忍者ブログ
こっそりと詩を書く男の人
  プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
58
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
  ブログ内検索
  月間アーカイブ

  最新記事
(04/10)
(03/29)
(03/27)
(03/22)
(03/20)
  最新コメント
[09/10 GOKU]
[11/09 つねさん]
[09/20 sechanco]
[06/07 たもつ]
[06/07 宮尾節子]
  最新トラックバック
  投票所
     
クリックで投票
 ↓ ↓ ↓
人気blogランキング
    
  バーコード
  カウンター
[60] [61] [62] [63] [64] [65] [66] [67] [68] [69] [70]
2025/06/13 (Fri)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2007/03/09 (Fri)
今日もたくさんの道路を見て来たので
君に道路の話をした
色や凹凸について話した
曲がりながら消えていく
その様子や
落ちていたもの
落ちそうになっていたものについて話した
飲食店の前の道路が工事中だったことを話すと
君は悲しそうな顔をして聞いた
うろ覚えの工夫の人数や着ていた服装は
嘘にならない範囲で話した
そして最後に
少しだけ空の話をした
自分も見た、君は言った
物語に出てくるような
きれいな空色の服を君は着ていた
そのことについてではなく
僕が見たのと同じ空の話だった
PR
2007/03/07 (Wed)
町外れにある小さな海岸には
波が来るたびに
無数の椅子が打ち上げられる
町に住む子供たちにとって波音とは
木や金属のぶつかったり
こすれたりする音に他ならないので
海遊びをするときは
上手に口真似をして遊ぶ
大人たちは時々椅子を拾いにきて
みな面白いくらいに
自分にふさわしいものを選んでいく
この海の向こうではきっと
椅子に座れなくて困っている人や
椅子に座れなくてほっとしている人たちが
同じ数だけいるのだろう
僕らは椅子に座るために
産まれてきたわけじゃない
けれど産まれてくるためには
たくさんの椅子が必要だった

2007/03/05 (Mon)
針金を折りたたんでいく、と
先には僕らが息をしている家が見える
目を細めれば海のようなものがあって
僕らはそれを海と呼んだ
その前で君はセーターを編み続け
僕は隣でセーターを食べ続けている
上手くは食べられないけれど
ほめてくれるので少し嬉しい
この子が産まれたら皆でおそろいね
手を休めて幸せの輪郭を撫でる君には
夢を語るべき言葉があり
僕には夢を語らない言葉がない
それよりうまくセーターを食べたいので
針金をさらに折りたたんでいく
やがてそれは点となって
ちゃぶ台を丁寧に拭く
君の後姿が波の向こうに見える
2007/03/04 (Sun)
ホームで君が歌を口ずさむ
それはとても良い音なので
お墓のようなものと間違えてしまう
床に書かれた落書きが
羽をはやして飛び立とうとする
言葉はそんなことをしてはいけない
小さな子供が言い聞かせている
母親は少し遠くにある他の幸せを夢みるように
真新しいブラウスに身を包んでいる
僕が君にあげられるものは
一緒にいる理由だけかもしれない
という言い訳をすると
陽のあたる方に
僕らの目と同じ色の列車が到着する


2007/02/26 (Mon)
エアー、夏のように
薄い服を着たあなたが
少し口を開けて
世界とつながっている
あなたの唇も手も皺に慣れましたね
前より縮んで
それでもまだ懐かしい

エアー、吸えるものは
たくさん吸っていい
あなたが教えてくれたから
僕は上手に呼吸ができました
もちろんそんな誤魔化しは
いつも僕だけに優しいのだけれど

また過ぎていきますね、エアー
あなたも僕も
いつも隣に何も置いておかない
それを僕らは約束と言いましたか
エアー、あなたは静かに
風になる準備で忙しい
2007/02/25 (Sun)
小高い丘に店を開いた
お客が来た
出入り口なので
お客は出ても入っても良かった
晴れた日は
見渡せることろまで見渡せた
雨の日は
屋根や壁に雨があたった
ただここにいて
何かを待っていただけなのだと思う
お客は来続けた
いつまでも
お客しか来なかった
2007/02/21 (Wed)
上司のお母さんが亡くなったので
お通夜に行くことになった
周りの人の香典をいくつか預かり
初めての列車に乗った

これから何度乗る機会があるのだろう
列車は住宅街を抜けるように走った
民家の庭先や
木造アパートの小さな灯りをかすめながら

斎場はお焼香の良い匂いがした
上司のお母さんは穏やかに微笑む
一枚の写真だった
子供一同と書かれた花輪
来年退職する上司もその中におさまってる
いつまでも子供として

外に広がる闇は
やがて明日へと引き継がれていく
という迷信を最初に考えた人は
きっと心の優しい人だ
二回目の列車に乗って帰った
2007/02/17 (Sat)
家の中に線路が開通した
これからは毎日
海へと向かう青い列車が
部屋を通過していくそうだ
最寄の駅はいつも利用している駅だけれど
春になったら小さなお弁当を持って
二人で海を見に行こう
君とそう決めた
お鍋の吹きこぼれる音がしたので
君が慌てて玄関から出て行く
百メートル先の踏切を渡り
また百メートル
キッチンに走って戻ってくる
2007/02/15 (Thu)
石ころが落ちていた
少し透きとおってきれいだったので
拾って帰った
こんなもの拾ってきて
母は決してそう叱らなかった
しばらく手で触ったり眺めたりしたあと
かわいそうだから放してあげて
とだけ言った
今思えば
母にとって
一番つらい時期だった
2007/02/11 (Sun)
家に帰ると門が壊れていた
妻と娘が代わりに立っていた
家の中では妻の短大時代の
同級生だった山本さんがいて
食事の準備をしていた
十年ぶりですね、と言って笑った
煮物の味見をしてあげた
それから娘の連絡帳を確認して
算数の宿題をした
夕食は山本さんと二人で食べた
最後にオレンジをふた切れ食べ
門の役目を交代した
家の中から僕のいない食卓の
笑い声が聞こえてくる
山本さんは昔のように
珍しいウサギの話をしてくれた
髪が風に流れた
その髪に憧れていた時もあった
そう思いたかった
夜はみんな寝た
門の無い家で寝たのは初めてだった
忍者ブログ [PR]

* ILLUSTRATION BY nyao *