プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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台所に行くと小さな深海がある
水圧で食器洗浄機が潰れている
よくあることだね
きみが見たこともない魚を
きれいに包丁でさばいている
時々あることだね
たまにあることだね
昔の人はみんな死んでしまった
朝にみんな死んでしまった
思い出のゴミの収集日だけれど
もう何も残ってないね
気持ちいいくらい
すべて捨ててしまったね
今日は一日何をしようか
ゆっくりと浮上しないと
身体の中身とかがとび出しちゃうから
ゆっくりと浮上して
理由もなく笑ったり
理由もなく泣いたり
そんなふうにして過ごすのも
悪くない気がするね
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カマキリ会社のカマキリ社長は
用件が済むと電話を切る
鎌で電話のコードを切る
以下、カマキリ専務、カマキリ部長、
カマキリ課長、カマキリ平社員
みんな電話のコードを切る
だから消耗品のロッカーはいつも
コードのストックであふれている
社内のコスト削減策として
「鎌で電話コードを切らないこと」
が申し合わせをされたけれど
鎌の手入れをしているうちに
みんな忘れてしまう
大事なことも
悲しいことも
すべて忘れてしまう


外付けの階段で子供たちが
ナフタリン遊びをしている
前の道路を走って行った腰痛のバスは
小さな水たまりの側
もの静かなバッタになる
このアパートには冷蔵庫の幽霊が出る
隣室の人にそう言われた夜
僕らは洗濯機の幽霊を見た
翌日、隣人にその話をしても
笑って相手にしてくれなかった
きみの揚げたエビフライを
二人で数本ずつ食べた
何も残らなかったので
これからの夢なども語り合ったけれど
やはりきみと
新婚で良かったと思う


ホタル、採れたよ
光の点滅する虫かごを掲げて
妻と娘が遠くから走ってくる
遅かったじゃないか、心配したんだぞ
そう言って犬と駆け寄る
月明かりの下
家族で手を取り合う
(犬は見上げて尻尾を振ってる)
そしてみんなで
マンホールに落ちていく


フェンスがどこまでも
長く続いている夏
午後、知らない所で
知っている人は逝った
乗客も乗務員も置いて
青い列車は海に向かって出発する
座席には誰かが忘れていった
大人用の眼鏡と
昆虫しか載っていない図鑑
悲しいことばかりではないけれど
悲しいことばかりのように
列車は海へと走る
時には一直線に
時には大きくカーブしながら


ヒグラシが鳴き始めた
雨は降ったり、降らなかったり
時々、知らなかったり
フラスコ売りの兄は
すべてのキャベツを刻み終えると
沈まない潜水艦に乗って
埼玉に帰っていった
父はベッドに寝たまま
これから俺はどこに行けばいいんだ
と言って小銭入れを握りしめている
もう死にたいよ、と母が呟く
俺だって死にたいよ、と返す
いいんだよ、明日になれば
みんな忘れてるんだから
誰も何も覚えてないんだから


テレビで野球中継を見ていると
ボールを渡される
九回裏ツーアウト・スリーボール・ツーストライク
最後の一球を投げるのがぼくの役目らしい
キャッチャーの構えたところに渾身の直球を投げる
バッターが空振りをする
チームメイトがマウンドに走って集まってくる
優勝したのだ
監督が僕の肩に手を置き
もうこんな所に戻ってくるんじゃないぞ、と言う
ぼくは頷いて薄暗いホームから列車に乗る
バッグの中には水着と浮き輪が入っている
海に行こうと思っていたのに
車内でクラゲに刺されて列車を降りる
これで何度目かの途中下車になる
病院の待合室に座っている間に
夜がすっかり更ける
名前を呼ばれて受付にいくと
きみがあの頃と同じ姿で待っている
会いたかったよ、ずっとだ、と
喉まで出かかった言葉を飲み込む
渡された問診票に
言いたくても言えなかった「さよなら」を
一文字一文字丁寧に書く


縄跳び遊びをしていると
友だちの山村さんがやってきて
それ、ヘビだよ、と
声をあげて笑う
よく見るとわたしの握っているのは
ヘビの頭と尻尾
地面に何度も打ちつけられたヘビは
ぐったりと息絶えている
ヘビを殺してしまったのは初めてなので
とてもどきどきしていると
埋めてあげよう、と山村さんは言った
二人で穴を掘り、ヘビを入れて
シャベルで土をかける
しばらくすると、山村さんが
自分に土をかけてるよ、と
いっそう大きな声で笑いだした
気がつくと穴の中にはわたしがいて
自分で頭から土をかけている
泣きながら土をかけている
穴から出て辺りを見まわす
山村さんもヘビもいなければ
縄跳びも穴もない
だだっ広いところに一人で立っている
迷子になったことまでは理解できたけれど
誰を探せばよいのか忘れてしまった