プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
ブログ内検索
カテゴリー
月間アーカイブ
最新コメント
[09/10 GOKU]
[11/09 つねさん]
[09/20 sechanco]
[06/07 たもつ]
[06/07 宮尾節子]
最新トラックバック
カウンター


砂漠の真ん中で
公衆電話が鳴り続けている
そんな気がして目が覚める
妻の寝顔がぼんやりと見える
雨が窓を濡らす音が聞こえる
今夜はきっと砂漠でも
雨が降っていることだろう
PR


蛇口をひねると
シャワーから
大切な恋人が出てきた
大切だから
名前をつけた
お互いの名を呼びながら
シャンプーとリンスの前で
永遠の愛を誓った
そして二人で
排水溝に流れていった


玄関の前にブラジルが落ちていた
おそらくブラジルから
何かに運ばれてきたのだろう
ブラジルに住んでいる人や他の生き物も
ブラジルが見つからなくて大変だろう、と思い
お役所に電話してみたけれど
親切に他のお役所を紹介してくれたり
担当者の不在を教えてくれるだけで
その優しさに心が温まって終わる
家族の者に相談しようとしても
住民票を紛失したかのように
誰も帰ってこない
宅配便で送ろうとして規格外だと断られる
飛行機に乗ってブラジルまで持って行くには
積みこめる大きさではないし
何より行き先のブラジルは今ここにある
やはり海に浮かべて
筏のようにして運ぶしかないのかもしれない
担ぎあげて海へと歩き始める
こんな時に限って昨日よりも暑い
流れる汗を拭いてくれる人にも会わない
そのくせオールをくれる人はたくさんいる
海はさほど遠くないはずなのに
むしろ好んで
逆方向に歩いている気さえしてくる


カーテンの隙間から
漏れる、鉄状のもの
汗や痛みなどの
混濁した
私たちの怒り、は
私たちの表情、は
私たちの時代、は
数回の瞬きのために
無意味なものに
分類されていく
そして都市だけが
膨張し続けるのだ
言葉の変形、切断、
及び溶接によって


空地で少年たちが野球をしていた
打球は大きな弧を描き
空のどこかへと消えて
二度と戻ってくることはなかった
家に帰るとリビングの隅に
ボールが転がっていた
返さなければ、と思い
空地に行くと
少年たちはもういない
空地もすっかり整地され
古い建物が静かに並んでいる
ひとりだけ置いていかれた
自分がしてきたのと同じように
境界杭をそっと踏んで
アウト、と呟いてみる


右手の人差し指が
鍵になってしまった
どこの鍵だろう、と
合いそうな鍵穴を探すけれど
鍵の要らない穴しか見つからない
ふと鏡をみると
自分のおでこのあたりに
それらしき穴がある
ぴったりとはまる
鍵を回した時
自分は開くのだろうか
それとも閉まるのだろうか
そんなことを考えているうちに
左手の方には少しずつ
夏が近づいている


とても柔らかな
パンを焼いていると
わたしの指は
マヨネーズ
できることと
できないことの
お風呂場に散らばった
キュウリの抜け殻を
お父さんはまだ
片付けてくれない
あんなに
採れたてだったのに
ガラス張りのビル
出てくる子どもたち
どうすれば
あそこまで行けるのだろう
言葉とわたしと
ここに置いて


夕暮れの公園で牛が一頭
シーソーに座っている
反対側にトンボがとまる
牛は少し腰を浮かせる
トンボは驚いて
飛び去って行った
しばらくして
男の人がやってくる
牛は腰を浮かす準備をする
男の人はシーソーに座ることなく
公園に置き忘れた
夕日を持って帰った
後には星空と牛が
友だちのように残された


低気圧の接近、
する唇から
漏れる苦い言葉
水へと沈み
二度と浮上しない深海の
珍しい魚になる
従兄は輪転機を回し
僕らの指紋を
大量印刷している
これでも昔はお医者さんだったんだよ
と言って輪転機を回し続けている
今とどちらが幸せか、
なんて言わない
幸せ、の意味すらも
僕らはたぶん知らない