プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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ヒグラシが鳴き始めた
雨は降ったり、降らなかったり
時々、知らなかったり
フラスコ売りの兄は
すべてのキャベツを刻み終えると
沈まない潜水艦に乗って
埼玉に帰っていった
父はベッドに寝たまま
これから俺はどこに行けばいいんだ
と言って小銭入れを握りしめている
もう死にたいよ、と母が呟く
俺だって死にたいよ、と返す
いいんだよ、明日になれば
みんな忘れてるんだから
誰も何も覚えてないんだから
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テレビで野球中継を見ていると
ボールを渡される
九回裏ツーアウト・スリーボール・ツーストライク
最後の一球を投げるのがぼくの役目らしい
キャッチャーの構えたところに渾身の直球を投げる
バッターが空振りをする
チームメイトがマウンドに走って集まってくる
優勝したのだ
監督が僕の肩に手を置き
もうこんな所に戻ってくるんじゃないぞ、と言う
ぼくは頷いて薄暗いホームから列車に乗る
バッグの中には水着と浮き輪が入っている
海に行こうと思っていたのに
車内でクラゲに刺されて列車を降りる
これで何度目かの途中下車になる
病院の待合室に座っている間に
夜がすっかり更ける
名前を呼ばれて受付にいくと
きみがあの頃と同じ姿で待っている
会いたかったよ、ずっとだ、と
喉まで出かかった言葉を飲み込む
渡された問診票に
言いたくても言えなかった「さよなら」を
一文字一文字丁寧に書く


縄跳び遊びをしていると
友だちの山村さんがやってきて
それ、ヘビだよ、と
声をあげて笑う
よく見るとわたしの握っているのは
ヘビの頭と尻尾
地面に何度も打ちつけられたヘビは
ぐったりと息絶えている
ヘビを殺してしまったのは初めてなので
とてもどきどきしていると
埋めてあげよう、と山村さんは言った
二人で穴を掘り、ヘビを入れて
シャベルで土をかける
しばらくすると、山村さんが
自分に土をかけてるよ、と
いっそう大きな声で笑いだした
気がつくと穴の中にはわたしがいて
自分で頭から土をかけている
泣きながら土をかけている
穴から出て辺りを見まわす
山村さんもヘビもいなければ
縄跳びも穴もない
だだっ広いところに一人で立っている
迷子になったことまでは理解できたけれど
誰を探せばよいのか忘れてしまった


潮風が吹くだけの頁がある
そこまで読むと
少年はいつも眠くなってしまう
少しずつ部屋に隙間ができる
西日とともに
明日、と呼ばれる不安が
部屋を満たし始める
ハエが小さな声で鳴く
テーブルの隅で
夏に別れを告げている


壊れたヤドカリが階段を上る
その先には二階があるだけなのに
暑いと感じる人は、暑い、と言う
今日という退屈な一日
下駄屋のおじいさんが亡くなった
母を斎場まで車で送った
一時間後に迎えに行った
昨日は普段着で買い物をしていたけれど
今は喪服で話をしている
読みかけの本には栞の代わりに
小型のウミウシを挟んでおいた
頁は水分で湿っているだろう


どこかで小型犬が吠えている
真夏なのに帽子を被った女性の人が
オレンジ色の自動車を運転している
ガソリンは昨日より一リットルあたり二円安い
空は曇っている、天気予報士がしゃべったとおりに
さっきまで、きみと手を繋いで歩いていたはずなのに
いつの間にか壊れたメトロノームを引きずっている
メトロノームは壊れていく
外側のプラスチックはあちらこちら欠けて
いろいろな音をたてて壊れていく
同じくらいの背丈の人とすれ違う
その背中ではセミの幼虫が羽化している
観察日記をつけながら少年がその後を歩いて行く
もしかしたら、きみ、なんて人は
最初からいなかったんじゃないか、と思い始めてる
でも、実際にこうして手を繋いでいるし
いくつかの口癖も鮮明に思い出せるのだ


キャッチャーがサインを出す
マウンドでは扇風機が首を振っている
サインを変える
それでも扇風機は首を振る
そうしているうちに
野手も打者も応援団も実況席も
夏の暑さに溶けていく
サインは一向に決まらない
たとえ一人と一台だけ残されても
戦いは続く


午後八時五十分発の
てんとう虫に乗る
潰さないように気を付けていると
言葉に疲れた兄が一人やってきて
優しい飲み水を差し入れしてくれた
ありがとうございました
そうお礼言う前に
てんとう虫は発車してしまった
月が明るくて
星の少ない夜だけど
今度てんとう虫が停車したら
洒落たカーテンを買って
窓に飾ろうと思う
こうして少しずつ剥がれていくんだね
剥がれて小さくなって
見えなくなっていくんだね