プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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今夜半過ぎ
関東から東海地方にかけて
優しいものが降り積もるでしょう
と、予報士は言った
翌朝
優しいものは降った様子だったけれど
予報どおりに積もってはいなかった
私たちはただ跡だけが残る坂道をくだり
お互いの一番優しいところに
触れることはなかった
関東から東海地方にかけて
優しいものが降り積もるでしょう
と、予報士は言った
翌朝
優しいものは降った様子だったけれど
予報どおりに積もってはいなかった
私たちはただ跡だけが残る坂道をくだり
お互いの一番優しいところに
触れることはなかった
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書庫の扉を開ける
水の中になってる
たぶん海なのだと思う
昨日まで資料や本の類だったものが
魚みたいに泳ぎ回っている
手を伸ばして一冊つかまえる
ページを開くようにお腹を指で裂くと
文字が気泡となって水面に昇っていく
公民館のプールで溺れた夏を思い出す
息が出来ないのは苦しいことだと知った
人前で溺れる振りが上手くなったのも
あの日からだった
水の中になってる
たぶん海なのだと思う
昨日まで資料や本の類だったものが
魚みたいに泳ぎ回っている
手を伸ばして一冊つかまえる
ページを開くようにお腹を指で裂くと
文字が気泡となって水面に昇っていく
公民館のプールで溺れた夏を思い出す
息が出来ないのは苦しいことだと知った
人前で溺れる振りが上手くなったのも
あの日からだった


買わなければいけないものがあるのに
あなたはまた、あなたに似たものを買ってしまう
部屋はあなたに似たもので満たされていく
あなたに似たもののほとんどはいらないものなので
あなたに似たものがなくなることはない
あなたに似ても似つかないものばかりがなくなっていく
あなたに似たもののなかには繁殖するものもあり
あなたはあなたに似たものを買い控えたとしても
あなたに似たものは自然に増えていく
あなたがあなたに似たものを見つめると
あなたに似たものはあなたによく似て視線を合わせない
そしてあなたはあなたに似たものの視線を感じる時があっても
目を合わせることをためらってしまう
他の人が思い出すのはあなたのことではなく
あなたに似たもののことではないか、そう思うと
あなたはあなたに似たものの中でふと溺れそうになる
けれどあなたが溺れているのはいつも
あなた自身の中なのだ
あなたはまた、あなたに似たものを買ってしまう
部屋はあなたに似たもので満たされていく
あなたに似たもののほとんどはいらないものなので
あなたに似たものがなくなることはない
あなたに似ても似つかないものばかりがなくなっていく
あなたに似たもののなかには繁殖するものもあり
あなたはあなたに似たものを買い控えたとしても
あなたに似たものは自然に増えていく
あなたがあなたに似たものを見つめると
あなたに似たものはあなたによく似て視線を合わせない
そしてあなたはあなたに似たものの視線を感じる時があっても
目を合わせることをためらってしまう
他の人が思い出すのはあなたのことではなく
あなたに似たもののことではないか、そう思うと
あなたはあなたに似たものの中でふと溺れそうになる
けれどあなたが溺れているのはいつも
あなた自身の中なのだ


弟はいつの間にか
僕の背を追い越していた
身長をたずねると
三メートル五十七センチ
と言って悲しそうにうつむく
明日になれば
弟は遠いところに連れて行かれる
多分頭のてっぺんも見えないくらい
遠いところ
脚立に乗って
しばらく頭を撫でた
僕の背を追い越していた
身長をたずねると
三メートル五十七センチ
と言って悲しそうにうつむく
明日になれば
弟は遠いところに連れて行かれる
多分頭のてっぺんも見えないくらい
遠いところ
脚立に乗って
しばらく頭を撫でた


一番線のホームを
羊の群れが通過していく
海の近くに
美味しい牧草地があるのだ
その後を
羊飼いの少年が
列車でゆっくりと追う
夕暮れ近くになると
列車に羊を乗せて
牧舎へと帰る
二番線を通過しながら
少年は一日分
等しく歳をとり
羊は同じ一日で
その何倍かの歳をとる
時々海の珍しいものを
家族に持って帰る
笑うことにも
最近はよく慣れた
羊の群れが通過していく
海の近くに
美味しい牧草地があるのだ
その後を
羊飼いの少年が
列車でゆっくりと追う
夕暮れ近くになると
列車に羊を乗せて
牧舎へと帰る
二番線を通過しながら
少年は一日分
等しく歳をとり
羊は同じ一日で
その何倍かの歳をとる
時々海の珍しいものを
家族に持って帰る
笑うことにも
最近はよく慣れた


/雨が降ってる
小さな砂漠なのだと思う
講師は教壇に立ち
黒板に自分の名を書く
「倉持康雄」
はじめまして、倉持です
皆さんにとって実りのある研修であればいいですね
倉持康雄です
本当は女性に生まれたかったのですが
/白墨は静かに置かれる
雨が降ってる
小さな砂漠、浸透する雨
溜まらない、つまりそれは
探さなくてよいことだから
僕は助かる
助かるのはいつでも僕
茨城県のある地方では
半分くらいの人が倉持さん、という所があります
自分のルーツはそのあたりかな
なんて時々ふと思う日もあります
本当は女性として生まれてきたかったんですよ
/可哀想な感じがしないのは
倉持さんの配慮のおかげだ
僕は倉持さんのことを好きになり始めてる
ねっとりと生温かくスケベなことをしたい
/砂漠を少し歩く
鉄筋コンクリート三階建ての建物がある
金属製のプレートに研修所とある
その隣、窓にすだれのかかっている平屋が
僕の実家だ
/僕はあの実家で生まれたかった
生まれても良かった
実家はいつも汗臭くて
歯磨き粉が足りなかった気がする
私の実家もそうでした
と、後になって倉持さんは述べた
/康雄さんの研修が始まる
それではお手元にあるシートに必要事項を記入してください
/僕は倉持さんの
性器を描いた
砂に埋めるために
顔をあげると
倉持さんはやっと女性に生まれたところだった
黒板に名前が書かれている
「倉持康子」
/良い名前だ
でも僕は康雄という名前が好きだった
好きだったよ、康雄
人は失って初めてその大切さに気づく
康雄さんの性器の絵を消しゴムで消していく
窓の外、実家の者が桶に飲み水を溜めている音が聞こえる
/それでは、と康子さんの研修が始まる
小さな砂漠なのだと思う
講師は教壇に立ち
黒板に自分の名を書く
「倉持康雄」
はじめまして、倉持です
皆さんにとって実りのある研修であればいいですね
倉持康雄です
本当は女性に生まれたかったのですが
/白墨は静かに置かれる
雨が降ってる
小さな砂漠、浸透する雨
溜まらない、つまりそれは
探さなくてよいことだから
僕は助かる
助かるのはいつでも僕
茨城県のある地方では
半分くらいの人が倉持さん、という所があります
自分のルーツはそのあたりかな
なんて時々ふと思う日もあります
本当は女性として生まれてきたかったんですよ
/可哀想な感じがしないのは
倉持さんの配慮のおかげだ
僕は倉持さんのことを好きになり始めてる
ねっとりと生温かくスケベなことをしたい
/砂漠を少し歩く
鉄筋コンクリート三階建ての建物がある
金属製のプレートに研修所とある
その隣、窓にすだれのかかっている平屋が
僕の実家だ
/僕はあの実家で生まれたかった
生まれても良かった
実家はいつも汗臭くて
歯磨き粉が足りなかった気がする
私の実家もそうでした
と、後になって倉持さんは述べた
/康雄さんの研修が始まる
それではお手元にあるシートに必要事項を記入してください
/僕は倉持さんの
性器を描いた
砂に埋めるために
顔をあげると
倉持さんはやっと女性に生まれたところだった
黒板に名前が書かれている
「倉持康子」
/良い名前だ
でも僕は康雄という名前が好きだった
好きだったよ、康雄
人は失って初めてその大切さに気づく
康雄さんの性器の絵を消しゴムで消していく
窓の外、実家の者が桶に飲み水を溜めている音が聞こえる
/それでは、と康子さんの研修が始まる


タクシーに乗って
道を歩く
こんな時間までお仕事ですか?
運転手が尋ねるので
ええ、まあ
と答える
今日は暑かったですね
暑かったですね
本当に暑かったのだろうか
暑かったと答えたのだから
本当に暑かったのだと思う
長い道のりになりそうだ
歩けるのか心配になる
ラジオからナイター中継が流れてくる
一進一退の攻防が繰り広げられているらしい
県道の切れ目
少し奥まったところで
一組の男女が手を挙げている
タクシー、止まる
同時に
わたし、止まる
お客さん、相席よろしいですか
構わないですよ
中年の男女が乗り込んでくる
二人は深刻な様子もなかったが
楽しげでもなかった
タクシー、発車
同時に
わたし、歩き始める
すいません、注文お願いします
恰幅の良い男の方が声を出す
おかみが来る
ビールと枝豆とモツの煮込み
男が注文する
カルボナーラをください
女が注文する
しばらくしてテーブルに料理が並べられる
こちらに遠慮しているのだろうか
二人の会話は弾まない
時々ひそひそと何か話している
以下、漏れ聞こえた言葉の羅列
ソファー、
書類、
ないすい(内水?)、
(ビールを注ぐ音)
お医者さんも、
だって、きゅ、
珍しいなあ、
(枝豆を口に入れて指でさやを押す音)
(さやから水の出る音)
観葉植物の方が、
(煮込みの汁をすする音)
さ、窓口で聞いた
物音ひとつたてずに
女、カルボナーラを食べ終える
ラジオのナイター中継は
相変わらず一進一退の攻防が続いている気がする
タクシー無線が入りしきりに
三号車どうぞ
と繰り返している
わたしは少し歩きつかれたが休むわけにもいかない
お客さんはどこのファン?
いえ、わたしはあまり野球のことは詳しくないんです
そう、このままナイター聞いてていい?
どうぞ、一進一退のようですし
ビールもう一本ください
恰幅の良い男がまた声を出す
タクシー、一番線に到着
同時に
わたし、止まる
扉が開き
たくさんの人が入ってくる
車内が急に込み合う
中年の男女は端の方にテーブルを寄せる
タクシー、発車
同時に
わたし、歩き始める
まだ三号車はつかまらないようだ
本部からの無線は延々と続く
人と人の隙間から先ほどの男女の姿が見える
二人はうつむき
もう話してはいけないことしか残っていない
かのように沈黙している
一進一退が終わらない感じがして
あたりは少し寂しい
窓の外にはありきたりに月がある
月明かりのしたわたしは歩き続ける
お客さん、窮屈ですいませんね
運転手の声が遠くから聞こえる
気にしないでください
と答えはしたものの
それが声なのか
もはや自信もないほどに
少し汗をかいている
道を歩く
こんな時間までお仕事ですか?
運転手が尋ねるので
ええ、まあ
と答える
今日は暑かったですね
暑かったですね
本当に暑かったのだろうか
暑かったと答えたのだから
本当に暑かったのだと思う
長い道のりになりそうだ
歩けるのか心配になる
ラジオからナイター中継が流れてくる
一進一退の攻防が繰り広げられているらしい
県道の切れ目
少し奥まったところで
一組の男女が手を挙げている
タクシー、止まる
同時に
わたし、止まる
お客さん、相席よろしいですか
構わないですよ
中年の男女が乗り込んでくる
二人は深刻な様子もなかったが
楽しげでもなかった
タクシー、発車
同時に
わたし、歩き始める
すいません、注文お願いします
恰幅の良い男の方が声を出す
おかみが来る
ビールと枝豆とモツの煮込み
男が注文する
カルボナーラをください
女が注文する
しばらくしてテーブルに料理が並べられる
こちらに遠慮しているのだろうか
二人の会話は弾まない
時々ひそひそと何か話している
以下、漏れ聞こえた言葉の羅列
ソファー、
書類、
ないすい(内水?)、
(ビールを注ぐ音)
お医者さんも、
だって、きゅ、
珍しいなあ、
(枝豆を口に入れて指でさやを押す音)
(さやから水の出る音)
観葉植物の方が、
(煮込みの汁をすする音)
さ、窓口で聞いた
物音ひとつたてずに
女、カルボナーラを食べ終える
ラジオのナイター中継は
相変わらず一進一退の攻防が続いている気がする
タクシー無線が入りしきりに
三号車どうぞ
と繰り返している
わたしは少し歩きつかれたが休むわけにもいかない
お客さんはどこのファン?
いえ、わたしはあまり野球のことは詳しくないんです
そう、このままナイター聞いてていい?
どうぞ、一進一退のようですし
ビールもう一本ください
恰幅の良い男がまた声を出す
タクシー、一番線に到着
同時に
わたし、止まる
扉が開き
たくさんの人が入ってくる
車内が急に込み合う
中年の男女は端の方にテーブルを寄せる
タクシー、発車
同時に
わたし、歩き始める
まだ三号車はつかまらないようだ
本部からの無線は延々と続く
人と人の隙間から先ほどの男女の姿が見える
二人はうつむき
もう話してはいけないことしか残っていない
かのように沈黙している
一進一退が終わらない感じがして
あたりは少し寂しい
窓の外にはありきたりに月がある
月明かりのしたわたしは歩き続ける
お客さん、窮屈ですいませんね
運転手の声が遠くから聞こえる
気にしないでください
と答えはしたものの
それが声なのか
もはや自信もないほどに
少し汗をかいている


肩が外れた
外れた肩を持って闇市に行った
拾ってきた新聞紙を広げ
粗末な店を開き肩を置いた
たくさんの人が前を通り過ぎた
みな急ぎ足だった
しばらくして
職業軍人らしき人が買っていった
最後までうつむき
目を合わせることはなかった
そのお金で二等車の切符を手に入れて
遊園地に向かった
車内でサンドウィッチを頬張った
ソースの味ばかりがした
遊園地には着いたけれど
帰りの運賃を差し引くと
入場するにはお金が足りなかった
大きな観覧車が場外からでも見えた
街に戻り
残ったお金で初めて女を買った
自分より少し若い感じの女には
同じように肩が無かった
お互いそのことには触れなかった
あの天井のように
遠くに行きたかっただけかもしれない
女の体臭なのか
街の臭いなのか
区別もつかなかった
外れた肩を持って闇市に行った
拾ってきた新聞紙を広げ
粗末な店を開き肩を置いた
たくさんの人が前を通り過ぎた
みな急ぎ足だった
しばらくして
職業軍人らしき人が買っていった
最後までうつむき
目を合わせることはなかった
そのお金で二等車の切符を手に入れて
遊園地に向かった
車内でサンドウィッチを頬張った
ソースの味ばかりがした
遊園地には着いたけれど
帰りの運賃を差し引くと
入場するにはお金が足りなかった
大きな観覧車が場外からでも見えた
街に戻り
残ったお金で初めて女を買った
自分より少し若い感じの女には
同じように肩が無かった
お互いそのことには触れなかった
あの天井のように
遠くに行きたかっただけかもしれない
女の体臭なのか
街の臭いなのか
区別もつかなかった


一度目の恋は恥ずかしくて
愛してる、なんて
言えなかった
二度目の恋は何となく
愛してる、と言った
意味なんてわからなかったけれど
三度目の恋は愛してる、という言葉に
責任を持とうと覚悟した
幸せにしなければいけないと決意もした
そして四度目、あなたに恋をして
愛とは覚悟や決意ではなく
ただ自然に寄り添おうとする
二つの魂の姿だと知った
そんな綺麗事だけではない
ということも
愛してる、と言うと
掌は少し汚れている
誰かを不幸にしているかもしれない
そのことが恥ずかしくて
僕らはいつも
うつむいてしまう
愛してる、なんて
言えなかった
二度目の恋は何となく
愛してる、と言った
意味なんてわからなかったけれど
三度目の恋は愛してる、という言葉に
責任を持とうと覚悟した
幸せにしなければいけないと決意もした
そして四度目、あなたに恋をして
愛とは覚悟や決意ではなく
ただ自然に寄り添おうとする
二つの魂の姿だと知った
そんな綺麗事だけではない
ということも
愛してる、と言うと
掌は少し汚れている
誰かを不幸にしているかもしれない
そのことが恥ずかしくて
僕らはいつも
うつむいてしまう


お父さんが紙をつくってる
つくった紙を僕が並べていく
それがお父さんの廊下
なんだか淋しいところだね、と言うと
お父さんは土を持ってくる
足りないので
何回かに分けて持ってくる
だからお父さんは小さくなって
草花のように何も言わない
そのまま海まで連れて行きたかったのだろうか
貝殻が少し残ってまだ温かい
窓からパン粉工場が見える
お父さん、向こうの空にかかってるのは
虹じゃないよ
あれは陸橋
人がつくった
希望に似てるけど
石の砕いたものや鉄で出来ていて
絶望とも違う
お父さんは頷きながら
それらの景色を指差して
スケッチ
と呼ぶ
つくった紙を僕が並べていく
それがお父さんの廊下
なんだか淋しいところだね、と言うと
お父さんは土を持ってくる
足りないので
何回かに分けて持ってくる
だからお父さんは小さくなって
草花のように何も言わない
そのまま海まで連れて行きたかったのだろうか
貝殻が少し残ってまだ温かい
窓からパン粉工場が見える
お父さん、向こうの空にかかってるのは
虹じゃないよ
あれは陸橋
人がつくった
希望に似てるけど
石の砕いたものや鉄で出来ていて
絶望とも違う
お父さんは頷きながら
それらの景色を指差して
スケッチ
と呼ぶ