プロフィール
HN:
たもつ
年齢:
57
性別:
男性
誕生日:
1967/06/05
自己紹介:
こっそりと詩を書く男の人
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海へと下りていく小道に
一匹のセミがいた
地面にしがみつくように
じっと静かにしていた
指で摘んでも動かない
すでに命は失われていた
次から間違えないよう
ひっくり返しておいた
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母が滑り台で遊んでいる
すぐに、つまらない、と言い出して
妹のあきよさんと裏山の藪に入っていった
インターホンが鳴る
野口さんが玄関に立っている
タッパの中身は手作りの牛乳羮だろう
野口さんのお葬式、行けなくてごめんね
野口さんは黙って手を振って笑う
いつもの仕種で笑う
最後は笑うしかないもんね
そう思うと
もう野口さんに会えないことがわかる
部屋では看護疲れの母が畳に寝ている
東京に行くからスーツに着替えさせてくれ
ベッドの父がいつもより少し元気な声で言う
東京は昨日行ったでしょう、と言うと
そうか、昨日行ったか、と笑う
裏山から帰って来た母が目を覚ます
大きな荷物を抱えて
妻も買い物から帰ってくる
何があっても最後は笑う
絶対に笑う


誰もいない夜明けの街を
少年が黙って自転車をこぐ
真面目に呼吸を続けながら
サルは今も進化と退化の中を
死にそうになりながら
生きているころだろう
エロい身体をした僕は、夕べ
たくさんの貧乏くじを作った
自分のささやかな不幸を
引き当てて楽しむために
窓を開ける
どこまでも美しく
市町村が広がっている


駅前に無料相談所があった
男の人に相談した
普通の感じがする人だった
無料だった
銀行強盗を終えたきみと待ち合わせて
涼しい喫茶店に入った
二人でチョコのパフェを頼んだ
周りの人たちが
ゆっくりと笑っている
よく冷えたメニューの文字を
いつまでも触り続けた


陸地では使われなくなった文字が
水槽に降り積もっている
僕はエスカレーターから
その様子を眺めている
前の人の袖が
風のようなものに揺れて
明日になれば
おそらく別の人の後ろにいる
父の心は少年になって
会津の野山を走り回っている頃だろう
足が遅い僕には捕まえられない


海の生き物と話す
ヘモグロビンの傘を差して
今日は関節の痛い日です
海底を転がるまあるい心電図と
ぜんまい仕掛けで動き出す言葉
僕は夏至行きのバスで吸った息を
今、吐き出してる
その気泡でイルカたちは遊びだす
高速道路の下に
小さな虹がかかったよ
皆で見に行こう
絵は僕が描くから
皆で見に行こう


道に紙が落ちていた
人の名前が書いてあった
知らない名前だった
畳んでポケットにしまった
家に帰って紙を広げた
十分経っても知らない名前だった
ひどく蒸して
退屈な夏だった
死ぬ、という言葉が
お守りのように大切だった


キリンの背中に乗っている間に
世界は終わった
大好きだった人たちも
名前すら知らない人たちも
見慣れた建物も、古代の遺跡も
季節の匂いも
すべて跡形も無く消えてしまった
出来るだけ長い時間をかけて
キリンと一緒に黙祷をした
僕らのいなくなった世界では
キリンと僕のお葬式が
しめやかに執り行われているだろう


誰かが僕の名前を呼ぶ
はあい、と返事をして
中に招き入れようとするけれど
この部屋にはドアも窓もない
外は秋が始まっている頃だろうか
何度か名前を呼んで
声は聞こえなくなり
また僕が一人残される
それでもせっかくの平日なので
銀行に出かける