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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
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こっそりと詩を書く男の人
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2009/02/25 (Wed)
  
 
石積みの朝
陸橋はその歪んだ影を
路面に落とし
昨日までの工程を語り終えると
あなたは静かに
最後の生理を迎えるのだった
 
+
 
足音が擦り切れていく
あなたにとって唯一の幸せとは
目を瞑ることだった
わたしたちは何度も
お互いの身体を成し遂げている
材質について確認しあい
時々ふと気づくのだった
わたしたちはまだ
声にすぎないのだ、と
 
+
  
すべての建物に
黄砂が優しく降り積もる頃
わたしたちは一枚の様式に
知っている言葉を書き連ねた
命の尊さを語る者に
命の尊さなどわかりはしない
何も誓うことなく
明日咲くかもしれない
つぼみの匂いをかいだ
 
 
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2008/11/06 (Thu)


近所の用水路で小さな魚を捕まえた
家にあった水槽に放し
部屋の日当たりの一番良いところに置いた
魚は黒く細っこくて
その頃のわたしは
なんとなくまだ幼かった
 
+
 
わたしは魚に
「ねむらない」という名前をつけた
「ねむらない」はよく泳ぎ
そして眠らなかった
夜中に起きて水槽を覗いても
「ねむらない」は底の方で
ただじっとしているだけだった

+
 
毎日粉状の餌を少量あげた
餌をあげていると時々は母がやってきて
いっしょに「ねむらない」の様子をながめた
日の光の眩しさに目を細めながら
二人で話をすることもあった
 名前は何ていうの?
 「ねむらない」
 可愛い名前ね
母の眠っている姿を
ほとんど見たことがなかった
夜はわたしより遅く寝たし
朝はわたしが起きるとすでに家のことをしていた
少し古い感じのする母だった
くすんだ色と匂いがよく似合った

+

魚には瞼がなくて
じっとしている時に眠っている
と動物の情報番組で知ったのは
それからもっと先の話
もう「ねむらない」がいない頃の話

+

悲しいことがあるとわたしはいつも
「ねむらない」に話しかけた
悲しいこと、といっても
幼い悲しみなどたかが知れていた
給食が食べられなかったとか
好きな子が他の子と仲良くしてたとか
その程度のこと
先生に怒られたことなんてなかった
そつなく良い子だったから
いじめられたこともないし
積極的にいじめたこともなかった
誰かがいじめられているのを見ると
それが自分でないことに安心した
 
+
  
ある日母がいなくなった
そして新しい母がやってきた
新しい母は前の母より若くて美しかった
立ち居振る舞いも華やかだった
「お母さん」と呼ぶと
父も新しい母もたいそう喜んだ
母がかわった、ということを
わたしは「ねむらない」に話さなかった
多分話せなかったのだと思う
悲しいことがあると相変わらず
「ねむらない」に話しかけた
それだけでわたしは
十分にかわいそうな子だった

+
 
前の母の眠っている姿を
ほとんど見たことがなかった
夜中に目が覚めて
「ねむらない」の水槽を覗いたときも
母は針仕事などをしていた
寝床にいる母が目を瞑ることなく
仰向けのまま豆電球の灯る天井を
じっと見ていたこともあった
表情の無い横顔だった
何か恐くてなって
わたしだけが目を瞑った

+

夏の暑い日だった
 お魚、もう逃がしてあげようか
餌をあげているわたしに新しい母が言った
 お魚、こんな狭いところにいても窮屈よ
「ねむらない」という名前を
新しい母に教えたことはなかった
 それにお魚にも家族がいるはずだし
その後も母の言葉は続いた
わたしは知っていた
きれい好きな母が
みすぼらしい魚や
不衛生な水槽を嫌っていたことを
 
+
 
「ねむらない」を小さな容器に移し
用水路に行くと
わたしは「ねむらない」を捕まえた場所に放した
「ねむらない」は上流の方に頭を向けて
ゆらゆらと泳いだ
暑くてお腹もすいたので早く帰りたかったけれど
お別れに泣かなければいけないような気がして
悲しかったことの断片を
できるだけたくさんかき集めた
どこか遠くの薄暗い部屋で一人
目を瞑って眠っている前の母を思い浮かべて
初めて涙が出てきた
  
 
2008/11/05 (Wed)
 
 
綱わたりをしていると
月がきれいだったので
僕はまっさかさまに落ちていった

形の良い吉川くんがそれを見ていて
僕らはレンガ遊びを続けた
吉川くんはレンガをちゃんと地面に積んで
その様子が少しうらやましかった
僕には何もない
地面も良い形も

このまま落ちていくとどうなるんだろうね
と聞くと
壊れちゃうかもしれないね
吉川くんはこっちを見ないでそう言ったけれど
僕のために泣いてくれた人は
吉川くんが初めてだった

壊れちゃうかもしれないね
落ちる、ということは
多分そういうことだ
僕はふわりと着地して
吉川くんのお通夜に出かけた
 
  
 
2008/11/03 (Mon)


掌は舟
温かくて何も運べない
体液を体中に満たして
今日も生きているみたいだ
塞ぎようのない穴から
時々漏らしながら

階段に座って
ラブソングを歌ったり
駅前の露店で
プラスチックの蛙の玩具を買ったり
そんなことをしているうちに
年なんかとったりして

大切なことのいくつかは
父と母から教わった
そして大切なまま
いつか忘れた
死んでやる
そう言う人間にかぎって決して死なない
と知ってはいたけれど
本当に死んだときは
残酷なくらい自分への言い訳を探した

枕元で扇風機が回っていた夏
幸せ、とは
簡単な遊びだった
空の見えない窓から
空の匂いだけがしたこともあった


2008/11/02 (Sun)
 
 
見渡すかぎり牧場でした
穴がありました
さりさりと音をたてて
ショベルカーが掘っていました
人が幾人か落ちていきました
むかし近くにあって駅みたいでした
僕と僕の大切な人は
落ちないようにまわりこんで
そして歩きました
僕は本当にその人のことが大切でした
カーテンの隙間から凪いだ海と
小規模な紛争だけが覗ける部屋でそう思ってから
そう思っていました
風があたると少し痛い感じがしたので
僕らは隠しました
そして歩きました
言葉にすればやさしいのに
言葉はいつまでも僕らのすべてや
一部ではありませんでした
そして歩きましたが
もうお終いのようなところに座って
夕べ食べた甘い梨の話をしながら
皮膚などを触ったりしました
それから草と日の光で
時計を編みました
首を伸ばして向こうを見ると
産み落とされたたくさんの命と引きかえに
牧場はもうありませんでした
 
  
 
2008/10/31 (Fri)
 
 
会議室を人が歩く
金属や樹脂などでできた
冷水機のようなものがあって
その向こうに浜松町が広がっている
どこまで行っても僕には体しかないのに
ポケットに突っ込んだはずの
手だけが見つからない
誰かの代わりに死んであげたくなるけれど
本当は僕の代わりに
誰かが死んでいるのかもしれなかった
あたたかな陽に包まれて
恋人とそんな恋の話をしていたと思う
たぶんずっとしていたと思う
 
 
2008/10/30 (Thu)
 
 
父の見舞いに行くと言って家を出た
船橋までの直通の快速に乗ったのに
途中千葉駅で降りて映画を見た
アメリカのアクションものだった
無責任に人が死んでいくのが嬉しかった
夏の終わりに蝉が鳴かない
そんな映画が見たかった
見終わると暫くその辺りをうろうろして
結局見舞いに行くことなく帰宅した
どうせばれるに決まってるけれど
言い訳を考えるのも面倒くさかった
何に甘えているのか
父ならわかってくれる気がした
 
 
2008/08/05 (Tue)
 
 
水を降りていく
やましいことなど
何ひとつない

深夜、もういない父の
容態が急変した気がして
親戚を探しに出かける

栞のように
水槽が鳴ってる
 
 
2008/08/03 (Sun)
 
 
夏風邪をひいた駅員が
プールの縁に立って
はしごを眺めている

咳きこむと
口の中で
戸籍は勝手に
書き直されてしまう

向こう側とあちら側が
波のように打ち寄せる
こちら側がゆっくりと
窒息していく

近くの平らなところでは
羽が邪魔して
今日も鳥は空を飛べない
 
 
2008/07/29 (Tue)
 
 
冷蔵庫の中を
クジラが泳ぐ
今日は朝から
ジュースが飲めない
つけあわせの菜っ葉は
鮮やかに茹で上がり
わたしは指と指の間を
紙のようなもので
切ってしまった
 
 
+
 
 
その先に直売所はあった
日当たりの良いところで
年をとった女の人が
あやとりをしていた
子どものころ隕石を拾ったのよ
と時々話す人だった
 
  
+
 
 
靴はほどけていった
靴紐だけを残して
夜の玄関に波はうち寄せ
明日になれば
貝殻などのいらないものも
幼い手に拾えるだろう
 
 
+
 
 
繰り返される
つぶやきや
つぶやきのようなもの
珍しいセミの鳴き真似だ
と、あなたが言うので
逃げていかないように
そっと窓を閉めた
 
 
+
 
 
子供みたいに
あなたと虹をかじっている
臨時列車の
奥に座って
お線香の匂いで思い出す街の途中
誰かの両親みたいに
二人は眠ったのだった
 
 
+
  
  
傘を買った
いっしょに傘たても買った
犬は買わなかったけれど
買ったテレビで犬を見ていた
という気がするので
傘と傘たてを買いに
夕暮れの外へ
ハンカチのように出かけた
 
 
+
 
 
色鉛筆で履歴書を描く
色の足りないところは
他の色で埋めた
長い戦争が終わり
母は鯉や赤犬を食べて
生きのびた
わたしはその体のどこかで
まだ卵にもほど遠い
何かの形をしていたと思う
  
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *