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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2010/04/11 (Sun)
 
 
カニの甲羅に
雪が降り積もる

ブランコは揺れる
誰かの言葉の
力を借りて

食べ飽きてしまったね
紙の形は

自分の目を覗き込むと
動いている人の
背中が見える

今日はいったい何に
謝ることができただろう
  
 
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2010/04/04 (Sun)
 
 
ぬめぬめとした悲しみが
晴れた空から降っている
ものとものとが擦れ合う音や
ぶつかり合う音が記号のように
いたる所にありふれている
スクランブル交差点を渡る人々は
無秩序な足取りなのに
真ん中に置かれた金魚鉢の水を
誰もこぼさない
ふと二枚貝が落ちている
かつては海があったのかもしれない
白蟻に食い荒らされた高層ビルが
静かに崩落している
生乾きの犬が
生乾きの臭いをさせて
ガード下を歩く
よく見ると
時々走っている
  
 
2010/04/03 (Sat)
 
 
今日はワカサギが良く売れる
いつもは店の奥まったところに並べているだけなのに
学生も社会人風の人もノートや鉛筆には目もくれない
いっしょに良い匂いのする消しゴムや
綺麗な色の蛍光ペンなどを薦めても
ワカサギしか買って行かない
おかげで完売したけれど
来る人、来る人、みなワカサギのことを聞き
残念そうに帰っていく
どうにかしよう、と試しに床に丸い穴をあけてみる
水面が現れる
釣り糸を垂らすと次々にワカサギが釣れる
せっかくなので、ワカサギ入荷しました
と看板を掲げて店頭に並べる
誰もワカサギに興味を示すことなく
店の前を通り過ぎる
それどころか
目が死んでいる、とか
生臭い、とか
文句ばかり言われる
結局すべて売れ残り
閉店後、揚げ物にして食べる
どれもこれもとても美味しいけれど
壊れた文具のなつかしい味だけがする
  
 
2010/04/02 (Fri)
 
 
線路を描く
薄暗がりの方から
ほのかな明かりを灯して
路面電車がやってくる
駅を描く
路面電車が停まる
後扉から乗る
チラシの安売りの服を着た女の人が
前扉から降りて行く
食べた覚えの無いコンビーフの臭いが
車中に漂っている
古い感じのシートに座り窓を振り返る
指紋と手垢がピタピタとしたガラスに
自分の顔がぼんやりうつる
あの中にも視床下部やゴルジ体などがあるのに
そんなことを意識しなくても呼吸できるので
毎日とても助かっている
もう一度降りて駅に終点、と書き足す
路面電車の灯火が消える
あたりが夜の暗さを取り戻す
明日からの長雨ですべて消えてしまうけれど
すべてを覆うように
最後にパラソルを描く
  
 
2010/03/29 (Mon)
 
 
鳥かごの中で
小さなキリンを飼ってる
餌は野菜だけでよいので世話が楽だし
時々きれいな声で鳴いたりもする

夕焼けを見るのが好きで
晴れた日の夕方は
日が沈むまでずっと西の空を見ている
雨や曇の日はすっかり元気をなくしてしまうので
ぼくは夕焼けの絵を描く
上手く描けたときは元気になるし
上手く描けなかったときは
元気が出るまで描きなおす

淋しいのが嫌いで
長く留守にするときは
貝殻やビー玉を入れておいて出掛けると
嬉しそうにして
ほんの少し元気でいてくれる

キリンがいま何歳で
寿命がどれくらいなのかわからないけれど
ぼくが先に死んでしまえば
淋しいキリンも死んでしまうだろう
キリンが先に死んでも
淋しいぼくがいつ死ぬかなんて
わからないのに
  
 
2010/03/22 (Mon)
 
 
学習机の上で勉強されているのは
パラジクロロベンゼン

パラジはパラダイス
クロロは苦労人
ベンゼンはベンゼン大使
みな、一様に春を待ってる

勉強しているのは
ナオミキャ・ンベル

ナオミキャは浪岡修平
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である

浪岡修平は「防虫剤を囲む会」の会長
もちろんナオミキャは浪岡修平だが二人に面識はない
ンベルはどとのつまり
月に一度の会合が奇しくも本日開催される
第一高等学校の校舎が見える公民館集会場
八畳敷きの部屋
定刻通りに会合は始まる
事務局長の田中が簡単に挨拶をし
会の設置規則第四条第一項に基づき会長である浪岡修平が
座長として議事の進行を執り行う旨を宣言する
ちなみに田中は事務局長を名乗っているが
その他に事務局員はいない模様

この会においてパラジはパラダイスではなく
クロロは苦労人ではなく
ベンゼンはベンゼン大使ではない、それはあくまでも
ナオミキャ・ンベルの学習机の上のみのことである
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である

浪岡修平はこの公民館のある町会長にも就任している
地元のちょっとした名士であり
優れた人格の持ち主であり
肩が小さい
若い頃に肺を患い生死の境をさまようが
奇跡的に助かる
以来、痰の絡む咳をよくするようになる
さて、という浪岡修平の一言で議事が始まる
出席者は会長及び事務局長を含め七人
ナオミキャ・ンベルは学習机で一人
流れるように議事は進行する
畳の上に座る七人の真ん中には防虫剤がひとつ
会が始まってから五分遅れて会員の中村が到着する
それから数分後、定期券を忘れたと言って
中村は再び離席し公民館を出て行く

ナオミキャ・ンベルが窓を開ける
風の匂いを嗅ぐとやはり間違いなく
明日からきっちりと春である
近所の犬が吠える
何にでも吠える犬である
定期券を取りに走る中村の姿が見えるが
ナオミキャ・ンベルにはそれが誰であるか知る由もない
学習机の上では
パラジとクロロとベンゼンが
一様に春を待って
春の話をしたがっている

集会場では浪岡修平の流れるような進行で議事も終盤である
次回の会合の日にちの取り決めを行い
結局間に合わなかった中村には
後日事務局長の田中が連絡することとなる
次回の主な議題は予算と決算です
田中が確認をする
もうそろそろ春ですかね、と浪岡修平が呟くと
会員が一様に頷く
ンベルはとどのつまり
明日からきっちりと春である

中村が転ぶ
上着のポケットの中で防虫剤の割れる音がする
それでも立ち上がり
会に間に合うことを信じて走り続ける
 
 
  
 
2010/03/19 (Fri)
 
 
軟らかな自転車に乗って階段を下りる
ハンドルが人の手みたいに生温かく汗ばんでいる
階段の下には民家と民家に挟まるような形で
小さくて細い劇場がある
切符売場で数枚の硬貨を出すと係の女性が
異物を排出するような仕種でチケットを差し出す
その手からチクロ飴の匂いが微かにする
中に入ると海亀が産卵をしていて人が集まっている
産むそばから、精がつくから、などと言って
粘液にまみれた卵を持っていってしまう
空いている席を探すけれど
どこの席もたんぱく質の固まりのようなものが
あったり、いたりして身動きもできない
開演のブザーが鳴り緞帳が上がると
向こう側に観客席が現れる
隅っこの席に自分の家族が数名座りこちらを見ている
スポットライトの熱さの中で
覚えたはずの無い台詞を
必死になって思い出そうとする
 
 
2010/03/17 (Wed)
 
 
夕方の公園で男が一人
ブランコをこいでいる
くたびれた感じのスーツを着て
サラリーマンのようにも見えるけれど
首から上に頭は無い
代わりに
水の入った水槽が乗っかっている

水槽の中には小さな魚が一匹いて
銀色の横腹を見せながら泳いでいる
溢れそうになりながらも
水槽から水をこぼすことなく
男はブランコをこぐ
こんな時間にスーツ姿の男が、とは
おそらく何か訳有りなのだろう

やがて男はブランコを止めて
公園を立ち去る
降りる時にこぼれた一滴の雫が涙に見えたのは
僕のつまらない感傷かもしれない

男の後を着いて行くと
魚が一匹では淋しい、とか
そろそろ餌の時間だ、とか思い始め
落ち着かない気持ちになる
アスファルトに伸びる男の影を見て
それが僕自身の姿だと気づくのに
さして時間もかからなかった
  
 
2010/03/11 (Thu)
 
 
つぶやく、と、言葉が
僕をポケットにする
だから何でも入るし
ピアノだって上手に弾ける
ピアノを弾くと父はだんだん丸くなり
丸くなった背中を母が高く馬跳びする
着地したところはすぐ近くに小さな漁港があって
漁船が湾内にいくつか浮かんでいる
父が、やわらかいお刺身を食べたい、と言うので
漁師さんに死んだ魚をわけてもらう
魚だって丸ごと入る
立派なポケットになった、と
二人ともほめてくれる
気がつけば僕の年は
とっくに両親に追いついてしまった
運河沿いを並んで歩く
昔と同じ距離感で
夫婦には夫婦の
親子には親子の距離で歩く
明日は何をしようか
明日が来るのがあたりまえのように話していると
やがて野原みたいなところではぐれてしまう
迷子のアナウンスをしてくれる係の人を探して
足早に歩く、そして、つぶやく、と、
もうポケットではない僕が
だらしなく破れたポケットを引きずり
ただ足早に歩いている
 
 
2010/03/08 (Mon)
 
 
雨上がりの軒下で
兄はひとり
シュレッダーになった
わたしは窓を開けて
要らなくなったものを渡す
最新式なのだろう
やわらかな音と振動で
兄は細断していく

ダイレクトメールや領収書などの
紙類だけでなく
偏平足の人形
もういない人の衣服
文鳥の死骸も
上手に細断してくれる

悲しいことは今までもすべて
兄が請け負ってくれた
要らないものはあらかた終り
これからは必要なものや
大事にしていたものまでも
処分しなくてはいけない

まだ所々に兄の名残がある
せめてもの慰みに
わたしは虹の見える方角を教え
わたしの指をあげた
  
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *