プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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誰かのための
湿った窓がある
三本の線を反復できずに歩いて渡る
蟹たち
をわたしは避けて
自分の指の形がいつもより気になったので
どこかに忘れてきた雨傘の代わりに
古道具屋で小さな
置時計を買ったのだった
それからノートに
知っている親族の名前を
できる限り書き連ねていく
インクのないペンで
空白だけが増えていく
もしわたしがこのまま紙飛行機になっても
気づく人もいなくなってしまった
湿った窓を開ける
と、いつかきっと
誰かは閉めるのだろう
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白線の内側に下がってお待ちください。
白線は自分で引いてください。
内側と外側は自分で決めてください。
白線の外側を
一匹のシオカラトンボが横切っていく
軟らかくて
きっとあれには乗れない
早く帰りたい
どこにいてもそんなことばかり思う
そういえば
どうしてシオカラトンボというのか
考えたこともなかった


雨が花の形を整えていく
わたしたちは共通の言葉で話し
共通の言葉で
触れるべき場所に触れる
民家の前にぽつりと置かれたバス停で
傘を差してバスを待つあの二人は
親と子なのだろうか
あんな時もあったね、と
わたしたちは共通の言葉で笑い
あんな時もあったね、と
わたしたちは抜け殻になる


光は屈折し
やがてその先端は
壁の末期へと続いていく
何かあってはいけないので
あなたは洗面所で
数を数えている
川幅の狭い橋を渡ってきた、と
わたしは告げ
手を握り
ほんの少し
あなたのために生きた


砂でできた掌が
記憶の水に
崩れていく
そしてそれを受け止めようとする別の
掌がある
赤茶けた鉄路は
臨海の工業地帯へと続き
大きくカーブする
その付近で
群生する草の穂先がそろって頭を垂れ
夏へと向かう風に揺れている
今日一日わたしは
何も見ようとしなかったのだ
聞こうとしなかったのだ
触ることさえしなかったのだ


あなたに似た人と
あなたの名前に似た名前の人が
あなたに関連のないことを
頁の片隅で語り続けている
数日間降雨の無い乾ききった道を
一台の軽トラックが
砂埃をまきあげて走る
そしてまた頁は捲られ
あなたは今日も不在である


近所のフランス人が遊びに来て
ニンジンを食べて行った
日本のニンジンはとても美味しい、と
たいそう喜んで
お礼にエッフェル塔の置物をくれた
大きさからしてどう見ても
偽物のエッフェル塔だった
お土産にニンジンを数本持たせると
じゃあこれも、と
凱旋門の置物もくれた
やはりどう見ても
偽物の凱旋門だった


ワイシャツにアイロンをかけているうちに
見知らぬところまで来てしまった
さっきまでいっしょにいた妻や娘の姿も見えない
どこか淋しい感じのするグラウンドで
赤勝て
白勝て
子どもたちが玉入れを競い合ってる
その真ん中で一人
アイロンをかけ続けている
容赦なく紅白のお手玉が頭や腕にあたる
アイロンをかければかけるほど
ワイシャツは皺だらけになっていく
それでもせっかくかけたのだから、と
皺くちゃになったシャツを
ハンガーにひっかけて吊るしていく
いくらかけてもワイシャツは
山のように積まれ一向に減らない
日が暮れる
沖の方に漁火が見える
もう既に膝のあたりまで海に浸かっている
すっかりくたびれて
このままどこまで行くというのだろう
もしかしたら一生このまま
同じ作業を続けなければならないのではないか
と不安にはなるけれど
自分の一生が明日も続いている、ということには
何の疑念も抱くことなく
時々アイロンの温度を確かめたりする


ページをめくる
本の中にたくさんの
文字が落ちている
こんなにたくさんの文字を
いったいどこの海から拾ってきたのだろう
時刻表を見ると
海行きの最終列車はもう三分ほど前に
近くの駅を発車してしまった
明日も人に会う用事があって
おそらく他のところには行けない
その人と海の話をしたことはないけれど
姿を見つければ
お互い会釈などすると思う


虫かごと網を持って
虫をとりに行った
どんなに網を振り回しても
虫以外の生物や
生物ではないものしかとれなかった
とったものは逃がしたり
あったところに置いたりした
元の姿に戻らないものもあった
そのようにして一日一日が過ぎ
季節が過ぎていく
虫がとれたら
見せたい人がいた
でもそれはとても遠い昔の
記憶のような気もする