プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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毎朝なのかもしれない
ぼくの指は豆腐に刺さって
抜こうとすればするほど
意味との距離が遠ざかっていく
交番に住むアマガエルに
おはようを言うきみの顔が
今日もきれいだから
もう懐かしいことしか
思い出せない
外は雨の日のように静か
雨の日と間違えた人が
傘を差して歩く
ぼくのついた嘘が
細々ときみに伝わる
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熱気球が関東地方の上空を
ゆっくりと飛ぶ
放課後のように
見損ねた夢のように
今日は世界のいたる所
一面の朝でしょう
と、ラジオの人が朗らかに言う
きみは台所で何か千切ってる
ぼくはコンクリートに
何か叩きつけてる
体操の音楽が流れ始めて
ぼくらはまだ
騙されなければならないのか
自分の国に産まれて


信号待ちをしている間
わたしたちは話をしました
空は曇っていました
とても長い信号でした
三十メートルくらいはありました
話も長くなりました
けれどわたしたちの身体と言葉では
五メートルくらいが精一杯でした
結論の出る話ではありませんでしたが
信号が変わったので終わりにしました
鳥が飛び立ちました
そのことについて話をしました
よく見る形と大きさでした
間違えるといけないので
鳥の名前については
二人とも黙っていました


山本さんが一人でぽつんと
落ちていた
落ちちゃったの?と聞くと
落ちちゃったよ、と山本さんは笑った
重力には勝てないよ、と笑った
いつか勝てるといいね、と僕も笑った
秋の空は晴れていた
何も無ければ地平線まで見えるくらいに
いつまでも晴れていた
こんな日は山本さんではない人とも
会いたいと思う


空の重さを支えるように
家という家には屋根がある
その上をきらきらと
小魚の群れが通り過ぎて行く
人は言葉だけで幸せになれるのに
ご飯を食べないと生きていけない
今日の行事は家庭訪問
先生がカバン等を持って
町内を歩いている


犬が僕の名前を呼ぶ
僕が返事をする
また犬が僕の名前を呼ぶ
また僕が返事をする
そんなやり取りが愉快で
何度も繰り返す
そうしているうちに
犬も僕もすっかり年を取った
今、僕はひとりで静かに
フェリーを待ってる


アルミニウムの陰で
子守歌を歌う
眠っている人は
おしゃべりだから
わたしも話せることは
すべて話したくなる
秋雨前線が北上して
他に何もないこの辺りにも
やがて雨が降るだろう
残っていた夏草の匂いで
わたしは指を切った


頭からキノコが生えている
抜いて良いものかどうか
水や肥料をやるべきかどうか
などと迷っているうちに
毎日少しずつ
キノコは大きくなっていく
キノコ生えてるよ
と心配していた妻も娘も
今ではすっかり慣れて
時々、退屈なことのように
触ったりする
キノコが大きくなる一方で
自分は少しずつ小さくなっていく
このままどこに行ってしまうのか
でもそれはそれで
許された、ということなのかもしれない
いつの日か朝の光のなか
家族を見守るように食卓に着いている
そんなキノコの姿を思い浮かべて
胞子をまいたりしてみる


犬小屋を作る
犬がいないので
代わりに自分が中に入る
隣の家から拙いピアノが聞こえる
丸くなりうずくまっていると
昔からずっとこうしていた気がしてくる
前を通る人が
中を覗き込んで口から何か音を出す
あれが言葉というものなのだろう
ピアノはさっき間違えたところを
滑らかに弾いて先に進む
自分の体温で
自分の内側が少しずつ温かくなる
一番近くに自分がいる
そのことに安心して
眠くなってくる


図書館の海に
沈んでいく
『決定版 小林カツ代の毎日おかず』
(今日から使えるシリーズ)
外では間の狭い男が
雨のように泣いている
耳の穴から
半透明の小エビが出てきて
コスモスの近くを飛ぶ
十七歳の飛行機を眺めている