忍者ブログ
こっそりと詩を書く男の人
  プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
  ブログ内検索
  月間アーカイブ

  最新記事
(04/10)
(03/29)
(03/27)
(03/22)
(03/20)
  最新コメント
[09/10 GOKU]
[11/09 つねさん]
[09/20 sechanco]
[06/07 たもつ]
[06/07 宮尾節子]
  最新トラックバック
  投票所
     
クリックで投票
 ↓ ↓ ↓
人気blogランキング
    
  バーコード
  カウンター
[37] [38] [39] [40] [41] [42] [43] [44] [45] [46] [47]
2025/04/23 (Wed)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2010/02/19 (Fri)


右手の人差し指がちくわの穴に刺さって
抜けなくなってしまった
ちくわはとても嫌いなので
食べるわけにもいかない
そのままデートに出かけたけれど
あいにく恋人もちくわが大嫌いなので
食べてもらうわけにもいかず
恋人は始終不機嫌そうにしていて
道の途中でどこかに行ってしまった
右の耳が痒くて掻こうとしても
ちくわが邪魔で上手に掻けない
かといって他の指では駄目なのだ
右手の人差し指とは気持ち良さが違うのだ
何とかして抜かなければならない
ここはひとつ逆転の発想が必要、と思い
引いて駄目なら押してみろと
押してみると指は奥まで入り込んで
ますます抜ける気配がない
こんなの発想の逆転じゃない
指がちくわに刺さったと思うからいけない
ちくわに指が刺さったと思えばなんとかなる
なるわけがない
交番に行っても
民事不介入です、と断られ
病院に行こうとしても
こんな日に限って犬猫病院しか見つからない
専門家にみてもらいにちくわ屋に行ってはみたが
生ものですからお早めにお召し上がりください
と丁寧に教えてもらった
すれ違う人がみな
かわいそうな人を見る目で通り過ぎる
確かに自分は今かわいそうな人かもしれないが
おそらくかわいそうな人の意味が違う
気がつくととっぷりとした夕暮れで
ちくわの穴から覗けば
夕日がきれいに見えたかもしれない
でもちくわは抜けないし
相変わらずちくわが嫌いだから穴を覗くのも嫌だ
このまま放っておいたら腐ってしまう
腐ったちくわなど、腐ってないちくわより嫌いだ
冷蔵庫に入れるしかないのだが
ちくわは一向に抜けない
ならば自分ごと冷蔵庫に入るしかあるまい
人として生まれてきたからにはいつか冷蔵庫に入る日が来る
漠然とそのような覚悟はしていたけれど
まさかちくわのせいでこんなことになるとは思いもよらなかった
扉をしめると暗くて寒い
自分が入るスペースを確保するために
食べられるものはすべて外に出してしまった
ちくわが非常食になるのが
せめてもの救いだった
 
PR
2010/02/17 (Wed)


下着売り場で羽化したセミたちが
越冬のために南へと渡って行くのを
ぼくらは最後まで見届けた

空の遠いところにある白い一筋の線
あれは飛行機雲じゃない
だって、ほら
指で簡単に触れる

葉の中を葉が落ちていく
水の中で水が溺れる
文字の中で文字が沈黙してしまう
抜殻を集める作業の途中
ぎざぎざした硬いところで
ぼくは指を切ったのだった

セミがたどり着く国境近くの小さな村
廃屋に忘れ去られた手づくりの
粗末な人形のすぐ側で
小銃はもう何も壊さず、何の命も奪わず
ゆっくりと朽ち果てていくだろう
誰に見届けられることなく

抜殻を集め終えると
ぼくらは柔らかな記号のように
身体を曲げたり伸ばしたりする
そして
あなたは便箋になる
ぼくは封筒になる
 
 
2010/02/16 (Tue)
 
 
深夜の冷たい台所で
古くなった冷蔵庫が自分で自分を解体していた
もう冷蔵庫であることに
いたたまれなくなったのだ
時々痛そうにはずしたりしながら
それでも手際よく仕事を進めていった
徐々にその面影をなくし
最後にコンセントを抜くと
すべての作業は終わった

翌朝床の上には中に入っていた食品と
ばらばらになった部品が
丁寧に並べられていた
何に必要だったのか
初めて見るような部品もたくさんあって
めずらしかった
別れの手紙を探してみたけれど
冷蔵庫に文字が書けるわけもないし
自分だって
感謝の言葉ひとつかけたことなどなかった

日持ちの悪そうな食べ物は捨てて
他のものはとりあえず涼しい所に置くことにした
郊外の家電量販店に行って新しい型のものを注文した
ばらばらになった冷蔵庫を引き取れるかは状態を見て
と言われた
家に帰り名前のわからない金属製の小さな部品を
日あたりの良い庭の隅に埋めた
しばらくして埋めた所から若い色の芽が出てきた
偶然だと思うけれど
花の咲く植物かもしれない
  
 
2010/02/14 (Sun)
 
 
タンスの引き出しを開ける
中には冷たい水族館がある
死んだミズクラゲが二匹、三匹浮いている
私は係員ではないけれど
係員であるかのように網ですくい上げる
これをどうしようか思っていると
風呂場から余っている洗面器を見つけだして
てろりんと入れる
服とズボンが濡れてしまったので
着替えたかったけれど
あんなにあった衣服や下着は
どうしてしまったのだろう
引き出しを覗き込んでも
水族館では大きい魚が
小さい魚を食べようとしているところしか見えない
壁を一枚隔てた向こう側には
確かに外と道路と民家があるはずなのに
ただ粛々と
ミズクラゲの腐敗した臭いだけがしている
誰かに電話する用事を思い出して受話器を取る
ふとエラ呼吸の仕方を
忘れていたことに気づく
 
 
2010/02/12 (Fri)
 
 
世界中の積木が音もなく崩れ始めた頃
特急列車の白い筐体が最後の醗酵を終えた頃
口笛を吹いていた唇がふと偽物の嘘を呟いた頃
少年から剥がれ落ちた鱗は一匹のアキアカネとなって
ハーモニカ色の空へと飛び立って行った

騒がしい沈黙がある
深く澄んだ騒乱がある
ぼくはある晴れた誕生日の夕方、きみに出しそびれた手紙に残っていた
ありったけの行間を燃やしたのだった

どこかで誰かが銃弾を栞の代わりにして聖書にはさんでいる
シーソー遊びに飽きた若い男女が一枚の様式をベンチに忘れたまま
子供を生みに向日葵畑の向こうへと消えていく

すべての隙間のあちら側には風景があるのだ、と
信じて疑わなかったぼくはすべての隙間を覗き込んでいるうちに
トノサマバッタが引っ張るリヤカーに乗り遅れてしまった
観覧車を掃除していた兄が慰めようとして
鳴かない鳥の鳴き真似をずっとしていてくれた
その声を聞きながらぼくは眠り
深夜になっても眠ったまま朝まで眠った
 
 
2010/02/11 (Thu)
 
 
みかんをむいて父に食べさせると
ぼくはみかんではないのに
お礼を言われた

咳をするしぐさが
父とぼくは良く似ていた
植物に無関心なところも
石鹸で洗う指先の先端の形も
他に似ているところは特にないけれど
おかげでたくさんの人とすれ違っても
父の姿を探すことは容易だった

悔しくて泣いていた子供のぼくを
肩車したのは父だった
確かにあの日ぼくは
空の切れ端を掴んだのだ
記憶が劣化していく中で
今日は昨日より上手く思い出が語れない
かといって何も言わずに父を抱きしめるほど
距離が縮まったわけでもない

大好物のウニの瓶詰めが
食卓に並んだときのように
父がふと笑った
ぼくはウニではないのに
いっしょになって笑った
  
 
2010/02/10 (Wed)
 
 
傘のない世界で
きみに傘の話をしている
小さなバス停に並ぶ他の人たちも
そぼ降る雨に濡れて
皆寒そうにしている

ぼくは傘の話をする
その機能を
その形状を
その色や柄の種類を
まるで見たことがあるかのように

夢みたい、と言って
そんな夢みたいな作り話を
きみは馬鹿にすることもなく
最後まで聞いてくれる

定刻より五分遅れて到着したバスが
定刻より五分遅れて発車する
その行き先が本当に帰るべき場所なのか
ぼくらには確信がなかったけれど
本当に帰るべき場所なのだと
願っていたかった
  
 
2010/02/08 (Mon)
 
 
もずく酢しかない部屋できみは
なくならないもずく酢を
ただひたすら食べ続けている

そんなきみの背中を掻いてあげたいのに
きみには掻くべき背中がない
それよりも前に
ぼくは夕べ深爪をしすぎて
生温かな指先の痛みで
撫でることしかできないのだけれど

きみがもずく酢を食べながら
懐かしそうに故郷の話をしているとなり
ぼくは二人で行くための正確な地図を描く
でも紙も鉛筆もないから
いつまでたってもたどり着かない

あなたも食べていいのよ、と
きみは勧めてくれる
なくならないものを食べると
いつも酸っぱくて悲しい
でもぼくらはただの文字でしかないから
消しゴムで簡単に消えてしまう
 
  
 
2010/02/06 (Sat)
 
 
ぼくが遺書を書く
きみがそれを紙飛行機にして飛ばす

そこかしこに光は降り注ぎ
そこかしこに影をつくっている

紙飛行機が草原に不時着する
文字の無い白い翼のところを
蟻が一匹歩いている
 
 
2010/02/03 (Wed)
 
 
もっと簡単にあなたを愛したい
複雑な手続きなど経ることなく
もっと簡単に
もっと簡略に

僕は僕の皮膚を越えて
外に出て行くことはできない
僕から出て行くのは言葉
それは様々な作業工程の中で作られ
僕の原形はわずかしかない
僕から出て行くのは精子
でもそれはきっと
愛とはちがう

もっと簡単にあなたを愛したい
喩えるものが見つからないけれど
夜中にふとあなたのことを思い出し
目を覚ますときがある
あなたが寝ている
そのとなりで
 
 
忍者ブログ [PR]

* ILLUSTRATION BY nyao *