忍者ブログ
こっそりと詩を書く男の人
  プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
  ブログ内検索
  月間アーカイブ

  最新記事
(04/10)
(03/29)
(03/27)
(03/22)
(03/20)
  最新コメント
[09/10 GOKU]
[11/09 つねさん]
[09/20 sechanco]
[06/07 たもつ]
[06/07 宮尾節子]
  最新トラックバック
  投票所
     
クリックで投票
 ↓ ↓ ↓
人気blogランキング
    
  バーコード
  カウンター
[51] [52] [53] [54] [55] [56] [57] [58] [59] [60] [61]
2025/04/23 (Wed)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2007/11/15 (Thu)
二人で大好きな
カニの話をした
 
その人はカニを食べるのが好きで
ぼくは見るのが好きだった
 
その間
大切なものに形はない
なんて嘘をつく必要はなかった
 
明日お嫁に行く
とその人は言った
明日はどこにも行かない
ぼくは言った
PR
2007/11/08 (Thu)
てのひらが
形を覚えている
包み込むと
うまくおさまらないので
足りないのだと気づく

これで消しゴムを買いなさい
少年は言いつけどおり
薄暗い文具屋で
できるだけ沢山の
消しゴムを買った
余ったお金では
期待したものは何も買えなかった

いくつかの消しゴムは
使いかけのままなくし
いくつかの消しゴムは
他にあげるものがない時に
人にあげた
てのひらによく汗をかいて
笑っていても
ズボンで拭いた

2007/11/05 (Mon)
部長室にはいつも
風が吹いてる
日あたりのよいところで
書類の端がめくれている
窓を開けているのは
たぶん部長さんだと思う

机の上で
ピストルが少し色あせてる
微笑みながら毎日
部長さんが弾をこめてる
銃把のシールに書かれているのは
たぶん部長さんの名前だと思う

エノコログサなどの雑草がはえた
裏の空地には
夏の初めから
子供用の靴が一足忘れ置かれてる
靴の持ち主が今はもう
裸足でなければいいのに
部長さんとの相談は
大抵そのように始まり
いつ終わるともしれないから
途中には銃声が時々聞こえる

地面のゴムの部分を踏んで
古くて優しい人の
形のようなものが風に吹かれてる
たぶんあれが
部長さんだと思う
2007/10/27 (Sat)
ピッチャーの投げたボールが
輪郭を曖昧にして
雲の形になり

やがてひつじになって
待ち侘びていたバッターと
いっしょに頁から退場していく

指が擦り切れるまでめくり続け
一生分の幸せは
それだけでいい日があった

雨が降ると
わたしの家だ
2007/10/25 (Thu)
バス停の近くで生まれ
バスを見て育った
バスを見ていないときは
他のものを見て過ごした
見たいものも
見たくないものもあった
初めての乗り物もバスだった
お気に入りのポシェットを持って
日のあたる席の方に
母と座った
指で柔らかいところを押していた
行った先は恐らく親戚の家だった
母はおじさん、おばさんとだけ呼び
最後まで名前を呼ぶことはなかった
いくつかの嘘をついて
人の嘘をいくつか咎めた
愛という言葉が
本当にあると知った
その街にもバスは走っていた
生まれた街にあったものは
大抵あった
ないものは
他のもので足りた
 
2007/10/23 (Tue)

少し大きな動物が
足元に横たわってる
景色にあるどの線にも
斜めになって
昨日からの続きのように
滑らかな呼吸をしている
その鼻先から
しばらく行ったところを
とうがらし売りの少女が
乾季の土ぼこりの中
歩いていく
川の方では大規模な橋梁の工事が
すでに始まっていて
橋がかかれば
街が近くなる
病院が近くなる
そしていくつかの死は回避され
いくつかの死は
死としての意味しか持たなくなる
動物が欠伸をする
その姿は大切なものの名を
呼んでいるようにも見えたが
初めから大切なものに
名前などあるはずもない
 
2007/10/19 (Fri)
手作りケーキのお店で
あなたを愛した
愛したあなたは
ケーキを作った
作ったケーキは
おそらく誰のことも
愛することはなかった
その向こう
山と海とが
平行に交わっている
窓から
見えているかのように
教室、という言葉が
あなたには良く似合った
2007/10/18 (Thu)
まだ夜の明けないころ
街は少し壊れた
機械の匂いがする
昨夜からの断続的に降る雨が
いたるところ電柱にも
あたっている
いくつかの窓の中には
ささやかな抵抗と
使い古された言い訳があって
何も知らない象の親子が
道の横断歩道のないところを
かつて見た草原のある方に
ゆっくりと渡っている
あと数時間もすれば
街にひとつしかない駅から
朝一番の鈍行が発車する
いくつかの列車を乗り継ぎ
乗り継いでいるうちに
人はいつか死んでしまう
拝啓
覚えた言葉は
すべて捨ててしまって構わない
 
2007/10/11 (Thu)
魚が三人泳いでるよ
小川を覗き込みながら
子供は母親に言った
暑い夏の盛り
草の乾燥していく匂いもしていた
本当はもっと沢山の魚が群れて泳いでいたのだが
三人目を数えたところで
子供は視力を失ったのだった
それから後の話を
母親は子供にすることはなかった
そして子供は自分と母親が
何人目かを泳いでいると
気づくことはなかった
ただ水面から射し込む痛みのようなもので
胸びれの傷がその時についたものだと
知るばかりだった

2007/10/03 (Wed)
あまりに静かなので
どうしたものか
耳を澄ますと自分が
階段になっていることがわかる
踊り場には
温かい春の光が落ちて
多分そのあたりに
思い出はあるのかもしれない
遠くで誰かが
僕の名前を呼んでいる
まだ少し懐かしい気がする
階段とは違う
僕と同じ名前の人が
返事をする
忍者ブログ [PR]

* ILLUSTRATION BY nyao *