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こっそりと詩を書く男の人
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たもつ
年齢:
56
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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2011/11/16 (Wed)
 
  
海へと下りていく小道に
一匹のセミがいた
地面にしがみつくように
じっと静かにしていた
指で摘んでも動かない
すでに命は失われていた
次から間違えないよう
ひっくり返しておいた
 
  
 
 
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2011/11/15 (Tue)
 
 
透明人間が
影ふみをしていた
人数はわからないけれど
楽しそうな声が
風と風の隙間から
聞こえてくる
影がないので
いつまでも終わらない
いつまでも終わらない遊び
終わらない夏
 
  
 
2011/11/14 (Mon)
 
 
母が滑り台で遊んでいる
すぐに、つまらない、と言い出して
妹のあきよさんと裏山の藪に入っていった
インターホンが鳴る
野口さんが玄関に立っている
タッパの中身は手作りの牛乳羮だろう
野口さんのお葬式、行けなくてごめんね
野口さんは黙って手を振って笑う
いつもの仕種で笑う
最後は笑うしかないもんね
そう思うと
もう野口さんに会えないことがわかる
部屋では看護疲れの母が畳に寝ている
東京に行くからスーツに着替えさせてくれ
ベッドの父がいつもより少し元気な声で言う
東京は昨日行ったでしょう、と言うと
そうか、昨日行ったか、と笑う
裏山から帰って来た母が目を覚ます
大きな荷物を抱えて
妻も買い物から帰ってくる
何があっても最後は笑う
絶対に笑う
  
 
2011/11/13 (Sun)


誰もいない夜明けの街を
少年が黙って自転車をこぐ
真面目に呼吸を続けながら

サルは今も進化と退化の中を
死にそうになりながら
生きているころだろう

エロい身体をした僕は、夕べ
たくさんの貧乏くじを作った
自分のささやかな不幸を
引き当てて楽しむために

窓を開ける
どこまでも美しく
市町村が広がっている
 


2011/11/12 (Sat)
 
 
駅前に無料相談所があった
男の人に相談した
普通の感じがする人だった
無料だった
銀行強盗を終えたきみと待ち合わせて
涼しい喫茶店に入った
二人でチョコのパフェを頼んだ
周りの人たちが
ゆっくりと笑っている
よく冷えたメニューの文字を
いつまでも触り続けた
  
 
 
 
2011/11/11 (Fri)
 
 
陸地では使われなくなった文字が
水槽に降り積もっている
僕はエスカレーターから
その様子を眺めている
前の人の袖が
風のようなものに揺れて
明日になれば
おそらく別の人の後ろにいる
父の心は少年になって
会津の野山を走り回っている頃だろう
足が遅い僕には捕まえられない
  
 
2011/11/09 (Wed)


海の生き物と話す
ヘモグロビンの傘を差して
今日は関節の痛い日です
海底を転がるまあるい心電図と
ぜんまい仕掛けで動き出す言葉
僕は夏至行きのバスで吸った息を
今、吐き出してる
その気泡でイルカたちは遊びだす
高速道路の下に
小さな虹がかかったよ
皆で見に行こう
絵は僕が描くから
皆で見に行こう
 
2011/11/07 (Mon)
 
 
道に紙が落ちていた
人の名前が書いてあった
知らない名前だった
畳んでポケットにしまった
家に帰って紙を広げた
十分経っても知らない名前だった
ひどく蒸して
退屈な夏だった
死ぬ、という言葉が
お守りのように大切だった
  
 
 
 
2011/10/31 (Mon)
  
 
キリンの背中に乗っている間に
世界は終わった
大好きだった人たちも
名前すら知らない人たちも
見慣れた建物も、古代の遺跡も
季節の匂いも
すべて跡形も無く消えてしまった
出来るだけ長い時間をかけて
キリンと一緒に黙祷をした
僕らのいなくなった世界では
キリンと僕のお葬式が
しめやかに執り行われているだろう
  

 
 
 
2011/10/30 (Sun)
 
 
誰かが僕の名前を呼ぶ
はあい、と返事をして
中に招き入れようとするけれど
この部屋にはドアも窓もない
外は秋が始まっている頃だろうか
何度か名前を呼んで
声は聞こえなくなり
また僕が一人残される
それでもせっかくの平日なので
銀行に出かける
 
  
 
 
 
 
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* ILLUSTRATION BY nyao *