったけの力を込める
中身が空であることを
知っているかのように