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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2024/05/17 (Fri)
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2011/10/09 (Sun)
 
 
眠っている祖母の頬に
桜の花びらが一枚落ちる

そんな季節ではないはずなのに
掌に握らせて
悪戯でしょ?と笑ってしまう

見送るつもりが
見送られているのは私たちですね

ほんの少しずつだけれど
背中を押してもらっているのは
私たちの方なのですね
 
  
 
 
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2011/10/08 (Sat)


レストランがあった
メニューのないレストランだった
テーブルクロスがなかった
テーブルも椅子もなかった
シェフがおらず
給仕もいなかった
屋根はなく、壁はなく
建物すらなかった
地面だけが荒野のように
どこまでも広がっている
だから食事中に窓から見える景色は
いつも淋しげであった



2011/09/05 (Mon)
 
 
庭に咲く向日葵の陰で
雑種の犬が寝ている

鼻先に吹いた風は部屋に入り
指先や広げた時刻表の表面を涼しくして
再び外へと出ていく

真昼の駅、三等車に乗って
てんとうむしは出征した
ぼくらが産まれる遥か昔に

きみが冷麦の用意をしている
堅い木の椅子
堅い木の机

 
 
2011/09/04 (Sun)


ビンに入ったボーキサイトの見本を
男は理科室から盗んで逃げた
俺にはアルミニウムが必要だ
俺にはアルミニウムが必要だ
何度も自分に言い聞かせ
蒸し暑い住宅街の闇を疾走する
息が上がり足がもつれても
汗を舐め、走り続ける
逃げ切れたら寝転がろう
それからシャワーを浴びて
白い米の飯を食おう
男を追う者など最初からいない
ただ夏の気配だけが
ぴたぴたと後をついてくるだけである
 
 
2011/09/03 (Sat)
 
 
生温かいザリガニが
真夏の都会を歩く
いたるところから車や人や
ラッパの音が聞こえてくる
そんな暮れ方である
炭酸水を買ってくるように言われ
下働きが走る
近道のフェンスを越える
ザリガニはタクシーに乗る
後部座席、生きて何度目かの
脱皮をする
  
 
2011/09/01 (Thu)
 
 
ガラスに触れるクラゲの触手
骨のない夜、月に発光する

僕らの大切な約束は
フライパンの中
焦げた形の文字列になる

(自転車はさっき片付けておいたから)

どうしてだろう、いつも
悲しみのようなもので
冷蔵庫を満たしてしまうのは
  
  
2011/08/31 (Wed)

街はコップの中にあった
人々は皆
銀色の言葉で話をしていた
消しゴムの形をした像が
中央広場に置かれていた
教訓めいたことが刻まれていた
僕は草色の列車に乗った
寒天の匂いがした
遠くに行きたかった
流れる景色を見ていると
三秒で終点に着いた
新しく住むところを探しに
不動産屋に入った
 
2011/07/18 (Mon)


サラは低所得者用の公営住宅に住んでいる
ある日、軒下にコガタスズメバチの巣ができていた
トックリ状の形をしていて
入口が長く下に向かって伸びている
サラには就学前の二人の娘がいた
年下の亭主は失業中で
アルコール依存症が進行していた
サラは役場に電話し巣の駆除を依頼した
防護服を貸すので自力で駆除するか、
業者を紹介する、もちろん費用は自己負担で、
と言われた
サラは家庭の状況をなるべく詳細に説明した
それでも何も覆ることはなかった
紹介された業者に電話をした
サラのほぼ五日分の賃金にあたる額を要求された
サラは自分で駆除することを決意した
役場で防護服を借りようとした
ついでに電話に出た糞ったれの役人の顔を見てやろうと思った
敗北感を味わうだけの気がしてやめた
二人の娘の面倒を亭主に頼み殺虫剤を買いにでかけた
(亭主は時々怒鳴り散らすことがあった)
(それでも暴力を振るうことはなかった、まだこの頃は)
ドラッグストアを三件回った
散々迷い、噴射式の最新式のものを買った
一番安いものの三倍近くした
それでも業者に頼むよりずっと安かった
駆除はスズメバチの活動が比較的少ない夜に行うことにした
日中、巣の様子を観察した
ハチの出入りは認められなかった
もしかしたら何らかの事情で
ハチは自らの巣を放棄したのではないか、
そんな淡い期待があった
夜になるとサラは長袖のシャツを二枚重ねて着た
ジーンズをはき、手にはゴム手袋をはめた
ただの気休めに過ぎなかった
娘たちには、決して家を出てはいけない、と言い聞かせた
亭主はアルコールに疲れ果てて眠っていた
その眠りが熟睡とは程遠いことは
サラにも何となくわかっていた
巣の真下から手を精一杯伸ばし
入口に向かって殺虫剤を噴射した
霧状の薬で辺りが真っ白になる
視界が晴れるまでしばらく待った
巣に変わった様子はなかった
やはりハチはいなかったのかもしれない
サラは玄関で身に着けていたものを脱ぎ、
薬を洗い流すためにバスルームへと向かった
翌朝、サラはほうきを持って巣を見に行った
サラはほうきで巣を突いた
と同時にハチの襲撃を恐れ十メートほど先まで走った
巣は崩壊し、ほとんどが地面に落ちた
近寄って覗き込む
縞模様の土状の破片や、巣の中身に紛れて
スズメバチの死体があった
巣の中には卵か幼虫か判別できない、
白いものがいくつか見えた
ハチの死に顔は安らかに見えた
「女でひとつで」という言葉が頭をよぎった
「女でひとつで」スズメバチは巣を作り、子育てをしていた
放っておけば事態が悪化することは容易に想像できた
いずれは凶暴な群れ形成する
それでも相手は
母親に成り立ての生身のハチ一匹だった
言い訳ならいくつも思いついた
わかっていた
それらが決して言い訳ではないことも
言い訳、と考えることが自体が
感傷に過ぎないことも
家の中から亭主の怒鳴り声が聞こえる
サラの名を呼んでいた
何度も何度も呼んでいた
幼子のように
救いを求めるかのように
 
2011/07/17 (Sun)
 
 
ビルの隣にビルが立っていた。
ひどく咳き込んでいた。
ビルは私に煙草を請うた。
煙草は吸わないのでその旨を告げた。
ビルの隣に建っているビルに入った。
壁の薄汚れたビルだった。
ブリーフィングの資料を早く作りたかった。
三か月後、ビルは組合交渉に参加した。
それから六年後、ビルは腎臓を患い
定期的に透析を受けることとなった。
家族とは既に別居していた。
その時の私は、といえば
治らない円形脱毛症に悩まされていた。
老朽化のために
ビルが取り壊される四年前のことだった。
新しいビルは二ブロック先に建てられた。
その頃になると
ビルとの音信も特になかった。
  
 
2011/07/13 (Wed)


辞書を落とす
ページがめくれて
言葉が次々と
空にむかって
飛んで行ってしまう
真っ白になった辞書を抱えたまま
駅のある方へ歩く
今日話そうとしていたことは
正確な意味で伝えられるだろうか
ここにいる自分が
本当の自分なのか
説明することさえも
覚束ないのに

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* ILLUSTRATION BY nyao *