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こっそりと詩を書く男の人
  プロフィール
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たもつ
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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2011/07/11 (Mon)
 
 
砂漠の真ん中で
公衆電話が鳴り続けている
そんな気がして目が覚める
妻の寝顔がぼんやりと見える
雨が窓を濡らす音が聞こえる
今夜はきっと砂漠でも
雨が降っていることだろう
 
 
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2011/07/10 (Sun)
 
 
蛇口をひねると
シャワーから
大切な恋人が出てきた
大切だから
名前をつけた
お互いの名を呼びながら
シャンプーとリンスの前で
永遠の愛を誓った
そして二人で
排水溝に流れていった
  
 
2011/07/09 (Sat)


玄関の前にブラジルが落ちていた
おそらくブラジルから
何かに運ばれてきたのだろう
ブラジルに住んでいる人や他の生き物も
ブラジルが見つからなくて大変だろう、と思い
お役所に電話してみたけれど
親切に他のお役所を紹介してくれたり
担当者の不在を教えてくれるだけで
その優しさに心が温まって終わる
家族の者に相談しようとしても
住民票を紛失したかのように
誰も帰ってこない
宅配便で送ろうとして規格外だと断られる
飛行機に乗ってブラジルまで持って行くには
積みこめる大きさではないし
何より行き先のブラジルは今ここにある
やはり海に浮かべて
筏のようにして運ぶしかないのかもしれない
担ぎあげて海へと歩き始める
こんな時に限って昨日よりも暑い
流れる汗を拭いてくれる人にも会わない
そのくせオールをくれる人はたくさんいる
海はさほど遠くないはずなのに
むしろ好んで
逆方向に歩いている気さえしてくる



2011/07/05 (Tue)


カーテンの隙間から
漏れる、鉄状のもの
汗や痛みなどの
混濁した

私たちの怒り、は
私たちの表情、は
私たちの時代、は
数回の瞬きのために
無意味なものに
分類されていく

そして都市だけが
膨張し続けるのだ
言葉の変形、切断、
及び溶接によって
 
 
2011/07/04 (Mon)
 
 
空地で少年たちが野球をしていた
打球は大きな弧を描き
空のどこかへと消えて
二度と戻ってくることはなかった
家に帰るとリビングの隅に
ボールが転がっていた
返さなければ、と思い
空地に行くと
少年たちはもういない
空地もすっかり整地され
古い建物が静かに並んでいる
ひとりだけ置いていかれた
自分がしてきたのと同じように
境界杭をそっと踏んで
アウト、と呟いてみる
 
 
2011/07/02 (Sat)
 
 
右手の人差し指が
鍵になってしまった
どこの鍵だろう、と
合いそうな鍵穴を探すけれど
鍵の要らない穴しか見つからない
ふと鏡をみると
自分のおでこのあたりに
それらしき穴がある
ぴったりとはまる
鍵を回した時
自分は開くのだろうか
それとも閉まるのだろうか
そんなことを考えているうちに
左手の方には少しずつ
夏が近づいている
  
  
 
2011/07/01 (Fri)
 
 
僕らの日々は
いつも少し淋しいから
食べたり
話したり
触ったりする
電車が止まる
それがあなただったと
後日人から聞いて
初めて知った
 
 
2011/06/30 (Thu)
 
 
とても柔らかな
パンを焼いていると
わたしの指は
マヨネーズ
できることと
できないことの
 
お風呂場に散らばった
キュウリの抜け殻を
お父さんはまだ
片付けてくれない
あんなに
採れたてだったのに

ガラス張りのビル
出てくる子どもたち
どうすれば
あそこまで行けるのだろう
言葉とわたしと
ここに置いて
 
 
2011/06/27 (Mon)
 

夕暮れの公園で牛が一頭
シーソーに座っている
反対側にトンボがとまる
牛は少し腰を浮かせる
トンボは驚いて
飛び去って行った
しばらくして
男の人がやってくる
牛は腰を浮かす準備をする
男の人はシーソーに座ることなく
公園に置き忘れた
夕日を持って帰った
後には星空と牛が
友だちのように残された
 
 
2011/06/26 (Sun)
 
 
低気圧の接近、
する唇から
漏れる苦い言葉
水へと沈み
二度と浮上しない深海の
珍しい魚になる
従兄は輪転機を回し
僕らの指紋を
大量印刷している
これでも昔はお医者さんだったんだよ
と言って輪転機を回し続けている
今とどちらが幸せか、
なんて言わない
幸せ、の意味すらも
僕らはたぶん知らない
 
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *