プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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カウンター


バスに乗る
名前だけが剥がれていく
何かの間違い、というより
むしろ略式でも正しいことであるかのように
良かった、わたしたちは
バスに乗られることがなくて
席に座り
バスの一番柔らかいところを
かじるわたしたちは
軽くなった分、どこか許された気がするけれど
内緒の話をしている時みたいに
口に広がる幸せは
いつも恥ずかしい
窓を開ける
景色だけがあり
他には何もないことを
ひきつづき景色と呼んだ
毎朝生まれ変わり
それでもわずか百数十センチの背の高さから
地面に落ちることを恐れなければならない
良かった、わたしたちは
窓に開けられることがなくて
それからともすると
降車ボタンは赤く光り
わたしたちを降りていく人が
少しずついるのだった
名前だけが剥がれていく
何かの間違い、というより
むしろ略式でも正しいことであるかのように
良かった、わたしたちは
バスに乗られることがなくて
席に座り
バスの一番柔らかいところを
かじるわたしたちは
軽くなった分、どこか許された気がするけれど
内緒の話をしている時みたいに
口に広がる幸せは
いつも恥ずかしい
窓を開ける
景色だけがあり
他には何もないことを
ひきつづき景色と呼んだ
毎朝生まれ変わり
それでもわずか百数十センチの背の高さから
地面に落ちることを恐れなければならない
良かった、わたしたちは
窓に開けられることがなくて
それからともすると
降車ボタンは赤く光り
わたしたちを降りていく人が
少しずついるのだった
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玄関に傘が一本
ギロチンのように
あった
昔こんなもので
人が酷い目にあったのだ
と信じられないくらいに
静かな朝だった
やがて傘は
扉を開けると
仕事机のような格好になり
走って行ってしまった
そのことをいくら説明しても
わたしの言っていることが
言葉であると
誰も信じてなどは
くれてなかった
ギロチンのように
あった
昔こんなもので
人が酷い目にあったのだ
と信じられないくらいに
静かな朝だった
やがて傘は
扉を開けると
仕事机のような格好になり
走って行ってしまった
そのことをいくら説明しても
わたしの言っていることが
言葉であると
誰も信じてなどは
くれてなかった


水底に
動物園はあった
かつての
檻や
岩山を
そのままにして
いくつかの動物の名は
まだ読めたけれど
散り散りの記憶のように
意味を残してなかった
あなたは月に一度の
刊行物を待つ
かのように
郵便受けの方を
眺めている
穏やかな日和
園内を見て歩く
二人の手は
同じくらいの体温で
繋がっていた
動物園を沈めたのは
ぼくだ
動物園はあった
かつての
檻や
岩山を
そのままにして
いくつかの動物の名は
まだ読めたけれど
散り散りの記憶のように
意味を残してなかった
あなたは月に一度の
刊行物を待つ
かのように
郵便受けの方を
眺めている
穏やかな日和
園内を見て歩く
二人の手は
同じくらいの体温で
繋がっていた
動物園を沈めたのは
ぼくだ


キリンは新婚カップルの取材を担当した
ツルとカメは生き証人として
動物園の歴史を書いた
シロクマは環境問題に
ゾウは動物虐待の実態に
鋭い論調でメスを入れた
羊たちは眠れない子供のために
ただひたすら自分たちのイラストを描いた
月刊「動物園」は
一年と数ヶ月で廃刊となった
編集長のゴリラの投げた灰皿がライオンに当たり
怒ったライオンが隣にいたインパラを
食べてしまったからだった
インパラは朝から喉が痛いと言っていた
ライオンは歯磨きの時に
目を瞑る癖があった
母親に逸れて久しかった
ツルとカメは生き証人として
動物園の歴史を書いた
シロクマは環境問題に
ゾウは動物虐待の実態に
鋭い論調でメスを入れた
羊たちは眠れない子供のために
ただひたすら自分たちのイラストを描いた
月刊「動物園」は
一年と数ヶ月で廃刊となった
編集長のゴリラの投げた灰皿がライオンに当たり
怒ったライオンが隣にいたインパラを
食べてしまったからだった
インパラは朝から喉が痛いと言っていた
ライオンは歯磨きの時に
目を瞑る癖があった
母親に逸れて久しかった


静かな言葉に騙されて
武器を売り続けた
いくつもの春を泳ぎ
疲れれば
もの言わぬ記号に似ていた
河口に人の死体が流れてくる
知らない人ばかりだった
知っていたとしても
損傷が激しくてよくわからなかった
武器は尖ったところなど
ひとつもないのに
簡単に人を傷つけるのだった
武器を売り続けた
いくつもの春を泳ぎ
疲れれば
もの言わぬ記号に似ていた
河口に人の死体が流れてくる
知らない人ばかりだった
知っていたとしても
損傷が激しくてよくわからなかった
武器は尖ったところなど
ひとつもないのに
簡単に人を傷つけるのだった


一年ぶりにルゾンに行った
エリーはまだいた
胸元の開いた黒いドレス
すっきりと鎖骨があった
その間からはるか遠く
エッフェル塔が見えた
エリーは携帯で撮った
子供の写真を見せてくれた
子の父である日本人は認知したが
養育費は払ってくれてなかった
家庭があった
エリーにも子供と二人きりの家庭があった
他に何もいらないのにね
エリーは言った
他に何もいらないのにね
マニラにエッフェル塔はなかった
この国にもあるはずなかった
エリーはまだいた
胸元の開いた黒いドレス
すっきりと鎖骨があった
その間からはるか遠く
エッフェル塔が見えた
エリーは携帯で撮った
子供の写真を見せてくれた
子の父である日本人は認知したが
養育費は払ってくれてなかった
家庭があった
エリーにも子供と二人きりの家庭があった
他に何もいらないのにね
エリーは言った
他に何もいらないのにね
マニラにエッフェル塔はなかった
この国にもあるはずなかった


デパートに難破船が漂着する
甲板をいじくり
あなたは指の先を切った
立体駐車場から汗など
生活、の匂いがする
立体であることはいつも淋しい
家具売り場でかくれんぼをしている間に
誰にも見つかることなく
僕らは大人になった
屋上から見おろすと
高さと命の境目は曖昧に続き
人は空を飛んではならなかった
気がつけばエレベーターしかないデパートで
夏が未完のまま終わっている
甲板をいじくり
あなたは指の先を切った
立体駐車場から汗など
生活、の匂いがする
立体であることはいつも淋しい
家具売り場でかくれんぼをしている間に
誰にも見つかることなく
僕らは大人になった
屋上から見おろすと
高さと命の境目は曖昧に続き
人は空を飛んではならなかった
気がつけばエレベーターしかないデパートで
夏が未完のまま終わっている


列車の出入り口近く
一番混みあうところ
何かの手違いか
小さな花が咲いてる
どんなに混んでも
人は花を踏まないようにしている
もしこれが花ではなく
うんこだったとしても
誰も踏まなかっただろう
ゆっくりと死んでいくように
毎日を生きている、その
表層の薄い膜のようなところに
花もうんこもある
何かの手違いで
踏みつけられてしまうまで
一番混みあうところ
何かの手違いか
小さな花が咲いてる
どんなに混んでも
人は花を踏まないようにしている
もしこれが花ではなく
うんこだったとしても
誰も踏まなかっただろう
ゆっくりと死んでいくように
毎日を生きている、その
表層の薄い膜のようなところに
花もうんこもある
何かの手違いで
踏みつけられてしまうまで


ある日ふとあなたは
わたしの優しい母となり
慣れないヒールの高い靴を履いたまま
図書館のカウンターのはるか内側
シチューを煮込んでいる
戸外、三角ポールの静かな
駐車禁止区域に来館者は
車を次々と止め
それでもあなたは笑い
笑い返し
順番にシチューを振る舞い
わたしは背表紙の古い小説の本と
海と間違えて
海洋生物の生態について、を
借りたのだった
本当はわたしがあなたを
産んであげたかった
と、いつまでも言いそびれている
いつかやがて夜になり
瞼と嘘の区別がつかなくなっても
あなたが夢の中で死なないように
見ていると思う
わたしの優しい母となり
慣れないヒールの高い靴を履いたまま
図書館のカウンターのはるか内側
シチューを煮込んでいる
戸外、三角ポールの静かな
駐車禁止区域に来館者は
車を次々と止め
それでもあなたは笑い
笑い返し
順番にシチューを振る舞い
わたしは背表紙の古い小説の本と
海と間違えて
海洋生物の生態について、を
借りたのだった
本当はわたしがあなたを
産んであげたかった
と、いつまでも言いそびれている
いつかやがて夜になり
瞼と嘘の区別がつかなくなっても
あなたが夢の中で死なないように
見ていると思う


つぶれたステーキハウスの駐車場に
制服を着た男の子と母親らしき人が立っていた
二人でじゃんけん遊びをしていた
昨日も同じところにいるのをバスから見た
違う遊びを楽しそうにしていた
毎日あのように園の送迎を待っているのだった
一昨日は見なかった
同じ時間に同じ場所にいたのかもしれないが
それを見ている自分がいなかった
喪服を着て違う方面へと向かうバスに乗っていた
その夜は妻に葬儀の話を少しした
特に知っている人でもなかったので
妻は、お疲れさま、とだけ言った
もうその話をすることもないだろう
もししたとしても
平等にやってくる死と同列に並べられ
もはや誰の葬儀かもわからなくなっているのだ
制服を着た男の子と母親らしき人が立っていた
二人でじゃんけん遊びをしていた
昨日も同じところにいるのをバスから見た
違う遊びを楽しそうにしていた
毎日あのように園の送迎を待っているのだった
一昨日は見なかった
同じ時間に同じ場所にいたのかもしれないが
それを見ている自分がいなかった
喪服を着て違う方面へと向かうバスに乗っていた
その夜は妻に葬儀の話を少しした
特に知っている人でもなかったので
妻は、お疲れさま、とだけ言った
もうその話をすることもないだろう
もししたとしても
平等にやってくる死と同列に並べられ
もはや誰の葬儀かもわからなくなっているのだ