プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
58
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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台所で人形を洗っていると
まだ生きた人しか洗ったことがないのに
自分の死体を洗っている気がして
かわいそうな感じがしました
列車が到着したので
あまり混んではいなかったけれど
代わりに習ったばかりの
笹舟を浮かべておきました
すでにお義父さんは乗っていて
オルガンの前に座ってました
どうやって音を出すのかわからない
と悲しげな顔をしながら
鍵盤に触っているところでした
あの子をよろしく頼む
お義父さんは言うけれど
どの子があの子なのかわからないから
もしかしたらわたしの
本当のお父さんだったのかもしれません
どこか洗い難いところはあるか聞くので
脇の下
そう答えると
お義父さんは優しい手つきで
人形の腕をもいでくれました
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言葉と
拙い花瓶の
間に
めり込んでいる
弾丸
ある日ふと、音もなく
内戦が始まった日
わたしは回転扉の外で
小指に満たない大きさの
硬い虫をいじっていた
失望し
憤怒し
持っていないからと
人を嘲り
人に嘲られ
それでもわたしは
ただひたすらに
薄っぺらな
祈りの姿勢をしていただろう


ベランダの浮輪に
バッタがつかまってる
夏、海水浴に
行きそびれて
書記官は窓を開ける
木々の梢の近く
監査請求書が何かの水分で
少し湿っている
白墨の匂いを残して
物理の授業中に
少女は遠くへ出かけた
校則が眠たいのは
すべてが言葉だから
間違えてあさっての新聞を
配達した青年が自転車を止めて
荷台の紐を直している
草野原の
平和な戦場で


遺影のある家に行くと
線香の良い匂いがして
羊羹を一口食べた
奥さんがずっと昔からのように
右手で左手を触っている
側では子どもたちがわたしの名前を知っているので
窓から外を見ると
表面の固い道路や他のものなどが
薄っすらとしていた
それらは懐かしい、というよりも
何か買ってあげたい気持ちに近いから
放っておけば溶けてなくなりそうな気がする
名前を覚えている人は必ずいつか死んでしまうし
覚えてない人も今頃はどこかで
生きてないかもしれない
奥さんが食べ残した羊羹を包んでくれている
また手を合わせて
降り始めた、多分あのにわか雨を
わたしは通って行くのだろう


男は椅子に座っている
頭の上には青空が広がっている
けれど屋根に支えられて
男は空に押しつぶされることはない
屋根は壁に支えられ、壁は男の
視線によって支えられている
目を瞑る、それはふさわしかったか
次々と崩れていく音が聞こえ
瞼は沈黙の
悲鳴をあげる


夏至、直射する日光の中
未熟な暴力によって踏み潰された草花と
心音だけのその小さな弔い
駐屯していた一個連隊は
原種農場を右に見て南へ進み始める
わたしは網膜に委任状を殴り書きする
そして不在の
瞼になる


テーブルの向こうには
崖しかないので
わたしは落とさないように
食事をとった
下に海があるということは
波の音でわかるけれど
海鳥の鳴き声ひとつしない
暗く寂しい海だった
残した料理にラップをかけた
それは夜明け前
崖に飛び込んだ
わたしの遺書に違いなかった


鉄鉱石の蜜が街に溢れるころ
虫は人の文字の中で
急激に羽化を始める
かじると化学物質の味がして
その年はひどくうがいが流行った
水は水を乾かし
水は水を空席にする
証言台に立った女の瞬きは
速記官によって克明に記録され
翌日、珍しい化石になるのだった


敷石に降り注ぐ、柔らか
少し離れてある、生に弄ばれた
幼いミズカマキリの死
旧道を走る
路線バス、あれには乗れない
ただの声だから
管理人の男はフェンスをくぐる
その先で交差点は息をひそめ
とてもうまくは思い出せない
男は知っていたのだろうか
そこが空の裂け目だった、と
あっけなく吸い込まれ
後に残されたのは短い夏
そして微量の毒薬