プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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一人目の盗賊は目を瞑った
二人目の盗賊は葉の匂いをかいだ
三人目の盗賊は百本の口紅を盗んだ後アル中の妻に口紅を一本買って帰った
四人目の盗賊は人形の頭を終日かじり続けた
五人目の盗賊はあと少しだった
六人目の盗賊は海賊に転職するために履歴書を書く練習をしている
七人目の盗賊は偏頭痛がひどかったので八人目の盗賊の右肩を撃った
八人目の盗賊は外国のコメディーを見ながら九人目の盗賊の左大腿骨を撃った
九人目の盗賊は病院に行く途中、道に落ちていた鳥かごにつまずいて死んだ
十人目の盗賊は理由を知らされることなく今日初めて生まれた
初めてみる世界は美しく
そして肌寒かった
やがて温かくなるといつしかそのことは忘れ
新しい経験だけが記憶として積み重ねられた
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昨日より冷たい君の
手を引いて
坂道を上る
君の腕が肩から
肩から抜けてしまわないように
そっと引いて上る
途中、誰がつくったのか知らないけれど
昔からある赤茶けた工業地帯が
野原の奥の方へと連なっている
今日はお土産になりそうな
部品のようなものや
草花のかけらも見つからない
坂の上にある
小さな無人駅の改札を通り抜けて
車両番号の消えかかった列車に乗る
ただ列車の中で
呼吸をするために
とりとめも無い言葉を
拙い接続詞でつないで
発車していく
いつから僕らは
戦うことをあきらめてしまったのだろう
最初のトンネルにさしかかるころには
頭を垂れて
砂糖菓子のように眠っている


硬質に濁ったゼリー状のものの中で
僕らの天気予報は
軋み
軋んだ音をたて
初雪が観測されたことを
伝えようとしている
子どもたちが歩道橋から次々に
ランドセルを落とす遊びをしている
散らばった教科書のページは
鳥になって空へと羽ばたく前に
そのほとんどが車にひかれてしまう
伝えたいことは増えていくばかりなのに
すべてを伝えることなく
僕らの肉体は正確な脆さで
朽ち果てていく
寒くなったね、と
もう呟くことしかできない
珈琲豆を挽く懐かしいあなたの手の甲に
今年初めての雪が
降り積もっている


洗濯機に釣り糸を垂れる
魚が釣れる
うろこが晴れの光に反射してまぶしい
釣り糸を垂れる度に
次々と魚が釣れる
面白いように魚は釣れるけれど
魚は面白くなさそうにこちらを見るばかり
洗濯機を覗き込んでみる
誰かの目の奥のように
真っ暗で
しいんと静まりかえっている
もしかしたら
取り返しのつかないことをしてしまったのではないか
と、突然恐くなり
あわてて洗濯機の蓋を閉める
再び洗濯が始まる
タイマーの残りはあと二十三分
二十三分後に
取り返しのつかないことをしてしまった
と、後悔している自分の姿を想像してみる


これ、以前に頼まれていた資料です
と小田さんの持ってきたコピーが
湿っている
海に行ってきたんですよ
小田さんは微笑んで
きれいな巻貝をお土産にひとつくれた
去っていく小田さんの髪や衣服から
水が滴り落ちて
あたり一面懐かしい潮の匂いがしている
そんなに嬉しかったんだ
そう思うと、何だか可愛そうな気がしたので
今度の週末は涼しい色をしたゼリーなどを持って
海から遠く離れたところにある
小田さんのお墓に行くことにした


不安な気持ちでたまらない、と
夜、入院している父から電話があったので
病院まで行く
今日はリハビリ頑張りすぎて疲れちゃったんだね
そう言って落ち着くまで父の頭を撫でる
その帰り、公園に立ち寄る
周りに誰もいないことを確認して
昔見た映画みたいにブランコに座る
夜になっても
ブランコもジャングルジムも滑り台も
公園の管理者はどこにもしまわない
こうやって必要としている人がいると
知っているからかもしれない
人はたぶん
僕が思っている以上に優しい
生まれてから四十年以上が過ぎた
僕が生まれた頃を知っている人は
大抵が老い
老いたまま逝き
老いることなく逝った
父の頭を撫でるようになるなんて
思ってもみなかった
一度も漕ぐことなくブランコを降りる
漕いでしまえば
楽しかったことばかり
思い出すにちがいないから


部屋にハンカチが落ちていた
ふとした拍子、の形を残して
それから
洗面所で好んでよくうがいをし
何本かの正確ではない平行線を引き
人が衰えていく様子を眺め
時に貧しい正義を振りかざし
そのハンカチを拾い上げるのに
三年かかったのだった


電話回線の中をひとり歩く
途中、水溜りのような海がある
工事のためしばらく混線する恐れがあります、と
電話会社から通知書が届いたばかりだった
仕方なく簡単な水遊びをする
ふやけた体がどことなく透きとおって
薄汚れて見える
脱水症状を起こしたのだろうか
犬がぐったりと軟らかな様子で横たわっている
近くに落ちていた手押し車に乗せて
再び歩き始める
声を聞きたい人がいた
聞いてどうするわけでもないけれど
たぶん、どうもしないと思う
目的の電話番号に着くと
聞いたことの無い声で
知らない名前を告げられた
一言お詫びを述べて帰ることにした
帰り際、犬のために少しの水と
魚の練物製品をいただく
木陰の涼しい場所で犬と別れた
それからしばらくの間は受話器を取ると
波音と犬の鳴き声が微かに聞こえたけれど
工事が終了した旨の通知が届き
必要のないものばかりが後に残った


いつもはわたしが列車を待っているのに
今日は列車がわたしを待っている
ホームにたどり着くと
列車たちは次々と
わたしの中に乗りこんでくる
発車を告げる音楽が鳴り止む
いつも列車がしてくれるみたいに
ゆっくりと出発する
冷房のつけ方がわからないので
せめて新鮮な空気を送れるように
大きく深呼吸する
鉄橋をわたる
濁った川面を小さな魚が跳ねて光る
かつてはあのような粗末なものも
宝物のように集めていた
いま自分は他の人からどのように見えるのか
気になるけれど、こんな日に限って
人っ子一人見つからない
次の駅に向かって
ひたすら線路を歩き続ける
もしかしたら明日は
わたしが線路かもしれない