プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
58
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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今日もたくさんの道路を見て来たので
君に道路の話をした
色や凹凸について話した
曲がりながら消えていく
その様子や
落ちていたもの
落ちそうになっていたものについて話した
飲食店の前の道路が工事中だったことを話すと
君は悲しそうな顔をして聞いた
うろ覚えの工夫の人数や着ていた服装は
嘘にならない範囲で話した
そして最後に
少しだけ空の話をした
自分も見た、君は言った
物語に出てくるような
きれいな空色の服を君は着ていた
そのことについてではなく
僕が見たのと同じ空の話だった
君に道路の話をした
色や凹凸について話した
曲がりながら消えていく
その様子や
落ちていたもの
落ちそうになっていたものについて話した
飲食店の前の道路が工事中だったことを話すと
君は悲しそうな顔をして聞いた
うろ覚えの工夫の人数や着ていた服装は
嘘にならない範囲で話した
そして最後に
少しだけ空の話をした
自分も見た、君は言った
物語に出てくるような
きれいな空色の服を君は着ていた
そのことについてではなく
僕が見たのと同じ空の話だった
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町外れにある小さな海岸には
波が来るたびに
無数の椅子が打ち上げられる
町に住む子供たちにとって波音とは
木や金属のぶつかったり
こすれたりする音に他ならないので
海遊びをするときは
上手に口真似をして遊ぶ
大人たちは時々椅子を拾いにきて
みな面白いくらいに
自分にふさわしいものを選んでいく
この海の向こうではきっと
椅子に座れなくて困っている人や
椅子に座れなくてほっとしている人たちが
同じ数だけいるのだろう
僕らは椅子に座るために
産まれてきたわけじゃない
けれど産まれてくるためには
たくさんの椅子が必要だった
波が来るたびに
無数の椅子が打ち上げられる
町に住む子供たちにとって波音とは
木や金属のぶつかったり
こすれたりする音に他ならないので
海遊びをするときは
上手に口真似をして遊ぶ
大人たちは時々椅子を拾いにきて
みな面白いくらいに
自分にふさわしいものを選んでいく
この海の向こうではきっと
椅子に座れなくて困っている人や
椅子に座れなくてほっとしている人たちが
同じ数だけいるのだろう
僕らは椅子に座るために
産まれてきたわけじゃない
けれど産まれてくるためには
たくさんの椅子が必要だった


針金を折りたたんでいく、と
先には僕らが息をしている家が見える
目を細めれば海のようなものがあって
僕らはそれを海と呼んだ
その前で君はセーターを編み続け
僕は隣でセーターを食べ続けている
上手くは食べられないけれど
ほめてくれるので少し嬉しい
この子が産まれたら皆でおそろいね
手を休めて幸せの輪郭を撫でる君には
夢を語るべき言葉があり
僕には夢を語らない言葉がない
それよりうまくセーターを食べたいので
針金をさらに折りたたんでいく
やがてそれは点となって
ちゃぶ台を丁寧に拭く
君の後姿が波の向こうに見える
先には僕らが息をしている家が見える
目を細めれば海のようなものがあって
僕らはそれを海と呼んだ
その前で君はセーターを編み続け
僕は隣でセーターを食べ続けている
上手くは食べられないけれど
ほめてくれるので少し嬉しい
この子が産まれたら皆でおそろいね
手を休めて幸せの輪郭を撫でる君には
夢を語るべき言葉があり
僕には夢を語らない言葉がない
それよりうまくセーターを食べたいので
針金をさらに折りたたんでいく
やがてそれは点となって
ちゃぶ台を丁寧に拭く
君の後姿が波の向こうに見える


ホームで君が歌を口ずさむ
それはとても良い音なので
お墓のようなものと間違えてしまう
床に書かれた落書きが
羽をはやして飛び立とうとする
言葉はそんなことをしてはいけない
小さな子供が言い聞かせている
母親は少し遠くにある他の幸せを夢みるように
真新しいブラウスに身を包んでいる
僕が君にあげられるものは
一緒にいる理由だけかもしれない
という言い訳をすると
陽のあたる方に
僕らの目と同じ色の列車が到着する
それはとても良い音なので
お墓のようなものと間違えてしまう
床に書かれた落書きが
羽をはやして飛び立とうとする
言葉はそんなことをしてはいけない
小さな子供が言い聞かせている
母親は少し遠くにある他の幸せを夢みるように
真新しいブラウスに身を包んでいる
僕が君にあげられるものは
一緒にいる理由だけかもしれない
という言い訳をすると
陽のあたる方に
僕らの目と同じ色の列車が到着する


エアー、夏のように
薄い服を着たあなたが
少し口を開けて
世界とつながっている
あなたの唇も手も皺に慣れましたね
前より縮んで
それでもまだ懐かしい
エアー、吸えるものは
たくさん吸っていい
あなたが教えてくれたから
僕は上手に呼吸ができました
もちろんそんな誤魔化しは
いつも僕だけに優しいのだけれど
また過ぎていきますね、エアー
あなたも僕も
いつも隣に何も置いておかない
それを僕らは約束と言いましたか
エアー、あなたは静かに
風になる準備で忙しい
薄い服を着たあなたが
少し口を開けて
世界とつながっている
あなたの唇も手も皺に慣れましたね
前より縮んで
それでもまだ懐かしい
エアー、吸えるものは
たくさん吸っていい
あなたが教えてくれたから
僕は上手に呼吸ができました
もちろんそんな誤魔化しは
いつも僕だけに優しいのだけれど
また過ぎていきますね、エアー
あなたも僕も
いつも隣に何も置いておかない
それを僕らは約束と言いましたか
エアー、あなたは静かに
風になる準備で忙しい


小高い丘に店を開いた
お客が来た
出入り口なので
お客は出ても入っても良かった
晴れた日は
見渡せることろまで見渡せた
雨の日は
屋根や壁に雨があたった
ただここにいて
何かを待っていただけなのだと思う
お客は来続けた
いつまでも
お客しか来なかった
お客が来た
出入り口なので
お客は出ても入っても良かった
晴れた日は
見渡せることろまで見渡せた
雨の日は
屋根や壁に雨があたった
ただここにいて
何かを待っていただけなのだと思う
お客は来続けた
いつまでも
お客しか来なかった


上司のお母さんが亡くなったので
お通夜に行くことになった
周りの人の香典をいくつか預かり
初めての列車に乗った
これから何度乗る機会があるのだろう
列車は住宅街を抜けるように走った
民家の庭先や
木造アパートの小さな灯りをかすめながら
斎場はお焼香の良い匂いがした
上司のお母さんは穏やかに微笑む
一枚の写真だった
子供一同と書かれた花輪
来年退職する上司もその中におさまってる
いつまでも子供として
外に広がる闇は
やがて明日へと引き継がれていく
という迷信を最初に考えた人は
きっと心の優しい人だ
二回目の列車に乗って帰った
お通夜に行くことになった
周りの人の香典をいくつか預かり
初めての列車に乗った
これから何度乗る機会があるのだろう
列車は住宅街を抜けるように走った
民家の庭先や
木造アパートの小さな灯りをかすめながら
斎場はお焼香の良い匂いがした
上司のお母さんは穏やかに微笑む
一枚の写真だった
子供一同と書かれた花輪
来年退職する上司もその中におさまってる
いつまでも子供として
外に広がる闇は
やがて明日へと引き継がれていく
という迷信を最初に考えた人は
きっと心の優しい人だ
二回目の列車に乗って帰った


家の中に線路が開通した
これからは毎日
海へと向かう青い列車が
部屋を通過していくそうだ
最寄の駅はいつも利用している駅だけれど
春になったら小さなお弁当を持って
二人で海を見に行こう
君とそう決めた
お鍋の吹きこぼれる音がしたので
君が慌てて玄関から出て行く
百メートル先の踏切を渡り
また百メートル
キッチンに走って戻ってくる
これからは毎日
海へと向かう青い列車が
部屋を通過していくそうだ
最寄の駅はいつも利用している駅だけれど
春になったら小さなお弁当を持って
二人で海を見に行こう
君とそう決めた
お鍋の吹きこぼれる音がしたので
君が慌てて玄関から出て行く
百メートル先の踏切を渡り
また百メートル
キッチンに走って戻ってくる


石ころが落ちていた
少し透きとおってきれいだったので
拾って帰った
こんなもの拾ってきて
母は決してそう叱らなかった
しばらく手で触ったり眺めたりしたあと
かわいそうだから放してあげて
とだけ言った
今思えば
母にとって
一番つらい時期だった
少し透きとおってきれいだったので
拾って帰った
こんなもの拾ってきて
母は決してそう叱らなかった
しばらく手で触ったり眺めたりしたあと
かわいそうだから放してあげて
とだけ言った
今思えば
母にとって
一番つらい時期だった


家に帰ると門が壊れていた
妻と娘が代わりに立っていた
家の中では妻の短大時代の
同級生だった山本さんがいて
食事の準備をしていた
十年ぶりですね、と言って笑った
煮物の味見をしてあげた
それから娘の連絡帳を確認して
算数の宿題をした
夕食は山本さんと二人で食べた
最後にオレンジをふた切れ食べ
門の役目を交代した
家の中から僕のいない食卓の
笑い声が聞こえてくる
山本さんは昔のように
珍しいウサギの話をしてくれた
髪が風に流れた
その髪に憧れていた時もあった
そう思いたかった
夜はみんな寝た
門の無い家で寝たのは初めてだった
妻と娘が代わりに立っていた
家の中では妻の短大時代の
同級生だった山本さんがいて
食事の準備をしていた
十年ぶりですね、と言って笑った
煮物の味見をしてあげた
それから娘の連絡帳を確認して
算数の宿題をした
夕食は山本さんと二人で食べた
最後にオレンジをふた切れ食べ
門の役目を交代した
家の中から僕のいない食卓の
笑い声が聞こえてくる
山本さんは昔のように
珍しいウサギの話をしてくれた
髪が風に流れた
その髪に憧れていた時もあった
そう思いたかった
夜はみんな寝た
門の無い家で寝たのは初めてだった