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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
58
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2025/06/10 (Tue)
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2009/06/07 (Sun)
 
 
海の匂いがする
わたしが産まれてきた
昔の日のように

テレビの画面には
男のものとも女のものともわからない
軟らかな性器が映し出され
母は台所の方で
ピチャピチャと
夕食の準備をしている

父は生きている間
階段の手すりを作り続けた
明日こそ代わりに完成させよう
と思うけれど
この家には最初から
二階なんてなかった

ふすまが誰かの眼のように
少し開いている
その向こうで
夕闇が小さな
産声をあげた
 
 
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2009/06/07 (Sun)


月工場で
おじさんたちが
月を作っている
その日の形にあわせて
金属の板をくりぬき
乾いた布で
丁寧に磨いていく

月ができあがると
ロープでゆっくり引き上げる
くりぬいた時の屑は空に撒いて
一群の冷たい星々にする

明日は新月なので
工場はお休み
おじさんたちは
好き勝手な格好で
好き勝手に休日を過ごす

そして自分の悲しみが
人に理解されないことに
時々感謝の気持ちで
いっぱいになる
 
2009/04/13 (Mon)
 
 
街がある
人が歩いている
速度と距離がある
自動販売機に虫がとまっている
市営プールのペンキがはがれている
バス停に男男女男女
窓がある
死体がある
死体の側で泣いている人がいる
死体の側で笑っている人がいる
植物の古い匂いがする
犬の気配がしている
ひたすら時計を分解している人がいる
祈りとエゴとが取り違えられてる
引き続き窓がある
向こう側で
桜の花が湿っている
誰かの慰めのように虹がかかり
それはやがて慰めのように
消えていくはずだ
父さん、
僕はかつてあなたを
殺したかった
丁度あなたが
今の僕と同じくらいの歳でした
この街でした
何もできないくせに
本気でした
  
 
2009/04/06 (Mon)
 
 
目の見えない猫に
少年が絵本を
読み聞かせている

まだ字はわからないけれど
絵から想像した言葉で
ただたどしく
読み聞かせている
 
猫は黙って
耳を傾けている
少年の言葉は
よくわからないけれど

皮膚病で毛の抜けた手を
時々舐めながら
伝わってくるものに
黙って耳を傾けている

ああ、
あれは風の音だよ
僕にも見えない
 
 
2009/03/26 (Thu)
 
 
なんちゃってグミかんで
なんちゃって空ながめてる
俺の手は乾いた床を拭いているから
床のかたまりを拭いているから
俺から離れようとしない
困ったもんだぜ
俺はすっかり歯槽膿漏で
ボロボロだというのに
あの角にある交番は
あの平成になってから設置された交番は
いつしか経営難に陥って
俺の両親が支え続け
ついに昨晩
両親は偽物の手紙になってしまった
もし生まれ変わることができたら
俺は虫になりたい
小さな虫になりたい
そうすれば短い周期で
何度も生まれ変われるだろう
誰も悲しませないだろう
でも大丈夫
生まれ変わるなんてないから
絶対ないから
今日も
なんちゃって空気吸って
なんちゃって空気吐いて
吸う回数と吐く回数が
ニアリーイコールな俺は
ニアることなく
イコることなく
さびれたキャベツ工場で
キャベツの絵を描いてるんだぜ
くそったれ
また脳みその中で友だちが死んだ
みんな死んじまった
一人はアル中、一人は悪性の腫瘍、
あとは死因すら知らねえ
でも
みんな歯槽膿漏だったよ
みんなひとりだったよ
 
  
 
2009/03/18 (Wed)
 
 
母とふたり
二両編成の列車に乗った
並んで座った
心地よい揺れに眠くなったところで
降りるように促された
小さな駅舎を出ると
一面のキリン畑だった
みな太陽の方を向いて
長い影を作っていた
適当なところを見つけて
お弁当を食べた
世界中のキリンはここで生まれるのよ
と、母はいつものように
ぎこちない冗談を言った
あの日、本当は
どこに行きたかったのだろう
ただすべてが温かい気がした
呼吸をしなくても良いなら
そのまま母と
水になりたかった
 
 
 
2009/03/17 (Tue)
 
 
エレベーターが
捨てられていた
たくさんの
手向けの花を積んで
 
吹いている風には
少年の掌のように
静かな水分が含まれている
 
花を一輪
もらって帰り
小瓶に活ける

もう上にも下にも
行く必要はない
僕もまた
誰かのついた
嘘に違いなかった
 
 
2009/03/16 (Mon)
 
 
一枚の雨
窓しかない列車が
なくした足を探していた
わたしがいたら
遊園地がある
その先端の細っこいところ
かわいそうな叔父さんの観覧車は
とても鮫だらけなので
わたしはひとつひとつ
色鉛筆で描かねばならなかった
みな言葉のように湿っていた
おじさんは一言のお礼を残して
ジャングルに入ると
虹織の仕事を始めた
列車はやがて
透きとおった分度器になり
いくつかの角度を測る過程で
わたしは小さな火傷を負った
夜中、ふとした自分の呼吸の音に
目が覚めることもあった
  
 
2009/03/15 (Sun)
 
 
象といっしょに
列車を待ってる
朝からの温かな風が
服の繊維をすり抜けて
僕のところにも届く
こうして春になっていくんだね
明日はまた寒くなって
雪が降るそうだ

昔、象がバスに乗れない詩を書いた
今度はちゃんと乗せてあげたい
僕はこれから大切な人に会いに行く
脚が不自由でもう一人では歩けないから
ほんの少しの間二人で歩こうと思ってる
僕は優しい人
そういうことにしておいてよ

もうすぐ列車が来るね
終点の町には海があるんだ
一番前に乗ろうね
誰よりも早く
海を見ようね





(関連:「同じ目」)
  http://kossoritosi.blog.shinobi.jp/Entry/101/

2009/03/03 (Tue)


掌で階段を育てた
せっかく育てているのだから上ろうとすると
いつもそれは下り階段になってしまって
悲しい人のように下の方を見ていた
その隣を弟は快活に上っていって
一番上まで行くと私に向かって大きく手を降った
掌に階段があったので
手を振り返すことはできなかったけれど
笑顔で返すことはもっと苦手だった
それでも弟は冷え性で冷たい私の指先を取り
温かい、と言ってくれた
近所に小さな戦場があって
毎日砲撃の音が聞こえた
耳で手を塞ごうとしたけれど
掌に階段があったので
やっぱり塞ぐことはできなかった
弟は時々戦場に遊びに行っては
戦利品、と称して
焼け焦げてまだ温かいままの金属片や
イニシャルのようなものが刻まれた装飾品の類を持って帰ってきた
恐くなって庭に埋めようとすると
良い人は戦場では死なないから大丈夫だよ
と弟はまた快活に笑った
良い人は戦場では死なない、ということがわかると
明日は生きてここにいない気がして
弟の戦利品のために何を持っていこうか考えたりもした
もしこれが幼少時代というものならば
掌の階段もすべて枯れて
幼少時代なんていらないと思った
 
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *